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第3章 乙女ゲーム始動 編
第117話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】彼女らにかけたのは、ただの水ですか?
しおりを挟む成長を感じでホロリとするのが常の相手に、不覚にもトキメキを感じてしまう。
(いやいや違うわ! これは、意外すぎる行動に、脳が誤作動を起こしたのよ! 騒がず、じっと座ってるアルルクに、成長を感じてホロリとさせられるわたしよ? 偶然誰かのを真似た大人っぽい反応に脳が混乱したのね! きっと!)
一人で組み立てた理論に納得していれば、冷ややかな視線が突き刺さる気がした。主に、王子とエドヴィンから。
「話を進めたいのだが」
またしても、クラウディオ王子に「こほん」と咳払いをさせてしまった。その言葉を引き継いで、質問を続けるのは再びバルザックだ。
「貴女は頭上から、湯気の立ったお茶をかけられたと聞きました。そして、彼女らに水をかけた……と。間違いありませんか?」
「はい」
「貴女は濡れなかったのですか? 火傷は?」
「防ぎました」
火傷については、治癒の力が使えるのは聖女フラグが立ちそうだから言及しない。ただ、その答えは重要ではなかったらしく、濁した答えはそのまま流された。
そこまで問答が繰り返されたところで、バルザックがゴクリと唾を飲んで、居住まいを正した。どうやらこれから来るのが、ここへ呼ばれた本命の質問だと知れる反応だ。自然とレーナの背筋も伸び、緊張感に顔が引き締まる。
「最後にもうひとつ。彼女らにかけたのは、ただの水ですか?」
(ナニソレ? 金の斧、銀の斧みたいな質問……)
拍子抜けしてしまったレーナだ。
「はい。普通の、何の変哲もないただの水です」
物語のセリフをなぞるような気恥ずかしさに、若干口元が笑ってしまうのは仕方ない。だが、それを聞いた瞬間、王子とバルザックの雰囲気がピリリとしたのが分かった。
「何かあったんですか?」
『まさか、大怪我しちゃったとか!? えぇっ!? めっちゃオトナゲないんですけどー? 大人だって言ってなかったかしら』
エドヴィンの肩の上で、プチドラがキャラキャラと笑いながら茶々を入れる。
「いやまさか! やってないわよ」
「綺麗になったんです」
ボソリと呟いたのはバルザックだ。
「は?」
その場の――王子とバルザック以外全員の声が揃う。
「入学前から、傲慢……こほん、少々気の強いところと、身分に重きを置きすぎる彼女の心根が。いいえ、外見も」
「は?」
説明を受けても理解できない内容に、先程声を上げたと同じ全員が眉根を寄せる。
「バルザック先生。実際、目にした方が早いかもしれん」
クラウディオ王子の言葉に、バルザックが「確かにそうですね」と立ち上がると扉続きの隣室へと入って行った。
「実は、先に私たちは彼女らへの聞き取りも行っていたのだ」
王子がそこで「ふぅ」と一呼吸置く。
「平等を謳う学院の基本理念をないがしろにしては、優秀な人材育成と確保、ひいては王国の発展への阻害にもなってしまう。だから、貴族である彼女らの意見も聞く必要があった。だが……」
顔の前に両手を組んで膝の上に肘を突いた王子は、視線だけをレーナに向ける。表情は読み取れないが、目元にはしっかりと困惑の色が見て取れる。
「失礼します」
先程、バルザックが出て行った扉の向こうから静かに声が響き、彼が再び入室する。――が、その背後には楚々と進む2人の令嬢の姿がある。
つつましやかな立ち姿、きめ細やかな陶磁の肌、髪はそれぞれの色を活かしつつ天使の輪を描いて艶やかに煌めいている。瞳までもが宝石の輝きを放つ麗しさだ。学院を歩けば令息ならず令嬢までもが振り返るだろうし、一度見たら忘れられない美麗な姿の2人。けれどそれは、ほんの数十分前には無かった姿だ。
そこには、カロリーナ子爵令嬢と、紅茶降らし令嬢が、上品な微笑を浮かべて立っていた。
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