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第3章 乙女ゲーム始動 編
第112話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】土の宝珠ルートの攻略対象バルザック登場!
しおりを挟む入学初日とあって、オリエンテーションが行われた。教師の誘導により、カリキュラムの説明や、広大な学院の案内を受けるのだ。
レーナは、一年C組に配属された。男子24名、女子12名の総勢36名。3クラスのうちでも、最も平民出身の多い教室だ。因みに、エドヴィンと王子、そしてヒロインは揃ってA組。校章を失くしていた少女はB組だった。
レーナはC組の最後尾に位置取り、うんざりと顔を顰めつつ重い足取りで進む。
「滅茶苦茶知ってるところを案内されるのって、退屈だし苦痛よね……。マップ画面にカーソルを当てたら、説明が出たんだもの。こんなのゲームには無かったわ。ゲーム要素も攻略要素も無いから、割愛されてたのね」
肩の上のプチドラにしか聞こえない声で、ボソボソと呟く。
『気を抜きすぎよー。後ろのアイツに聞こえちゃうわよ』
「へっ!? わたしが最後なんじゃあ……」
出発してからずっと最後尾だったはずだし、背後に何の気配もない。それを確認していたはずのレーナだ。慌てて振り返れば、確かに5メートルほど開けた後ろに、人影はあった。
ひゅ
喉が妙な音をたてて、息が詰まる。レーナには、その人物に嫌と云うほど見覚えがあった。
だが12巡した中の、この時期、こんな場面に彼が出てくる展開は記憶に無い。
(何で!? ゲームと違ってきてる! あ、でもC組の所に居るってことは、プレイヤー目線のヒロインのA組は、彼には会ってないってことで……ゲーム外の展開? 主要キャラの方は、ゲーム通りだから、モブならではの展開ってこと?)
頭の中に大量の疑問符を浮かべながら、原因となった人物を凝視してしまったのだろう。
「前を向かなくては、置いて行かれてしまいますよ」
距離を取って、静かに背後を進む男から話し掛けられてしまった。ゲーム通りの、深みのある声が響く。
エドヴィンや、ヴォディムと同じく、神々しいまでの美貌の主は、アメジストの瞳を柔らかく細める。バルザック・リュトルン、それが彼の名だ。高貴な紫紺の髪は、首筋をスッキリと出して切り揃えられ、精悍な顔つきを更に男性的な魅力で溢れさせる。筋肉質ではあるけれど、猫科の獣を思わせるしなやかな印象を受ける体躯は、騎士や拳闘士と云うより暗殺者のよう。
けれど彼の本来の身分は、この世界で最も強大な魔力を持つ大魔導士であり――
「土の宝珠ルートの攻略対象っ……」
ぽつりと漏れた言葉が聞こえたのか、バルザックは柔らかな笑みを湛えたまま小首を傾げる。
「宝珠とは、また大層なものの名前が出ましたね。貴女の肩の上の女神に関係があるのですか?」
「女神?」
『女神!』
彼のセリフに、一人と一柱は同じ言葉で全く異なる反応を示す。
『やっだぁー! 女神よ女神! 聞いた? この男、見所あるじゃない!』
「ナニ言ってるのかしらー!? この子はわたしの従魔ですよー。女神だなんてとんでもないー」
おほほほ……と、わざとらしく笑うレーナは、分かり易く上機嫌になったプチドラを抱え込んで、余計なことを口走らない様に抱え込む。
『もがっ、ちょ! レーナぁ!? なにを、むぐっ』
「ちょーっと、おしゃべりなだけの従魔なんです! お気になさらず!」
必死の誤魔化し作業の甲斐あってか、バルザックは「へぇ、そうなんですね」と、にこやかに返してくる。疑念を持った素振りは微塵も見せてはいない。けれど、レーナは彼にどこか油断ならない雰囲気を感じ取る。
(柔和で、穏やかそうではあるのよ。けど、なんかこう……本気の優しい笑顔って奴じゃなくって、上手に作った綺麗すぎる笑顔だし、試されてる様なピリピリした感じがあるのよ!)
近くに居てはまずい――そう本能的な危機感を刺激されたレーナだ。
「みんなに遅れない様、急がなきゃ!」
わざとらしいくらい大きな声を上げて、クルリと身を反転し、とにかく早く彼から距離を取らなければと焦る。
けれど、バルザックはそんなレーナらに追い付こうとするわけでも、追及するわけでもなく、ただ一言、ぽつりと呟く――
「従魔と、呼ばせていただける関係とは、興味深いですね」
聞こえないふりを決め込んで、レーナは小走りでクラスメイトの行列の中に紛れ込んだのだった。
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