魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜

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急がねばならないはずなのに、準備に1カ月もかけるなんてどうかしている。
それでも異常な速さで準備しているのだと言われて驚く。

「ミナモトに行くには特別な衣がいるんだ」

キヤイルはちょこちょこと自分についてきて、一生懸命に教えてくれた。
かまわれたいのだろう、と孤児院の子どもたちを思い出して聞いてあげる。

「特別な衣って?」
「祈りを込めて母さんが育てて紡いで織った布を、衣に仕立てないといけないんだ。それでなくては神があらわれないんだよ」
「なんであなたのお母さんの衣でなくてはならないの?」

びっくりした顔をされる。

「だって、ネリーはおれのつがいじゃないか」

ネリーこそびっくりする。

「私は私の命を救ってくれたあなたの命を救いたいだけよ」
「でも」

キヤイルは真っ赤になって言う。

「一緒に寝ようって言ったのに」

あの時は狼がかわいくて、動物が好きだからそう言ったのだ。
自分はうっかり魔獣を誘ってしまっていたのだと気づいてネリーも真っ赤になった。

(私は何をしてしまったのだろう)

それでは元はと言えばゲーナのことも自分が原因ではないか。

「一生懸命踊って来るからね」

と頭をなでるネリーの手をキヤイルはパンとはじいた。
幼い瞳に涙がにじんでいる。
どうしよう、とネリーは途方に暮れた。
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