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第2章 火龍・水龍 編
第104話 【閑話】乙女ゲームの攻略対象は、小箱とモブ少女にやきもきが止まりません! 前編
しおりを挟むドリアーデ辺境伯邸の豪奢な館が、早朝の仕事を済ませた使用人らの寛いだ空気に包まれるひと時。
草抜きを小休止した庭師の老爺が、喉を潤そうと木陰に向かう。その側を、黒髪の少女が網籠を小脇に抱えて駆け抜けて行った。
ここ最近、連日見掛けるようになったその姿に、ドリアーデ辺境伯嫡男であるエドヴィンの目は自然と引き寄せられた。
三階の自室の窓から見下ろす彼は、彼女の行動に気付いてからと言うもの、いつも決まってこの場所でその様子を目で追うようになってしまった。
少女の名はレーナ。黒髪黒目、肩に付く長さのおかっぱ髪を軽やかに揺らし、簡素なワンピースに身を包んでいる。エドヴィンと同じ14歳だが、彼女にはなんと18歳まで生きた前世の記憶があるらしい。そんな話を打ち明けてもらえるほどには、打ち解けたつもりだった。
『あら、レーナったらまたあの子に会いに行くのね。ここのとこ毎日よね』
エドヴィンの肩の上から、呆れた調子の少女の声が響く。
「ご先祖様……、レーナとアイツは、ただの幼馴染みだと彼女からは聞いています」
やや傷付いた面持ちで声の主に顔を向ければ、彼の肩にちょこんと座った少女も、仏頂面で視線を返す。全身が薄緑の光に包まれた、エドヴィンの膝までほどの身長しかない彼女は、この土地の守り神である聖霊姫の分体だ。
『もぉぉっ!! よびかた! それでホントに乙女ゲームの攻略対象なの!? 全っ然、乙女心が分かってないんだからっ。そんなだから、あの赤髪に後れを取るんでしょ!?』
「んなっ!?」
そう、この世界はレーナが前世でプレイしていた乙女ゲームの世界で、エドヴィンは6人居る攻略対象のひとりなのだ。因みに『赤髪』こと、アルルクという少年もそれに含まれている。
「赤髪と私が、何故張り合わなければならないのですか!? 変な勘違いは止めていただきたい!」
『はーん? 素直じゃないわねぇ。あたしはね、愛する男の子孫である貴方の味方なのよ? 素直に言いなさいよ、レーナが気になってんでしょ』
ニヨニヨと口元を緩ませる緑の少女のからかいに、エドヴィンの頬がカッと朱を上らせる。
「そのようなことはっ……!」
反射的に声を荒げるも、軽やかに駆けるレーナに改めて視線を向けたエドヴィンは、ぐっと下唇を噛み締めると、あきらめた様にため息を吐いた。
「――珍しかったんだ。私達家族を見て、美術品や宝石に向けるような興味を向けるのではなく、同じ人間としてこちらを探る目を向けてくるレーナが」
『結果、気持ち悪がられたみたいだけどね。貴方たち、聖霊の血を引いてるから綺麗なんだもんね。それを無意識に自認しちゃってるから、普段の仕草や表情でも、他人の心を操ろうとしちゃってんのを見透かされたのよ』
「そんなつもりはっ……!」
遠慮無くキャラキャラと笑う緑の少女に、エドヴィンはカッとして目を剥く。だが己の内心に向き合ってみれば、あながち外れてもいない気がした。
「いや、そうなのですか?」
『あらやだ、分かってなかったの?』
気付いていなかったのだ。こう視線を動かせば、こう唇を形作れば、相手がどんな反応を返してくるのか――確かに、想像できていた気がする。それが、レーナには通用しなかったのだ。
『効果的に使うのは結構だけど、レーナは無意識下の本心を見抜いちゃってるみたいね』
「それで、真っ直ぐ私を見てくれている気がしたんだな」
『だから、レーナが気になるんでしょ? なら負けていられないわよね』
穏やかに励ますご先祖様に視線を向ければ、彼を見守る暖かな視線に行き当たる。
「ですね」
短く返したエドヴィンは、レーナの後を大急ぎで追い始めた。
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