独占欲強めの最高神は、モブ娘からの一途な愛をお望みです!

弥生ちえ

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第2章 火龍・水龍 編

第103話 【閑話】「色」を失った双子龍 ~ゾイヤがノネな龍になったワケ~ 後編

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 それから、ゾイヤは話し方を変えた。

(『お前たち』なんて一括りのどちらでも良い存在じゃあ嫌だノネ。我の名はゾイヤ。だから――名を呼んで欲しいノネ!)

 ヴォディムにとって、掛け替えのない存在になりたい一心だった。片割れは変だと笑ったが、違うことも大切なのだとゾイヤは主張した。

(二頭いたら親しく『お前たち』とは呼んでもらえるけれど、名を呼んで、個体として自分を認められることはないノネ)

 名を呼んでもらえない歯痒さは、いつしか暗く重い凝りとなって、じわり……と心に闇色の影を落とした。微かな変化だったから、誰も気付くことは無かった。

 精霊や眷属らは、強大な力を持つ。だが、彼らが心を病んだり、向けられる信仰心を失えば、加護の力を無くし、あるいは堕ちて破壊衝動のみに生きる魔族となる。

 だから、精霊たちは自身の安寧のために、心を許し、自身を絶対に崇める眷属を作り出す。身を守るため――ひいては世界を守るため。

 凪いだ心を保つため、世界のために感情を殺してしまった水の精霊王ヴォディムは、だから人一倍感情に疎い。その彼でも、自身への親愛と信仰がよく伝わるよう、二つの龍を同時に作り出したのだ。

 けれど――と、ゾイヤは考える。

(ふたつはいらないノネ)

『名を呼んでもらいたいと思うのは間違いなのかノネ!?』
『我らは等しくヴォディムさまのお力だ。それなのに個などあり得ない』

 まっすぐな思いでぶつかり合う内に、互いの青い色が、少しづつくすんでいった。それは、双龍達も互いに自覚するほどになっていた。

 これでは、大切なヴォディム様の色を失ってしまう。焦燥感を抱いたゾイヤが地上に出れば、あの日助けた男に心の内をぶちまけて気持ちを整えた。偶然の出会いは未だ、かけがえのない繋がりとなって残っていた。その相手が、彼の子となり、孫となっても交流は細々と続いた。相手は変わっても、彼を引き継ぐ者たちはゾイヤの心を和ませた。

 なにかと大人しい片割れは、ずっと海底神殿にとどまっていたようだ。


 気付けば、ゾイヤの闇色はいつの間にか晴れ、大切なあるじの『青』に戻っていた。

 片割れは、大切な主の「色」を失ってゆき、そのうち姿を現さなくなった。

 闇色に染まった姿が、何よりも龍を嘆かせたに違いない――正気であれば。

 だが、闇色に染まり、魔属へ堕ちた者は記憶も、胸に宿ったあたたかな想いも全てが消え去り、ただ破壊衝動のみに生きる存在に成り果てる。



 ✼••┈┈┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈┈┈••✼



「ねえ、もしかして貴方達の海底神殿に、魔族に堕ちそうな龍が居るんじゃない?」

 だから、ヴォディムの随伴として訪れた地上で、黒髪のヒトの娘に言われた時、浮んだのはここしばらく見掛けない、双子の片割れの姿だった。

『我が双子龍だからと言って容赦はしないノネ! 最近姿を見ないと思ったら……。力をつけて寄ってきたとて、邪魔者は我が排除するのみだノネ』

 呟くゾイヤに、レーナが物言いたげな引き攣った表情を浮かべる。「ここにも裏設定が……」などとぼそぼそ言っているが、彼女以外にその意味が解る者は居ないようだった。

 こんな風に、乙女ゲームの攻略対象イベントの布石は、ひっそりと、プレイヤーの預かり知らぬところで始まっていたのだった。



「色」を失った双子龍 ~ゾイヤがノネな龍になったワケ~  ― 完 ―
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