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序章
第8話 【攻略対象 勇者アルルク】とんでもない欠陥を持つ力
しおりを挟む「なんで」
そう呟いたものの、レーナにはその状況が示す意味はしっかりと理解できていた。彼女が奪い、アルルクの武器となったのとは反対の、もう一方残った異形の手が彼を貫いたのだ。
さっきまで、うっとうしいくらいしつこく話し掛け、まとわりついていたのに、今は―――動かない。
まだ10歳でしかない幼さで、レーナを襲った異形を許せないと、自分の危険を顧みずに立ち向かって行った少年がぴくりとも―――動かない。
「アルルク!!!」
レーナが、叫びながら全体が赤黒く染まった背中に駆け寄り、無我夢中で異形の爪に貫かれたままのアルルクにしがみつく。至近距離で見れば、アルルクの顔は真っ青になっていたが、満足げに笑みを浮かべている。何故と視線を漂わせれば、彼の右手に握りしめた武器が、しっかりと異形の胸に刺し込まれていた。
「やだ! だめ! なに満足そうな顔してんの!? アルルクみたいなおバカさんが、そんな格好つけなくたっていいのに! これから大きくなって、どんどん賢くなって……それからちゃんと格好つければ良いんだよ!? だから、こんなちっちゃいままで終わっていいはずないんだからーーーーーーー!!!」
レーナの叫びが響くと、満面の笑みだったアルルクの顔面が、かすかに喧しそうにしかめられた。
(生きてる! まだ生きてる!! そう、生きなきゃダメだからっ!!!!)
彼女の強い願いに呼応するように、再びレーナの腹の底がカッと熱を持ち、静電気の様な鋭い痛みが、アルルクに触れる彼女の全身の至る所で弾ける。すると、アルルクの全身が力強い赤の輝きに包まれ、彼の髪を燃え立つような深紅に染め上げた。同時に、さっきレーナが自身の体内で聞いたのと同じ「ビキン」と云う硬質な音がアルルクの中から響く。
「ぐぎゃぉぉぉーーーーーーーーーーおおぉぉぉ!!!!」
その瞬間、静かに胸を貫かれていた異形は、村まで轟く凄まじい咆哮をあげた。
おぞましい叫びを上げた異形は、両方の手先が無くなった腕と、アルルクが刺し貫いた胸、そして口から真っ黒い液体を撒き散らしながらその場に崩れ落ちる。
いつの間にか、アルルクと異形を縫い止めていた『爪』は消え去り、支えを失った2人もごろりと地面に転がった。
「レーナ! ぶじか!?」
すぐさま身を起こしたアルルクが、レーナの両肩をがっしりした手で引っ付かんで、ガクガクと揺さぶる。
「だいじょ・ぶ・だからっ ほっと・いてっ」
とんでもない疲れに襲われていたレーナは、顔をひきつらせるしかない。経験したことの無い大きな疲労感は安堵のせいなのか、アルルクに「生きて」と念じていたときに感じた全身の力が持っていかれるような感覚のせいなのかはわからない。
……いや、分かる気がするが、放っておくことにしたのだ。
自分を一般庶民転生だと信じて疑わなかったレーナだが、さすがに2度も短時間に同じ現象が起これば気付く。
レーナには、他素材を使って肉体を再構築する力――修繕と呼べる力があるようだった。
その力が働いて、異形から深手を負ったはずの自分やアルルクの体は、怪我した箇所に接していた異形の手を素材として傷を塞いだのだ。転生でこの世界に肉体を再構築したレーナだからこそ備わったものなのかもしれない。
けれど、この力はとんでもない欠陥がある。
アルルクの破れた服から覗く胸は、確かにきれいに傷口が塞がっている。けれど代わりに異形の身体を覆っていた様な鱗が、刺し貫かれていたところに薄っすらと散っているのだ。鱗は、肌色よりほんの少し赤い色だったから目立ちにくくはあるけれど、人間の肌としては異常だ。何が起こるかわかったものではない、とんでもない合体を実現してしまう困った力であるようだ。
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