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第3章 乙女ゲーム始動 編
第109話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】ヒロイン『シルヴィア・カルタス男爵令嬢』に初遭遇!
しおりを挟む「まずい」と思うと同時に、何故かワクワクしてしまうレーナだ。プチドラも、そんなレーナの心情を正確に読み取って、呆れ顔をしている。
「この学院内では、生徒の身分は皆平等。そう掲げられてはいるけれど、そんなものは建前でしかありませんわ。貴族の中でも暗黙の忖度がなされるのです」
淡い栗色の髪を結い上げた少女――貴族令嬢が、くどくどと言葉を紡ぎ、背後の少女らがそれに追随するガヤを飛ばしてくる。よく見れば彼女らも、それなりの身形と立ち居振る舞いをしていることから、貴族で間違いなさそうだ。
(おぉ……これっ、これよっ! モブでしかないわたしが、コレを生で見れる日が来るなんて! ビバ学院生活ねっ)
「ちょっとあなた!? カロリーナ子爵令嬢の話を聞いていて!?」
「子爵令嬢みずからなされる、学院不文律の講釈ですのよ!」
「もう少し恐縮してはどうなの?!」
レーナが感動にうち震えている間に、ガヤ令嬢らの物言いがテンポ良く続く。
(すごいわ! まさか生でこんな物言いコンボが見られるなんて!! 連弾並みの以心伝心っぷりね!)
『あぁっ! もぉ、王子が離れてっちゃうじゃない!! 早くってば!』
レーナが、乙女ゲームらしいシチュエーション初遭遇の喜びに浸っていると、ひと際強く髪を引かれる。
「あいったたたたっ!? 痛いってば! 何!?」
「貴女! 私が話している間くらい、従魔を大人しくさせておけませんの!?」
忠告ガン無視のプチドラに、カロリーナ子爵令嬢が苛立ちも露に声を尖らせる。
『はあ!?』
「プチドラちゃん、シーッよ?!」
不機嫌な声だけでなく、殺意じみた気配を発するプチドラを制したレーナだ。だが、プチドラが怒りを覚えるのは当然なのだ。
従魔とは、魔力の多い人間に屈服した獣で、魔族に至らぬものの偶々魔力を帯びた鳥や獣のことを指す。対してプチドラの大元である精霊姫は、創造神から直々に分かたれた世界を構成する力そのものだ。
けれど、今はそれを明かせない。浮かんだプチドラを引き寄せて、顔を寄せると口早にヒソヒソ耳打ちする。
「前例なしの、子機な精霊ちゃんなのよ!? そのまま伝えたら騒ぎになって、落ち着いた学院生活なんて送れなくなるでしょ?」
プチドラは神殿なり祠なりで崇め奉られる退屈&窮屈を強いられるだろう。そんな稀有な存在を作り出したレーナには、またしても聖女フラグが立ちかねない。リュザス探しに支障をきたしてしまう。
『うぐぐぐ……口惜しいけどっ、確かにあの人の子孫にも約束させられたわね』
「ドリアーデ辺境伯ね。約束した上で、すっごい渋々送り出してくれたわね」
『あやつ程度の力では、あたしを止めることなんて無理なんだもの。こっちが譲歩したのよ』
「なら、従魔のテイでよろしく」
2人のヒソヒソ話が聞こえていないカロリーナはらは、我が儘な従魔を諌めていると取ったのだろう。揃って呆れと嘲笑の混ざった表情を向けてくる。それに気付きつつも、レーナは否定することはない。
(平凡村娘でいるために、我慢よ! 我慢っ)
忍の一文字を心に抱き、静かになったレーナとプチドラに向かって、カロリーナは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「躾の行き届いていない従魔と、礼儀の身に付いていない平民なんて、ホントにお似合いの組み合わせですこと。――よく覚えておくわ」
側を行く新入生の列に教師の姿が見えたところで、カロリーナは一際意味深に声のトーンを落とす。教師の前で、平民への個人的指導をするつもりはないらしい。
クルリと身を翻すと、取り巻き令嬢らと共に列に戻っていった。
「大丈夫ですか!?」
息を切らしながら教師を伴ってやって来た少女が声を掛けてくる。蜂蜜色の柔らかなウエーブヘアーが、軽やかに揺れるのが印象的な少女だ。どうやらレーナを心配した彼女が、教師を連れてきてくれたらしい。
「ありがと……」
言いかけて、レーナはポカンと口を開けて固まる。
(この子、ヒロインだぁぁーーー!)
至近距離で心配そうにアクアブルーの瞳を揺らすのは、乙女ゲーム『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』のヒロイン、シルヴィア・カルタス男爵令嬢だった。
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