魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜

文字の大きさ
上 下
52 / 59

かわいいひと:4

しおりを挟む
「お前はまだ乙女なのだね」

黒紺の頭巾をかぶったしわくちゃの老婆がちょっと驚いたように言った。
重く垂れ下がった瞼の下の目がネリーを見ている。
ボルフも驚いたようにネリーを見る。

「王都で、踊り子をやっていて、その年で……」
「私は国の宝なのよ。誰にも手は出させないわ」

恥ずかしい気持ちをこらえ、きっぱりとネリーは言い切る。

「昨夜の踊りのことは儂も聞いたよ」

老婆は低く笑うとうーむ、と考え込む。

「ミナモトで踊りを捧げさせてみよう。もしかしたら神々が助けてくれるかもしれんよ」

一瞬流れた沈黙を破ったのはキヤイルだった。

「ミナモトは危険だ」
「そんなことは言っていられないだろう。自分の命がかかっているんだよ」

ボルフがキヤイルの頭をポン、と叩いた。

「俺はまだ成人していない。ついていく」
「キヤイルは族長だろう。民を見ていなくては」
「魔獣になれないなら俺がいてもいなくても同じだ」

孤児院の子どもたちとそう変わらない年頃なのに、この子はなんて大変そうなんだろう。
私もこれまでかなり大変だったけれど、これは大変の質と桁が違う。
言い合う二人を手で止め、ネリーはきっぱりと言った。

「ミナモトへ行くわ。教えてちょうだい」

◇◇◇

「神につながる?」

メーユには神がいない。
いや、公式には国王が神なのだとされているが、実際には誰にも信じられていないのだ。
無駄な戦ばかり好む国王は、確かに神ではないだろう。
隣国ハポンでは神がいすぎて何を信じたらいいか分からない状態らしい。
うさんくさいな、という顔をしたネリーにボルフが熱心に言いつのる。

「ミナモトは成人前の子どもか乙女でないと行けないんだ。とにかくそこで一生懸命踊ってきてくれたらいい」

踊って何になるというのだろう。

「とにかく神につながるんだ。婆様が言うならキヤイルが死ぬのを止められるんだろう。僕は奇跡を何度も見てきたからね」
「だけど、ミナモトは危険だ」

一生懸命言いすがるキヤイルにネリーはほほえんだ。

「ミナモトで踊るわ」
しおりを挟む

処理中です...