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第4章 最高神 編
第175話 【攻略対象 最高神リュザス】土の宝珠、飲まれる(後)
しおりを挟むバルザックが土の宝珠の祠に辿り着いた時――。
彼が予想した通り、宝珠の力は黒い青年によって吸収され尽くされようとしていた。けれど、迅速に駆けつけたバルザックによって妨害され、更に全速力で馬を駆った騎士らが追い付いたことにより、青年は宝珠の吸収を完遂することなく追い立てられた。
結果、土の宝珠は失われなかった。
とは言え、力の大半を吸い尽くされ、化身のアルマジロは大型のネズミサイズに縮んでしまった。
姿の変化だけでは無い。操る超常の力も、王都全域を揺るがす地震はもう起こせないほど弱まった。更に地殻や地質を維持する力も著しく衰えてしまった。
土の宝珠が力を失った結末を、玲於奈は知っている。
「このままじゃぁ、大地がもたなくなるわ。土の宝珠ルートでの攻略失敗は、王都を中心に各地で陥没や崖崩れが多発するようになるのよね……。作物だって徐々に育たなくなるし」
王都を見渡す街外れの丘に立ったレーナがぽつりと呟く。目に入る景色で、明らかな衰退の予兆は空の色くらいのものだ。
「今はまだ、異変は空の色くらいのものだけれど」
青空が、玲於奈の知る物よりも錆色の鈍い光を帯びている。この世界の空は、レーナが生まれた時からこの色だった。だがこの空がこの世界の普通ではないことを、この世界に生きる老人と、ゲーム内で陽の宝珠攻略成功後の晴れ渡る空を見たレーナは知っている。陽の宝珠の衰退は、彼女の生まれた15年前には既に始まっていたのだ。
青年による宝珠急襲からは、半月が経過した。
ゲームとは違い、ヒロインと手に手を取った愛の力でバルザックが土の宝珠の化身に成り代わることは――現在の関係性では出来ないだろう。
土と森の宝珠の元を一瞬で移動してしまった、神出鬼没の黒い青年。彼は、土の宝珠の元でバルザックと騎士らからの反撃を受けた後、今も次なる行動を起こしてはいない。不気味な沈黙が続く中、ベルファレア王国国王は宝珠の元へ国防の要である騎士団、魔導士団から人員を配して黒い青年に対する備えを固めている。
火の宝珠を持つ隣国メイディアも、迷宮周辺に守りの布陣を敷いていると聞く。
水の宝珠はベルファレア王国の西、多数の島々からなる海洋王国アクアラノス共和国の沖合に沈む巨大な海中神殿に在るため、軍船が周辺海域を巡回しているらしい。
「もう、猶予は無いわ」
ゲームの本筋から随分と展開がズレた今の世界は、全く予想が立てられない。けれど、危機感が募れば募るほど、何故かリュザスに逢わなければとの思いが増して行く。どの想いも、理路整然とした言葉に置き換えることなどできない、本能に近い感覚だ。
だから、レーナは誰にも何も告げることなく、ひっそりと王城を抜け出していた。
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