魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜

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王妃リーリアムラー

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『あの王はただのバカでいればよかったのに、戦バカに変化してしまったのね』
「変化というか、劣化です、母上」

隣国の透明な魔石から聞こえてくるのは、リーリシャリムとよく似た声、よく似た手厳しい内容。

『まあとにかく、ガツンと言ってやるわ。無知は罪なのよ』

マリベルが大量の紙束を転送の魔術具で送ったのである。
魔石からガサガサと紙をめくる音がする。

『マリベル、でいいのかしら?これは全部目を通すわね?』
「はい、1級文官のマリベルでございます。印がついたものが全体をまとめたものです、まずはそちらを見てください」

沈黙がしばらく続く。

『……バカなまつりごとにバカな戦でうちの大事な義理の息子を犬死させようとするバカはボッコボコにしてやらなくてはね』

怖い。
マリベルが満足そうにニコニコしている。
怖い。

『詳しく読み込んでから、竜を乗り継いで夕方にはそちらに着くように向かうわ。出迎えの準備をしていてちょうだい』
「魔石交換いたしますか?国王におつなぎいたしますが」

イズールが聞くと、

「話す暇が惜しいわ。けれど、いい機会だからせいぜい勉強させてあげましょう。同じ資料を渡しておいてちょうだい。概要だけでも頭に叩き込ませる人が……いるかしら?』
「残念ですが、現宰相は他国との商いの方に比重を置いておりまして」
『マリベル、資料を作ったのはあなたでしょう?』
「残念ながら私の拙い説明ではご理解いただけないのではないかと思います」
『バカだからね。でも、声を上げないのも罪なのよ……仕方ないのだけれどねぇ』

ため息が透明な魔石から漏れ、

『じゃあ僭越ながら私がお相手しますわ』

と、言う言葉と共に光が消えた。

「相変わらず容赦がなくて得体のしれない人だな、母上は」
「さすが親子ね」
「似ていらっしゃるんですね」

俺はあんなじゃない、と、不満そうにリーリシャリムが果実水をまた舐めた。
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