魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜

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森の奥にある岩場をひたすら下って、細くなってゆくその岩場を最後まで下って行くと、ミナモトだと教えられた。
キヤイルの母が作った白い衣をまとい、父が作った丈夫な革の靴を履いて、ネリーはキヤイルに導かれ足元の悪い道を歩いていく。
ボルフには悪いが、キヤイルが来てくれてよかった。
戦況は今のところこちらに有利らしいが、キヤイルがいなくなったことに気づかれ始めている、とボルフが困った顔をしていた。

「一応手は打ってあるけれど、なるべく早く戻ってきてほしい」

と言われてキヤイルが文句を言った。

「普通は昼と夜が7回変わるくらいかかるじゃないか」
「戦の途中なんだ、キヤイル。本当は一時もお前に村から離れて欲しくないんだよ」

ボルフはため息をつく。
こんな大変な子どもにさらに重荷を背負わせたくない。
命だって救いたい。
慣れないから大変だろうとボルフに心配されたが、生まれ育った孤児院は半分が海の上だった。岩場は苦手ではない。
ネリーを導くキヤイルが何度もふり返り、歩く速度を上げていく。
体力のある踊り子のネリーでなくてはついていけなかっただろう。

「セイランが来ていたらあきらめているところね」

幼いころから一緒に育った琴の名手を思い出して呟くと、キヤイルが振り返った。

「セイランって、ネリーのつがいになる者か?」
「つがいというか……大事な人の一人よ」

今頃一人で慰問をしているだろうか。
やけにメーユが遠く感じる。

「メーユでは一人にたくさんの相手を持つ者もいると聞いた。セイランはそうか」
「ちがうわ、一人の人を大事にするでしょう」
「ネリーはセイランが好きか」
「好きよ?」

キヤイルがぷいっと前を向くと、さらに速度を上げて下り始めた。

「ちょっとゆっくり歩いてちょうだい」

ついていけなくなったネリーを振り返らずに、

「もう少しだから」

と、答えたキヤイルの声が震えている。
後ろから見えるキヤイルのあごからしずくが落ちるのが見えて、

(あっ、泣かせちゃった)

とネリーは焦る。
ほたりほたりと涙が足元に落ちると、そこから光る水が湧き出てきた。
湧き出した水は二人の身体をからめとり、押し流してゆく。
はぐれるまいと細く短いキヤイルの腕がネリーを抱きしめた。
息は不思議と苦しくない。

「ミナモトにつながった」

キヤイルがつぶやいた。
どうやら、近道に成功したらしい。
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