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第2章 火龍・水龍 編
第105話 【閑話】乙女ゲームの攻略対象は、小箱とモブ少女にやきもきが止まりません! 後編
しおりを挟む庭園へ出ると、すぐにレーナの居る場所に辿り着くことが出来た。
連日続く彼女の行動に気付いてから、いつも目で追っていたのだ。迷うこともない。だから、いつも通り赤髪の少年アルルクが、その場に共に居ることも分かっていた。
けれど親しげに語る二人の姿は、何度目にしても見慣れた光景だと、穏やかに眺めることはできない。
「これ、返すなっ」
屈託無い笑顔を浮かべたアルルクが、レーナに小箱を突き出した。
見れば、レーナの抱えた網籠から物を出した気配がある。いくら幼馴染みだと言っても、贈り物を突き返すアルルク無神経さは、許されるものではない。
「赤髪っ!! お前、レーナからの気持ちをそのように無下にするなどっ!! どう云うつもりだっ」
エドヴィンは瞬時に怒りを覚えた。嫉妬心も混じって、余計に食って掛かる口調になったかもしれない。
「へ?」
アルルクとレーナは、揃ってポカンと目を見開いた間抜けな表情を向けてきた。
だが一呼吸置く間に、レーナはエドヴィンの言わんとしたことを察したらしい。にこりと笑って、たった今突き返されたばかりの小箱の蓋をパカリと開いて見せてきた。
「これはお弁当よ。中身はちゃんとアルルクのお腹に収まってるから問題ないのよ」
「俺のために、いつもレーナが作ってくれるんだっ」
「アルルクったら、朝に出掛けたらお昼ご飯を摂るのも忘れて、あちこち出歩いてるんだもの。だから、こうしてお弁当を持たせれば良いかなって」
言われてみれば、アルルクの手の中にも、レーナが持つのと同じ小箱――いや、弁当箱が在る。しかもこちらは、レーナの手作りご飯が収まっているのだ。
「なんだとぉぉぉ!? それはそれでけしからん!」
怒声を上げたエドヴィンの肩の上で、緑の少女がキャラキャラ笑う。
ポカンとしたレーナも、つられて頬を緩める。
「そうそう、そんな風にちゃんと感情を見せてくれた方が、わたしは良いと思うな。特に気になるオンナノコの前ではね!」
レーナは、まだ幼い攻略対象へのアドバイスのつもりだった。だが受けたエドヴィンは違う。
頬に朱が上るのを自覚していると、ふとアルルクがこちらを見ていることに気付いた。
「いっつも レーナが俺のために用意してくれんだ! 旨いんだぜ」
言って、ニヤリと笑ってみせる。
『赤髪、なかなか油断できない奴ね』
緑の少女が耳の側でボソリと呟く。エドヴィンは、それに微かな首肯で返すと、ことさら華やかな笑顔を作って二人に向けてみせた。
反射的にレーナが、ひしゃげた蛙を見る目を向けてくる。何か察したらしいアルルクは、訝しげに顔をしかめる。
「ならば、赤髪……いや、アルルク殿には、これからずっと我が家特製の弁当を用意させよう。なに、気を遣うことはない。家族と使用人らの大量に用意する食事を、そこに詰めるだけだ。こちらの負担は無い。そうすれば令嬢教育に忙しいレーナも、助かるのではないか?」
「なっ!?」
不満げに声を発したアルルクに対し、レーナが「ホントにっ!?」と弾む声を上げる。
「助かるわぁー。毎朝のお弁当作りって意外に大変なのよ! それにね、実を言うとおかずを揃えるのが大変で、エドのところの余ったおかずをもらって詰めたりもしてたんだ。最近はそっちのおかずの方が多かったかも……なんて」
ペロリと舌を出すレーナの言葉で、意外な事実まで発覚した。
「ならば、味も変わらぬことだし問題ないな」
エドヴィンの自然と浮かぶ晴れやかな笑顔には、レーナは不快感を示さない。
「明日からは、これまで通りの内容の弁当を、我が伯爵家から用意しよう」
「そんなぁぁぁーーー!」
爽やかな宣言に、アルルクの悲痛な叫びが続く。
(同じ攻略対象者ならば、別に結ばれるヒロインが居るはずだ。ならば平凡村娘を自称するレーナは自分こそが……!)
そう考える攻略対象者同士の戦いは、始まったばかりである。
乙女ゲームの攻略対象は、小箱とモブ少女にやきもきが止まりません!
― 完 ―
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