独占欲強めの最高神は、モブ娘からの一途な愛をお望みです!

弥生ちえ

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第3章 乙女ゲーム始動 編

第142話 【攻略対象 隠しキャラ?】聖地巡礼の顛末

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 黒髪の青年は、彼が掻き消した瘴気と同じく、空気に融けるように一瞬で姿を隠した。

 入れ替わる様に大きな黒い蝶が1羽現れて、ビロードの輝きを放つ羽根でひらひらと宙を舞う。全員の視線を充分に集めた蝶は、ゆっくりと空へ昇りはじめた。

「――あ、待って!」

 言うが早いか、レーナが蝶に向かって手を伸ばす。けれど指先は敢え無く空を切り、蝶は黒髪の青年と同じく空気に融けて消えた。

「何やってんだよ! 危ないだろ!! あんな得体の知れないモノに触ろうとするなんてっ」

 慌てて彼女の伸ばした手を掴んだエドヴィンだが、レーナは未だ蝶の消えた場所を思いつめた様子で見詰めている。「声が……同じ……?」と、唇だけで紡いだ彼女の言葉は、誰にも聞き取られることはなく、彼女の疑問に答える者は居ない。

 青年の出現からレーナの暴挙による一瞬の緊張感に包まれた現場。そこには、全ての異常が微塵の気配も残さず消え去り、瘴気も青年も幻だったのでは――と思えてしまうほどの平穏が訪れたのだった。






 太陽は既に大きく西に傾いている。明るく暖かな朱色の光の中、聖地巡礼は再開された。

最後シメはやっぱり、ゲームのパッケージにもなっていたお城よね!」

 先程の不可解な出来事を微塵も感じさせない、溌剌とした声が響く。開始時の高揚感溢れる笑顔そのままのレーナは、城壁に設けられた門の前に居る。

 不可思議な出来事はあったものの、結果として瘴気も黒髪の青年も、蝶も何一つ痕跡を残さずに消えてしまったのだ。だから彼女らは、早々に切り替えることにした。元気を取り戻したレーナは、今にも門の中へ飛び込んで行きそうだ。

「見物目的では入城できんぞ」

 エドヴィンが、危惧であってくれとの思いを込めつつ声を掛ければ、愕然としてレーナが振り返る。

「えぇっ! 観光で前庭だけってわけにもいかないの?」

「まさかとは思ったが……。誰もが門の内に入れては、ここに住まう王族の身が守れんだろ」

「けど、ちょっと飛び上がれば なんとかなりそーだぜ?」

 アルルクが、人外手段をさらりと持ち掛ける。

「不審者として、即、魔術師団か騎士に撃ち落とされるに決まってるだろ。ここからの眺望で我慢するんだな」

「えぇぇぇーーー! 見るだけなのぉ!? 魔法で時間毎に壁画を変化させる夜会ホールや、1本だけ柱の模様が異なる湖の見えるテラスに、王妃様が改良を重ねて作られた虹色の薔薇が咲く庭園の実物が見られないのぉぉ!?」

『それに宝珠オーブも見ておきたいんだけどぉ!?』

 ぎょっとしたのは傍のエドヴィンだけではない。門を護っていた衛兵までもが、ただならぬ発言をしたレーナと、プチドラに注目する。

「とにかく、観光や散歩で王城には入れん! 然るべき行事での招待を待て!!」

 ゲーム知識があるために、放っておいたら更に詳しすぎる内部事情を言ってしまいそうなレーナだ。焦るエドヴィンは、強引に彼女を引き離して、この日の聖地巡礼は幕を閉じたのだった。
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