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第1章 精霊姫 編
第10話 【攻略対象 辺境伯令息】警邏隊詰所で自己流トレーニング
しおりを挟むアルルクを伴った一行が王都へ向かった。
村では、騒がしい鼻たれ小僧が居なくなり、ほんのちょっと物足りない日常が始まった――だけではなかった。
レーナやアルルクの故郷である『プペ村』は、王国内で初めて魔族が確認された地として、隣接するシュルベルツ領のドリアーデ辺境伯率いる領兵をはじめとした、多くの兵士が常駐することになったのだ。幸いにして、いまだ2体目の魔族の出現は確認されてはいないが、以前の様に子供だけで村の外へ気軽に出かけることは出来なくなってしまった。
つまり、レーナの仕事だった水仕事のピンチである。
村には、公共の井戸が点在しているのだが、小柄なレーナは力も弱く、一人では井戸から釣瓶を引き上げることもできない。だから、これまでは村の外の清流に出掛けて洗濯や食器洗い、ついでに沐浴もささっと済ませていたのだ。
「レーナ、危険なことは絶対にダメよ? あなたがお家のことを手伝ってくれるのは嬉しいけれど、そのために危険な目に遭ったら、お母さんはとっても悲しいんだから」
「いいか? 愛らしすぎる俺の娘は、いくらしっかりしていると言っても、こんなにも壊れやすそうで、本当に目の中に入っちゃいそうなくらいの尊い存在なんだから。何かあったらお父さんは、絶対に立ち直る自信なんか無いんだからな!?」
家族そろっての朝食が済み、水の確保に頭を悩ませつつ食器を集めていたレーナに、両親が真剣な面持ちで口を開いた。
母は心配し、父は鬱陶しい思いの丈をぶつけて来る。だから母とレーナが揃って眉間に皺を寄せて、父に冷たい視線を向けたのは仕方ない。
「お母さん、わたし思うんだけど、このままこの村に籠っていたら、お父さんが駄目になっちゃう気がするの」
「奇遇ね、私もそんな気がしてきたところよ。子煩悩で可愛い夫だと思って来たけど、レーナがしっかりしすぎているから、却って子供に甘えて欲しいかまってちゃんの、束縛父になってる気がするわ」
円形の食卓でレーナと母は、額を寄せてヒソヒソと囁き会う。当然そうなると一人蚊帳の外になった父が、もの言いたげに女性陣を見詰めながら、しょぼんと眉尻を下げている。まるで置いてけぼりをくらった飼い犬だ。
(うちは両親に娘一人の3人家族なのよね。一人っ子の一人娘だから、余計にお父さんの溺愛っぷりが加速してるのよ、きっと)
これはダメだ――と、レーナはある決意をして、細い腕にぐっと力を入れ、小さな両手を握り締めて父に力強い視線を向ける。
「決めたわ! わたし、お父さんが子離れできるように、もっと強くなる!! とりあえず身体を鍛えて、力をつけるからっ」
(そしてもう少し成長した暁には、最推しのリュザス様を探す旅に出るのーー!)
心の中で前世以来の萌える想いを滾らせたレーナの決意表明に、父はこの世の終わりの表情を見せ、母は苦笑を浮かべた。
村の中に設けられた、簡素な木組みの一階建ての小屋。一見しただけでは分からないが、そこがレーナの父が勤務するプペ村唯一の警邏隊本部だ。
その正面扉には申し訳程度の看板が付いている。まな板サイズの白木の板は、表面が深緑に塗られていて『警邏隊詰所』と彫り込まれており、離れて見れば文字が白く浮き上がる。
警邏隊と銘打たれてはいるけれど、その役割は文面とはかなりかけ離れた穏やかなものだ。村中が顔見知りで、もとより余所者も足を運ばない辺鄙な土地柄だけあって、これまで武力に頼るような事件が起こることもなかった。だから警邏隊員の仕事はもっぱら老人たちの力仕事の手伝いや、急病人を治療所へ搬送するくらいのもの。たまの武力行使は酔っ払い同士のけんかの仲裁といったところだった。いわば村人たちのお助け屋である。レーナの父も、恵まれた体格を活用できるこの職場で、大いに村人らに貢献し、周囲からの信頼を集めている。自慢の父ではあるのだ。
ただ、過保護すぎる点を除けば。
「レーナっ! 絶対に遠くへ言っちゃダメだぞ! 村の人たちの目に入るところに居るんだぞ!?」
「分かってるから。知らない兵士さんについていったり、村の外へ出たりはしないから」
レーナが今いる場所は、父の日勤に合わせてやって来た警邏隊の屋外訓練施設だ。ここは長閑なプペ村らしく、普段は村民のトレーニング用としても解放されている。繰り返し言おう、レーナが今いる場所は警邏隊の敷地内だ。それなのに過分な心配をする父親なのだ。
くどくどと何度も伝えられた注意事項を復唱すれば、父は不承不承ながらレーナから離れて、屋外訓練施設に隣接する事務所棟へと入って行った。何度もちらちらと振り返りながら。
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