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第3章 乙女ゲーム始動 編
第153話 【攻略対象 隠しキャラ?】認定されたモブ村娘は遁走する
しおりを挟む虹色の蝶に群がられたクラウディオ王子は、見た者達に多少のトラウマを残しはしたものの、妙な後遺症もなく、極めて正常な状態に戻ったらしい。
つまり、シルヴィアと同じく只今絶賛羞恥と後悔に苛まれている――と云うことだ。
今回のプロムナードは、クラウディオ・ベルファレア入学に際し、同輩となる学院生らとの絆を深めることも主題の一つとなっている。だから、騒ぎにより雑然とした会場の整理と、王子の(主に心の)回復を待つため、小休止が挟まれることになった。
「(はやく行くわよ! 小休止なんだから時間はそんなに無いわよ!!)」
小声で叫ぶ器用な真似をするレーナは、今、王城の敷地内をこそこそと隠れながら大急ぎで移動中だ。
『こっち! 気配がするのはこっちよ!!』
彼女らを先導するのは空中を滑る様に飛ぶプチドラだ。宝珠の気配を最も敏感に感じ取るプチドラが、レーナをはじめとしたエドヴィンとアルルクを引き連れてスイスイと進んで行く。
敷地内を巡回する衛兵らの姿もしばしば目にするが、そんな時は先んじて植物から情報を得たプチドラが、全員を物陰に潜ませて事なきを得ている。間者になったなら、とんでもない優秀さなのだろう。――とは思うのだが、そこは気まぐれな宝珠の化身だから、依頼主の望む行動を取って働かせるのは無理な話だ。
やがて一行は、城の中でも一際高い塔の前に辿り着いていた。
プチドラは城の裏手で育てられていた蔓薔薇を、「ジャックと豆の木」よろしく急成長させて、そこに掴まったレーナを勢いよく城の一番高い尖塔へ吊し上げて行く。囲いのない高速エレベーターだ。
アルルクが龍化して全員を乗せて飛ぶのは、目立ちすぎるからと云う理由で却下となった。今回は、ひっそりと宝珠を確認できればそれでいいのだ。
「(あぶないから!! 落ちたら死んじゃうし! 不法侵入だし!!!)」
叫びたいが、衛兵その他に目撃されれば不味いことこの上ない状況だ。小声で肩の上のプチドラに抗議する。
『あたしの全面協力で目立たずこっそりと、見せてあげようってんでしょ? 森の宝珠の精霊姫が進んで助けてあげようってのよ。もっとちゃーんと、感謝なさいよね』
「(飛べないわたしはただの人間だから! 無茶しないでよぉぉーー)」
『魔女役では、飛んでたじゃない。それにアルルクは飛べてるわよ?』
「(この前のはバルザック先生の魔法だし、アルルクは龍化してるでしょ!? 普通の村娘は空も飛べないし、人外形態にはならないんだってばーーー!)」
レーナは、器用に声なき絶叫を上げる。
『言ってる間に、ほら着いたわよ』
言われて、俯いていた顔を上げれば、平屋の屋根を見上げた位置に、尖塔の屋根が見えている。下を見れば絶対に目が眩んで、身動きできなくなるだろうことは容易に想像できる高さだ。
そろりと、視界を若干邪魔する蔓薔薇を避けて、きっちりと格子と分厚い硝子の嵌まった、人の入り込めない小さな窓の中を覗き込んだ。
そこにはガラスのように透明で、大人の頭よりも大きな玉が、太陽をかたどった黄金の豪奢な台座に支えられて祀られている。
「見ても分かんないわ……」
『……』
レーナは、エドヴィンやバルザックの様に、魔力の質を感じ取ることは出来ない。だから、答えを求めて肩の上のプチドラに視線を向ける。
『元気がないわ。この宝珠、何かおかしい……中身が、無い?』
怪訝な表情で首を傾げるプチドラの視線に導かれて、再び宝珠に目を向ければ、確かに輝きを失っている――ように見えた。
「どういうこと?」
『あたしだってこんな宝珠、はじめて見るわ。けど微かに感じる力の残滓の属性は【大気】よ。ここにあるはずの【陽】じゃないわ』
一人と一柱が無言で顔を見合わせる。
だが、答えなど出せるはずがない。――と、その時。
「なんだこれはーーー!? 曲者っ!?」
ようやく、塔の下から騎士等の騒ぐ声が響いて来た。
まずいと、慌てたレーナが塔に手をかすめた途端、その場所にバチリと強い火花が散る。同時に電撃に打たれた衝撃を受けて、レーナは体勢を崩した。
「『あ」』
互いの声が揃う。それに気付く間もなく、傾いだ身体が宙に投げ出され――
バサリ
蝙蝠を大きくした様な、赤い羽根が視界いっぱいに飛び込んで来た。恐れた衝撃は無く、代わりに力強く風を掻く音が耳朶を打つ。
「アルルク!」
巨竜と化した幼馴染に感謝を込めて呼び掛ければ『みぎゃう!』と若干の怒りを込めた鳴き声が帰って来る。
「よかった! 間に合った」
その背で、レーナを受け止めてがっちりと腰を抱え込んでいるエドヴィンが、声を上げて安堵のため息を吐いた。
『あー。流石に大事なものだから守護魔法が厳重にかけられてるのね』
ごめんごめん、とキャラキャラ笑うプチドラにげんなりとした視線を送りながら、一行は王城の上空を急加速で飛び去った。
さすがに敵認定される目撃のされかたをしてしまったのだ。そ知らぬ顔で学院に通い続ける度胸は、モブでしかないレーナには無かったのである。
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