ザマァサレテカラ日記~悪役令嬢はその後どうなった?~

押野桜

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翼よ!あれが首都の灯だ

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「今日はお祭りなの?」

私がキャリンに訪ねると、目を閉じたままのキャリンが「さあね」と答えて竜使いの騎士たちが笑う。
日が落ちても夜目のきく特別な竜に乗って夕暮れすぎ、今やっと私たちは首都メーユの上空までたどり着いたところだ。

(明るく輝く光は何だろう?)

ぐんぐん陸上に近づくと、それがメーユの街の灯りであることが分かってきた。

「竜は王宮に戻るけれど、君たちは王宮では気詰まりだろう?花街にちょうど竜の停まれる宿があるからそこで下りよう」

花街に行きたいのは自分ではないのか、という言葉を飲み込んで悪役令嬢スマイルを浮かべる。
キャリンも花街が初めてらしく(そりゃそうだ)土地勘がないわ、などと言っている。
花街はハポン国では流行の発信地の一つだった。
ドレスの柄や形、化粧の仕方、髪型など、一流の妓女の扱ったものが庶民に伝わっていくのである。
男にこびて品がないと言う人もいたが、ハポン国時代の私は積極的に取り入れていた。
エドモンドをたらしこむためであったが、今は自分のためにおしゃれをしたい。
花街を横目に見ながら、街の素人美人を観察しよう。
私は顔のパーツの配置はバランスが取れているが、目が細いので、ひと工夫がないととたんに地味すぎる顔になってしまうのである。

「花街をちょっと歩けば北門に出るから、そのあたりの宿で泊まってもいいと思うよ」

北門までは送ってくれないのである。
まあ、ここまででも十分お世話になりました。
ギュイッ、と竜が鳴いてフワリと妓楼の屋上に着陸すると、竜使いの騎士たちはウキウキと嬉しそうに私たちを降ろしてくれた。

「長旅お世話になりました、ありがとうございます。何かお礼をさせて下さい」
「いやいや、特別手当がつくし、仕事だから大丈夫……」

と言いかけて、止まる。
何か言いたそうだ、と待っていると、遠慮しいしい話し出した。

「君たち、旅の途中でいきなり髪や肌がきれいになっただろう?ひいきの子が髪が少し荒れて困っていてさ。何か秘密があるのかな」

二人で顔を見合わせて、私がうなずいてみせると、キャリンが荷物の中から整髪料の入った瓶を取り出した。

「小指の爪くらいを手のひらに広げて温めて、髪全体に伸ばしてつければいい、と伝えてください。唇に塗ってもいいです」

大喜びされて、ついでにお勧めの食事処を教えてもらって私たちは花街に放流された。


***


ハポン国と比べて、メーユ国の妓女は地味だった。
というより、メーユ国全体で、一見手をかけていないように見える自然な化粧や髪形が流行しているようなのだ。
花街からメーユ王国で一番栄えていると言われる北門前に移動して確信した。
これではハポン国から来たばかりの私が妓女と言われるはずだわ。
素人の女性たちはほぼ素肌のまま、目元と唇にわずかな色とツヤ、頬をほのかに染めるだけで街を歩いていた。
花街から北門へ行く道すがらに見た妓女たちも、一見素肌のように見える。
しかし、この私は騙せないよ。
上等のおしろいを使い、不規則な生活からくる肌荒れを丁寧に隠しているでしょう。
頬もほんのりと、でも確かに色っぽく染めて、目の周りと胸元には金粉、銀粉が散りばめられている。
確かに露出度は高いが特に派手な色のドレスの妓女はおらず、しかし、暗い色の生地に銀糸や金糸で刺繍をしていたり、黒いつやのある布に同じ輝く黒が織り込んである。
妓女でこの程度なのである。
しかし、妓女には物足りなさはなかった。
シンプルだがそっけないわけではなく、抑えた色香が漂ってくるようだ。
食事処に向かう途中にあった女性向けの店に入って、さらにその簡素さに戸惑う。

(言いにくいけれど、せめて、色のついたものを着なさいよ!)

着ていてつまらないではないか、と訴えるとキャリンは困った顔をした。

「数年前に国土拡大戦争が終わった後、財政難が発表されて、庶民の暮らしをぐっと抑えることになったのよ。違反すれば捕まってしまうわ」

色や柄は気分を上げる大事なものだ。

「庶民が着るものも綿と麻と決められているの」

キャリンの言葉に閃いた。
サリラ様の家への訪問は5日後だ。
首都メーユの流行は抑えた。
さて、大商人サリラ様をびっくりさせちゃおうかな!
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