10 / 237
第1章 精霊姫 編
第10話 【攻略対象 辺境伯令息】警邏隊詰所で自己流トレーニング
しおりを挟むアルルクを伴った一行が王都へ向かった。
村では、騒がしい鼻たれ小僧が居なくなり、ほんのちょっと物足りない日常が始まった――だけではなかった。
レーナやアルルクの故郷である『プペ村』は、王国内で初めて魔族が確認された地として、隣接するシュルベルツ領のドリアーデ辺境伯率いる領兵をはじめとした、多くの兵士が常駐することになったのだ。幸いにして、いまだ2体目の魔族の出現は確認されてはいないが、以前の様に子供だけで村の外へ気軽に出かけることは出来なくなってしまった。
つまり、レーナの仕事だった水仕事のピンチである。
村には、公共の井戸が点在しているのだが、小柄なレーナは力も弱く、一人では井戸から釣瓶を引き上げることもできない。だから、これまでは村の外の清流に出掛けて洗濯や食器洗い、ついでに沐浴もささっと済ませていたのだ。
「レーナ、危険なことは絶対にダメよ? あなたがお家のことを手伝ってくれるのは嬉しいけれど、そのために危険な目に遭ったら、お母さんはとっても悲しいんだから」
「いいか? 愛らしすぎる俺の娘は、いくらしっかりしていると言っても、こんなにも壊れやすそうで、本当に目の中に入っちゃいそうなくらいの尊い存在なんだから。何かあったらお父さんは、絶対に立ち直る自信なんか無いんだからな!?」
家族そろっての朝食が済み、水の確保に頭を悩ませつつ食器を集めていたレーナに、両親が真剣な面持ちで口を開いた。
母は心配し、父は鬱陶しい思いの丈をぶつけて来る。だから母とレーナが揃って眉間に皺を寄せて、父に冷たい視線を向けたのは仕方ない。
「お母さん、わたし思うんだけど、このままこの村に籠っていたら、お父さんが駄目になっちゃう気がするの」
「奇遇ね、私もそんな気がしてきたところよ。子煩悩で可愛い夫だと思って来たけど、レーナがしっかりしすぎているから、却って子供に甘えて欲しいかまってちゃんの、束縛父になってる気がするわ」
円形の食卓でレーナと母は、額を寄せてヒソヒソと囁き会う。当然そうなると一人蚊帳の外になった父が、もの言いたげに女性陣を見詰めながら、しょぼんと眉尻を下げている。まるで置いてけぼりをくらった飼い犬だ。
(うちは両親に娘一人の3人家族なのよね。一人っ子の一人娘だから、余計にお父さんの溺愛っぷりが加速してるのよ、きっと)
これはダメだ――と、レーナはある決意をして、細い腕にぐっと力を入れ、小さな両手を握り締めて父に力強い視線を向ける。
「決めたわ! わたし、お父さんが子離れできるように、もっと強くなる!! とりあえず身体を鍛えて、力をつけるからっ」
(そしてもう少し成長した暁には、最推しのリュザス様を探す旅に出るのーー!)
心の中で前世以来の萌える想いを滾らせたレーナの決意表明に、父はこの世の終わりの表情を見せ、母は苦笑を浮かべた。
村の中に設けられた、簡素な木組みの一階建ての小屋。一見しただけでは分からないが、そこがレーナの父が勤務するプペ村唯一の警邏隊本部だ。
その正面扉には申し訳程度の看板が付いている。まな板サイズの白木の板は、表面が深緑に塗られていて『警邏隊詰所』と彫り込まれており、離れて見れば文字が白く浮き上がる。
警邏隊と銘打たれてはいるけれど、その役割は文面とはかなりかけ離れた穏やかなものだ。村中が顔見知りで、もとより余所者も足を運ばない辺鄙な土地柄だけあって、これまで武力に頼るような事件が起こることもなかった。だから警邏隊員の仕事はもっぱら老人たちの力仕事の手伝いや、急病人を治療所へ搬送するくらいのもの。たまの武力行使は酔っ払い同士のけんかの仲裁といったところだった。いわば村人たちのお助け屋である。レーナの父も、恵まれた体格を活用できるこの職場で、大いに村人らに貢献し、周囲からの信頼を集めている。自慢の父ではあるのだ。
ただ、過保護すぎる点を除けば。
「レーナっ! 絶対に遠くへ言っちゃダメだぞ! 村の人たちの目に入るところに居るんだぞ!?」
「分かってるから。知らない兵士さんについていったり、村の外へ出たりはしないから」
レーナが今いる場所は、父の日勤に合わせてやって来た警邏隊の屋外訓練施設だ。ここは長閑なプペ村らしく、普段は村民のトレーニング用としても解放されている。繰り返し言おう、レーナが今いる場所は警邏隊の敷地内だ。それなのに過分な心配をする父親なのだ。
くどくどと何度も伝えられた注意事項を復唱すれば、父は不承不承ながらレーナから離れて、屋外訓練施設に隣接する事務所棟へと入って行った。何度もちらちらと振り返りながら。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる