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第4章 最高神 編
第161話 【攻略対象 最高神リュザス】魅入られた王女、化け物と化す
しおりを挟む尖塔の外に飛び出したレーナは、前回訪れた時と同じく最上階の窓を目指して上昇する。
だが今回はむき出しの蔓薔薇エレベーターではなく、安定感ある赤龍アルルクの背に跨った状態だ。レーナの腰に、背後のエドヴィンの腕がしっかりと巻き付いているのも、前回逃走時と同じなのだが、今回はちょっとだけ意識してしまう。
ふと服越しでも伝わる腕の体温や、筋肉の感触に気付けば、引き摺られるように背中にぴったりとくっ付いているエドヴィンそのものが気になりだす。
(ナニコレ!? 攻略対象なのに、平凡村娘にこんなことして、刺激が強すぎるに決まってるじゃない! 攻略対象はヒロインがいるんだから、そっちに行って然るべきなのよ。わたしは傍観者で、リュザス様一筋なんだから、もぉぉーー!!)
心の中で「煩悩退散」を繰り返すレーナを余所に、エドヴィンとアルルクは淡々と最上階の窓を目指す。レーナの肩の上のプチドラも、蔓薔薇を操るのに集中しているのか真剣な表情で口を噤んでいる。
「レーナ! 見えたぞ!! 王女がもう辿り着いてる!! 騎士と揉めている」
耳の真後ろから響いたエドヴィンの声に「ひゃっ」と悲鳴を上げそうになる。だがそんな乙女な反応をすべきはモブの自分ではない。
そう堪えたレーナは、ドクドクと鳴りやまぬ激しい心臓をきゅっと抑えながら窓に視線を向けた。
✼••┈┈┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈┈┈••✼
「彼の方は私を聖女とお認めになり、私に託されたのです!! 汚い手を触れるでない!!!」
宝珠を祀る尖塔の最上階で、王女が凄まじい剣幕で金切り声を上げる。その胸には台座に乗っていたであろう宝珠が、両腕でしっかりと抱え込まれている。
部屋に踏み込んだ2人の騎士は、いきり立つ王女を刺激しないため、そして高貴なる彼女に容易に触れられないために距離を取って対峙し、対処をしあぐねていた。
かと言って王女も自由に動くことは出来ない。階段から部屋へ続くたったひとつの出入り口は、騎士らによって塞がれているのだ。
場は膠着状態に陥っていた。
「姉上!!」
張り詰めた空気が、飛び込んできたクラウディオ王子の声により一瞬、ゆるむ。
その隙を素早く捉えたのは王女だった。
「私を認める唯一に捧げます!!!」
力強く言い放った王女は手にした宝珠を大きく掲げ、クラウディオ王子や騎士とは真逆の窓に向かって鋭く踏み出す。その動きに呼応したかのように、王女の髪に留まった黒い蝶が大きく膨れ上がり、彼女の全身を黒い靄で覆いつくす。
「私に力をっ!!!」
黒い塊としか見えなくなった王女が、絶叫じみた声を上げ
――勢いを乗せたまま、窓に宝珠を叩きつけた。
キィィィィーーーーー……ィィィン
硬質で甲高い音が、耳障りな響きを立てる。
透明な窓ガラス全体に、橙色の光で描かれた魔法陣が一瞬浮かび上がり、叩きつけられた宝珠に抗うように激しく明滅する。
「宝珠の塔の結界よ!! ベルファレア王国の最も尊き流れを汲む、私の望みに応えよ!!! 結界を解き、外界への扉を開け放て!!!」
叫ぶ王女の血流が全身を包む網目のように浮かび上がり、結界と同じ橙色の光を宿して煌々と輝く。その光は、窓に描かれた魔法陣に吸い込まれて強い閃光を放つ。
ガシャン
呆気ない音が鳴り、黒い靄から差し出されたか細い2本が窓の外に突き出た。
全体が黒い靄と見えるため元の姿形は判然としない。だが、宝珠を捧げ持つその2本が王女の腕であることは間違いない。
「姉上っ!!」
クラウディオ王子が、尚も窓に迫って両腕どころか全身を乗り出そうとする王女に呼びかけるが、黒い塊と化して、橙の光る網目に包まれた王女――であったものは何の反応も示さない。
「あねうえぇぇーーーー!!!」
呼び掛けながら、必死に黒い塊を掴もうとするクラウディオ王子の手は、霞に手を突っ込んでいるかのように、何にも触れることが出来ない。
そしてついに黒い塊は割れた窓からヌルリと滑り出し、全体を宙へ躍らせた。
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