独占欲強めの最高神は、モブ娘からの一途な愛をお望みです!

弥生ちえ

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序章

第7話 【攻略対象 勇者アルルク】モブ村娘、覚醒!?

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 彼女の足の裏に地面の感覚は無い。視界は天地がさかさまになって、アルルクが見せたことのない険しい形相で、レーナの元へ駆け寄ってくる。水桶を右手に振り上げて。

『なにバカなことやってんの』

 そう言ってレーナは笑おうとした。だが、彼女の視界いっぱいに鮮血が飛び散って、声でなく咳ばかりが込み上げる。気道に妙に多くの何かが入り込んだせいで、息を吸うことが出来ない上に、咳ばかりが次々に出て来る。胸がつぶれるくらいの息苦しさに、身体を二つに折り曲げようとしたレーナは、そこで初めて自身の脇腹に深々と突き刺さった異形の爪を目に映した。

「よくもレーナを殺したなぁぁぁーーーー!!!!」

 えっぐえっぐと泣きながら、アルルクが水桶を振り上げて、異形に叩き付ける。何度も何度も、離れては勢いをつけて飛び掛かりながら桶で殴りつける。

(そんなもので叩いて効くわけないじゃない! 10歳の子供がこんな化け物にかなうわけないじゃない! それにわたし生きてるし!! なにより死んだと思ったなら、アルルクだけでも逃げなさいよっ!!! 駄目だ、こんなおバカを置いて死ぬわけにいかないわーーーーーー!!!!)

 声が出ない分、強く強く心の内で叫んだレーナの腹の底がカッと熱を持ち、静電気の様な鋭い痛みが体の中で弾けた。と同時に「ビキン」と響く硬質な音を、彼女は自分の中から聞いた気がした。

「ぐぎゃぉぉぉおおぉぉぉ!!!!」

 獣の様な咆哮が上がり、脇腹に感じていた熱が消え去ったと感じた瞬間、レーナの小さな体は空中に放り出された。さっきの硬い音は、どうやらレーナを空中に縫い留めていた異形の指と爪がまとめて切断された音だったようだ。そうレーナが理解したのも束の間、支えを失った彼女は、そのまま地面めがけて吸い寄せられる。

「レーナをかえせぇぇぇーーーーーーっ!!!!」

 凄い勢いで近付く地面とレーナの間に、涙と鼻水で顔中をぐちゃぐちゃにしたアルルクが割り込んだ。

 どぅ

 鈍い音がして、異形に何度目かの突撃をしようとしたアルルクと、その上に落下したレーナが揃って地面に叩き付けられる。

 ざんっ

 前向きに倒れこんだアルルクの目の前の地面を抉る様に、異形の尻尾と鋭い爪が突き立てられる。

「――っぶねー!!」

「ほんとよ! 桶なんかで飛び掛かるなんて危なすぎるわ!!」

「ぅわ! 生きてる!!!」

 小柄とはいえ、落下してきたレーナの下敷きになったにもかかわらず、即座に身体を起こして叫んだアルルクに、彼女もつられて声を上げる。しかも生きていることに驚愕されて、複雑な心持ちのレーナだ。文句を言おうとした彼女からパッと視線を外したアルルクは、すぐさま上に乗っかったレーナを振り落とす勢いで身を起こし、未だ地面に爪と尾を突き立てた姿勢の異形に飛び掛かる姿勢を見せる。

「これ!」

 咄嗟に、レーナがアルルクに差し出したのは、さっき自分の体内から「ビキン」と硬質な音を立てて飛び出して来たモノだ。水桶よりはマシな武器になると判断したレーナが、反射的に手渡した物だったが、アルルクは左手に水桶を持ったまま、右手にソレを握りしめて飛び出した。

「たぁぁぁーーーっ!!」

 一際大きく声を上げ、地面を蹴ったアルルクはどこからそんな力が湧いたのかと思うほど勢い良く、異形の懐に飛び込んで行く。

「ぐおおぉぉぉ!!!!」

 迎え撃つ異形も彼の気勢に呼応して、咆哮を上げる。

 異形は長い尾を振り回して、アルルクを叩き伏せようとした。けれど彼は大きな身体をしなやかに逸らせ、巧みにその攻撃をかわす。

 次いで、鋭い爪がまっすぐ心臓を狙ってきたところを、左手に持った水桶を盾の様に構えて長い爪の側面に押し当て、軌道を変えていなした。

 飛び掛かる勢いのまま異形の懐に入ったアルルクは、飛び掛かる勢いを保ちつつ、全体重も乗せながら右手に握りしめたレーナに渡されたモノ――異形自身の片手を突き出す。

 どん

 塊同士がぶつかり合った鈍くて硬い音が響いて、それまで激しく動いていたアルルクと異形はぴたりと静止した。

「アルル……ク……?」

 言いようのない不安に襲われて、レーナは動かない幼馴染の名前を呼ぶ。

 背中しか見えないアルルクがどうなっているのかは分からない。けれど、こちらに顔を向けている異形が、酷く歪んだ表情をして唸り声も上げられず、ただ大きな口をはくはくと動かすのが見えた。

(アルルクの攻撃が――もしかして、ちゃんと当たった……の?)

 一筋の光明が見えた気がした途端、アルルクの小さな背中の中央にぽつりと赤い染みが浮き出て来る。その染みが段々と範囲を広げる意味が分からず、いや、理解するのを拒否したままレーナは凝視し続ける。

 すると、その染みの中央から、彼が武器として手にしていたはずの異形の爪が1本、2本と突き出て来た。
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