独占欲強めの最高神は、モブ娘からの一途な愛をお望みです!

弥生ちえ

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第3章 乙女ゲーム始動 編

第141話 【攻略対象 隠しキャラ?】瘴気溜まりと黒髪の青年

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 現実として目にする「聖地」は、どれもが色鮮やかな魅力にあふれている。

 木目を生かしたログハウス調の外壁に、丸みを帯びたオレンジ色の屋根が乗ったカフェ。お伽話に出てきそうな愛らしい雰囲気は、女の子の理想を集めたようだ。

 大きな硝子の壁で覆われた、水晶の城と見紛う美しい温室が建つ植物園。所狭しと世界中の植物が集められた園内には、色とりどり花が華麗に咲き誇り、極彩色の鳥が歌い、飛ぶ。

 軽やかな小川のせせらぎをBGMに、優美な眼鏡橋を臨む公園。広葉樹が優しい木陰を作る遊歩道を、恋人たちが手を取り合って歩く。

 王都を一望出来る小高い丘からの眺望は、スマホの画面とは比べ物にならない迫力と、美しさに溢れている。



 訪れる場所で得られる視覚、聴覚、嗅覚の全てに夢中になり、王都中を駆け回るレーナに、エドヴィンは込み上げる疑問をぶつけずにはいられなかった。

「なんでこんな道を知ってるんだ!?」

 聖地から聖地への近道を黙々と行くレーナは、何を当然のことを聞くとばかりにキョトンとした視線を寄越す。

「王都に来たのは初めてだと言っていたはずなのに、地図にも載っていないような小路と建物の隙間を慣れた様子で抜けて行くのは、どう考えてもおかしいだろ!?」

 困惑で美しい顔を歪めるエドヴィンに、くるりと振り返ったレーナは得意げに胸を張ると、ふふんと鼻を鳴らす。

「目的地名をタップすれば移動もできたけど、それじゃあ自動で時間が経過しちゃうのよ。色んなデートを効率よくこなすハーレムルートを狙うときは、こうして3Dマップ画面で最短距離を移動した方が、物凄く時短になるの。だから、王都内の聖地周辺のルートで知らない場所は無いわ!」

「色々意味の分からない単語が入って来るが、それは遊戯ゲームを示すものだな!? 一体レーナはその遊戯ゲームの中で何をやっていたんだ? ハーレムルートだとか言ったな。ならまさかレーナは私たちを……」

 若干頬を染めつつ、もごもごと語尾を濁すエドヴィンの言わんとした内容を察したレーナは、得意げな素振りを一瞬でかなぐり捨てて「玲於奈れおなの話だから! 現実じゃなくってゲームだからぁ!」と焦って言葉を被せる。ヒロインとして攻略した本人に、面と向かって「自分を落としたのか」などと言われるのは流石に面映ゆい。居た堪れない。

「レーナって、げーむで色々と 慣れてんだな」

『あんた、それも語弊のある言い方よ』

 わいわい騒ぎながら路地裏や小路、道とも言えぬ建物の隙間を進む一行だったが、ふいにプチドラが怪訝な表情でピタリと進みを止めた。レーナらの声に反応を返さず、慎重に何かを探る様に路地の物陰を凝視する。

「何か気になるものがあるの?」

 レーナが、視線の先を確認しようと一歩踏み出したところで、プチドラと同じく強張った表情のエドヴィンに強く腕を引いて留められる。直前までふざけ合っていたいたとは思えない警戒も露な様子に戸惑いつつ、近付くのを諦めて目を凝らせば、そこには大人程の大きさの黒い靄の塊が漂っていた。

「なにこれ?」

「レーナ、近付くな。この嫌な感じは、瘴気溜まり……ですね? ご先祖様」

『えぇ。瘴気を浄化する陽の宝珠オーブが祀られている城の側に、こんなのが現れるなんて。やっぱり変よ』

 プチドラは、レーナの学院入学以来ずっと、王子の纏う宝珠オーブの気配が「陽」でなく「大気」である違和感を唱え続けている。そこに更に異変を裏付ける要素が出現した形だ。魔力の質を感じ取ることのできるエドヴィンとプチドラが深刻な表情を交わす。

「ねぇ、そんなことより瘴気溜まりは危険なんでしょ? うっかり触ったら具合が悪くなったり、魔獣や魔族を生み出したりもするのよね」

「ああ。消せるのは光の魔法で浄化出来る者だけだ。そうでない者は触るべきではない。特に障りの在る場所でなければ、警邏隊に報告して立ち入り禁止の措置をとってもらい、時間経過による自然消滅を待つべきものだ」

 聖地巡礼の道程だっただけに、降って湧いたトラブル対処に時間を取られるのは億劫でしかなかった。けれど、瘴気溜まりが危険なものであることはゲームの記憶でも、レーナの知識としても、よく理解している。レーナは渋々ではあったが、エドヴィンらと共に警邏隊詰所へ向かおうと踵を返す。


 ふわり


 生暖かい風が、レーナの頬をくすぐったと感じた次の瞬間――


 彼女らと瘴気溜まりの間には、忽然と黒髪の青年が現れていた。

 ―― いつまで、こんなところで油を売っているの? あんまり待たせるから、僕はこんなに力を付けちゃったじゃない ――

 そこだけ旋風つむじかぜが起こっているかのように、空間に黒い長髪を躍らせる青年の顔は判然としない。ただ、どこかで見た様な面差しと、声だとレーナは思い、首を傾げつつ目を凝らす。

 レーナの反応に、僅かに口角を上げた青年は、すらりとして形の良い長い人差し指を瘴気溜まりに向けて、ゆっくりと空をなぞってみせる。

 次の瞬間、その場に在った瘴気は、跡形もなく消え去っていた。
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