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第4章 最高神 編
第181話 【攻略対象 最高神リュザス】水の宝珠、飲まれる(前)
しおりを挟む太陽が照りつける砂漠の上空を、レーナを背に乗せた赤龍姿のアルルクが飛翔する。
心なしか、主を失った砂漠は、ぐんと気温を下げた気がして、レーナは不安げな視線を周囲に走らせる。
(あの黒男はきっと、ファルークのあとで宝珠も取り込んだのよね……)
だとしたら、火の宝珠の恩恵を受けた黄金の大地が、急速に熱を失ったとしても道理でしかない。
「被害を受けてないのは、水の宝珠と、水の精霊王ヴォディムだけになっちゃった……。ううん。プチドラちゃんと、アルマジロも頑張ってる! みんなの力で生き延びてる!」
努めて明るく、自分に言い聞かせるレーナに、アルルクが「ギャオッ!」と明るい声を被せてくる。不器用な彼なりの励ましなのだろう。
「けどこれで、黒男はリュザス様の6つの力のうち、5つを手に入れたのよね。ゲームの試練は1つの宝珠を護ればクリア出来たのに……難易度が高すぎるわ」
世界とゲームを比較して呟きながら、脳裏に浮かぶのは、ゲームには無かったプチドラと、アルマジロの姿だ。
「現実は想定外の連続だけど、その繋がりが大切に思えるから不思議よね」
言いながら、腰かけている赤い鱗に覆われた背を撫でれば「ギャオン」と照れた鳴き声が返ってくる。幼馴染みの可愛らしい反応に、レーナは庇護欲と使命感が沸き上がるのを感じて、揚々と瞳を上げる。
「リュザス様に心置きなく会うためにもっ! 世界を知ってるわたしが何とかしなきゃね!!」
そう。世界が崩壊してしまっては、未だ出現条件さえ分かっていない最推しリュザスに逢うのが絶望的となってしまうのだ。
この世界に生まれ落ちた事を悟った時から、レーナが誓った至上の命題は『最高神リュザスに逢うこと』。
推しへの熱と、ゲーマーの血の相乗効果――そして現実の親しみを感じるようになった人々への愛着の念が、改めてレーナに活力を与えた。
「急ごう、アルルク! あの黒男を止めなきゃ。プチドラちゃんや、アルマジロも狙われるかもしれないけど、唯一取り込まれていない『水の宝珠』とヴォディムを何とか守らなきゃ。ヴォディムとゾイヤに力を貸して、ちょっとでも助けになりたいの!」
「ぎゃう!」
レーナの思いに、威勢よく了解の意を伝えたアルルクは、一路アクアラノス共和国へ向けて進路をとった。
だがほどなく、力強い飛翔は突如降り出した豪雨によって速度を落とすことになってしまった。一刻も早く水の精霊王ヴォディムの元へ辿り着きたいレーナの気持ちとは裏腹に、悪天候は龍の形を取ったアルルクであっても体力を削る。落ちた移動速度に歯噛みしながらも、最小限の休息で空路を急ぐ。
降り続ける雨は何日にも亘り、メイディアとベルファレア王国の国境までの草原地帯上空に至っても、未だ降り止む気配を見せなかった。レーナらの頭上はどこまでも低く立ち込める鈍色の雲に包まれている。普段なら少ない降雨に高木が育たない地域の、異常な気象状態だ。
激しい降雨で煙る視界に、ふと違和感を覚えてレーナは目を凝らした。
国境に延々続いていた草原が、茶色く変化し、その先に点在する低木も立ち枯れて、不気味に葉の付かない枝を晒している。
更に大地の所々に、クレバスに似た裂け目が漆黒の口を開けている。
その様は、この世界が断末魔を叫ぼうとする姿に思えて、レーナはヒュッと短く息を吸う。
ダンテフォールの崩壊が進んでいるのだ。
(もう、ここまで進んでるなんて……。想像以上に時間がないの!?)
恐ろしい考えが浮かんで、指先から冷えて行く感覚が伝わる。けれど同時に自分に手を貸してくれる、頼りないながらも力強い幼馴染アルルクの筋肉の躍動とほんのりとした体温が伝わって、ふたたびその指先を温める。
レーナは不安を振り払う様に、ブンブンと頭を振って強い意思を宿した瞳を前に向けた。
「ううん、まだ水の宝珠があるわ! ね、アルルク!」
「ギャウ!!」
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