魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜

文字の大きさ
44 / 59

和平協定の儀にて

しおりを挟む
ハポン王国の王都、エドゥ。
広い円形の舞台の上でメーユ国の国王、メドジェ族の代表が向かい合い、ハポン国の国王夫妻が間に立っている。
その向かい側に、イズールと、なぜかネリーとセイランが控えている。
長い金髪のカツラに白のベールをまとい、イズールは寒さに耐えていた。
厚着はしていたが所詮は衣装、冷たい風を防ぎきれない。
舞台化粧が顔の上でパリパリしている感じがする。
優雅に見えるように何度も練習させられた礼を全方向に3人でしてみせると、メーユ国の軍とメドジェ族をはじめとする原住民族の連合軍、両方から歓声が上がった。

(今までで一番の規模だわ)

セイランが奏で始めた変拍子にびっくりする。
ネリーが当然のように踊り始めた。

(歌える、確かに歌えるけれど、不意打ちは困るわ!)

太く震える声を長く出して、あの日歌った歌をまた歌う。
メドジェ族の民なのであろう男たちが一緒に歌いだす。

(そう、本当は、これはみんなで歌ってこその歌なのよね)

それにかぶせるように女たちの歌声が今度は響きはじめ、何と黒紺地に鮮やかな色の刺繍で飾られた服を着た老婆たちがちょこちょこと舞台に上がってきて歌いながら踊り始めた。
ネリーもセイランも当然のような顔をしているので、自分も

「演出ですよ」

という顔で歌うしかない。
平和を願い自然と共に生きるメドジェ族の歌の次は、もっと小さな部族の歌、さらに次の部族の歌……
ただ聴いただけでは分からないが、各部族ごとに節回しが違う複雑な曲と踊りなのだ。
短期間でネリーとセイランはよくこれを覚えたものである。
昔の記憶を頼りに、次々にイズールは声を出す。

セイランは原住民族の曲の合間に巧みにメーユの曲を挟み込み、ネリーが舞う。
引きずられるようにイズールは歌った。

原住民族の連合軍もメーユ軍も合いの手を入れて、老婆たちが曲に合わせてくるりくるりと回ると、鮮やかな色の刺繍の黒紺地の衣装が美しく広がった。
広場は大歓声で満ちた。
演者3人の役目は無事終わった。
そして、長い和平の式典が終了に近づく。

(誓いを交わせば終わりだけれど)

イズールは気を抜かずメーユの国王を見た。
このバカは最後まで何をするか分からない。

(いざとなれば物理の力で私が何とかしてやる)

メーユの国王がメドジェ族の族長に向かう。
しかし、それにかまわずメドジェ族の族長は演者3人に向かって歩いてきた。
とまどうメーユ軍をよそに、原住民族の連合軍は浮かれた声を上げている。
まだ幼い少年の暗い朱色の髪、青い瞳の族長は、ネリーの前に立って、彼女を見上げる。族長の頭の位置にあるネリーの腰に、手に持っていた黒紺地に鮮やかな色で刺繍された布を巻き付けた。

(あれは確か、メソ族の花嫁衣裳)

メーユでは流行らないが、諸外国では芸術品として珍重されているものだ。
族長がネリーを見上げて何か言い、横につきそった男がネリーに付け加えると、顔を赤くしてかがんだネリーが族長を抱きしめた。
老婆たちが衣装を広げて回る。
婚礼を祝う舞である。

「まあ、おめでたいこと」

セイランは満足そうに銀色の目を細めている。
メーユの国王は呆然とし、ハポン国王夫妻は落ち着き払っている。
族長がセイランとイズールに向き直ってほほえんだ。
つきそっていた男がそっとイズールにささやく。

「きれいになったね、イズール」

式典用の笑顔のままでイズールも小さく答えた。

「父さんも無事で何よりよ」

セイランは満足そうに銀色の目を細めている。
その後、両国の和平協定は結ばれたのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...