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序章
第9話 【攻略対象 勇者アルルク】覚醒は無かったことにするモブ村娘
しおりを挟む「レーナ! だいじょうぶ、じゃないよな!? しんでたもんな! やっぱ無事じゃないよな! 村まで抱えてってやるよ!」
「へ!?」
レーナが自分の修繕能力について考え込んでいると、いきなりアルルクが、背中と尻の下に両腕を差し入れてきた。まさかのお姫様抱っこ――にしては尻の下を支えるのは歪だしスマートではないが――とにかく、頼りないおバカな子だと思っていた相手に、全く結びつかない行動を取られて、レーナは心底びっくりして「ぎゃぁ」と声を上げた。
すると、アルルクも驚いたのか、レーナをわずかながら持ち上げていたはずの腕から、咄嗟に力がぬけたのだろう。ドスンと音を立てて、レーナの尻が地面を打った。
「――ったぁぃ! アルルクったら、なにするのよぉ」
「…………」
レーナが抗議の声を上げるが、相手からは何の反応も帰ってこない。それどころか、何故か扇であおがれたようにパッサパッサと風が吹く。一体何をやっているんだと、レーナが抗議の意思を込めて、アルルクの顔をばっと仰ぎ見たところで―――彼女はぴたりと静止した。
「ぎゃぉぅん」
彼の顔があった位置に、情けない鳴き声を上げた小型犬サイズの赤いちびドラゴンが、小さな羽根で羽ばたきながら、そこに浮かんでいたのだった。
「かっ……かわ、可愛いぃぃっ!!!」
「ぅみぎゃぉぉっ!?」
得体が知れなくとも可愛いは正義だ。レーナは、ほとんど脊髄反射でちびドラゴンに飛びついて抱え込み、がっちりと羽交い絞めにしてすりすりと頬擦りする。
「みゃっ!? ぎゃぉっ! みぎゃぅっ!!」
必死で抗議の声を上げ、じたばたと藻掻いて拘束から逃れようとするちびドラゴンから、シュウシュウと何かが噴き出す音が響いてくる。しまいには、本当にドラゴンの全身から湯が沸いたような蒸気が噴出してきた。
「あちっ!!」
思わずレーナがドラゴンから身を引けば、目の前が真っ白になるほどの蒸気が一気に「ぼふんっ」と噴出し、濛々とした煙の中から赤いドラゴンの代わりに、真っ赤に顔を染めた赤髪のアルルクが現れた。
(って――。あれ? 赤髪で、ドラゴンに変身するビジュアルに、なんだか覚えが……)
突然、目の前の光景に閃いた妙な既視感に首を傾げつつ、レーナは再びその姿を見てハッと目を見開く。毎日纏わりついていたのに気付かなかったけれど、のめり込んだソーシャルゲームに彼が居たからだ。
――ヒロインの幼馴染ポジションの攻略対象『ドラゴンの力を秘めた、赤髪の勇者アルルク』。
(正統派ヒーローらしい設定だと思ってたけど、まさかわたしのせいで半ドラゴン化しちゃったのぉぉ!? 普通の人間だったのに、あの化け物と合成したせいよね! 罪悪感が半端ないわ……。それに、水桶片手に涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で泣き喚いて、あげくにわたしのこと勝手に死んだなんて決めつけちゃうような薄情者よ!? 攻略対象って言われてもピンとこないわー)
レーナには、手のかかる鼻たれ坊主にしか見えないアルルクなのだ。彼には是非とも何処かから現れるヒロイン聖女と結ばれて、この世界を救ってほしい。そう、他人事に考えるのだった。
✼••┈┈┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈┈┈••✼
奇妙な姿の骸は、一見して誰もが事態の重大性を感じずにはいられないものだった。だから異形の出現と、アルルクの活躍はすぐに村長から領主へ伝わり、ひと月を経ずして国王へと奏上された。
そう言う訳で、異形退治からわずか1か月の後、王都からの遣いが、高位神官を伴ってアルルクの家を訪れたのだった。
国王の遣いとしてやって来た高位神官らは、異形の骸を確認し、それを『魔族』だと断じた。数百年に一度、国の滅亡の予兆として出現すると言い伝えられる存在だ。さらには、それをたった一人で討伐したアルルクは、神から特別な救国の能力を与えられているはずだと、恭しく宣告された。そして、その能力を確認し、より確かなものとするするため、アルルクは彼らと共に王都へ行くことになった。
生まれながら持つ特別な救国の能力。すなわちそれは神からの『加護』と呼ばれ、それを持つ人間は、この世界でもごく稀な存在だ。そして、その能力は最高神リュザスを祀る神殿の頂点――王都大神殿でのみ神託で知ることが出来る。何人もの高位神官が、祭壇に設えられた巨大な蛋白石に多大な魔力を捧げ、神託を授かるのだ。そこで加護が確定されれば、アルルクは国王直々の恵まれた環境で更に能力を磨くことになるのだという。
こうして、10歳のアルルクは王都の大神殿に赴き、正式に『勇者』の神託を授かるのだった。
ちなみにレーナは、魔族に襲われながらも勇者に助けられ、奇跡的に生き延びた『ただの村娘』として記録に残された。
レーナが脇腹に致命傷を負いながらも、修繕能力で治していたことは本人だけしか分からないことだったし、その本人が口を噤んだのだから仕方がない。それに、とんでもない合体を実現してしまう困った力を、大っぴらにしたくはなかったし、何よりアルルクを治して以降、他人の怪我は、どんな些細な擦り傷であっても治すことは出来なくなってしまったのだから仕方がないのである。
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