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第4章 最高神 編
第207話 【攻略対象 平凡村娘】一匹見たら百匹……以上いる!? 黒光りする魔獣との対決!
しおりを挟む「また来たぞ!」
「構えろ!!」
「隊列の上には落とすなっ!」
騎士魔導士兵団らが素早く反応して迎撃の構えを取る。
すると、間を置かずに上空に浮かぶ雲の中から黒い靄の一塊が降って来た。
グニャグニャと形状を変える靄に向けて赤龍アルルクが飛空して突っ込むと、一塊の靄は四散して方々へ散りながら地上に急降下して来る。空気を小刻みに震わせる不快な音を発する靄の正体は、固まって行動する魔獣と化した昆虫の群れだった。一体ごとは小型犬ほどの大きさだが、数が多い。
魔導士らは遠距離攻撃の魔法や魔道具で、群れを遠ざけ、攻撃を仕掛ける。騎士らは弓を放ち、撃ち漏らされて隊列に近付いた魔獣を剣や槍で仕留める。大路の脇に追い込んだ魔獣らは、魔導士の火魔法と、アルルクの吐き出す火炎で焼却する。
確かに、手こずりはするが、コツコツ対処すれば倒せないこともない相手だ。単純作業とばかりに、昆虫の群れを地道に始末して行く騎士魔導士兵団の実直な仕事ぶり。それを目の当たりにしたレーナは、生命の危機に陥る可能性は少ないと、ほっと気を抜く。
――が、それも束の間。
ぶぶぅぅっ……ん
対峙中の魔獣とは異なる、低く大きな羽音が木霊した。またしても頭上からの襲来だろうと当たりを付けたレーナは、暗く陰り始めた空を見上げたまま、カッと目を見開いた。
「いぃぃぃっ、やぁぁぁぁあっっ!!!!」
「落ち着け、レーナ嬢!! ただの昆虫型魔獣の群れだ。さっきと変わらない対処で何とか出来る!」
「ぎゃぉぉぉっ!?」
先程まで目にしていた昆虫の群れに対した時とは異なり、激しい拒絶を示したレーナに、クラウディオ王子とアルルクは困惑し、なんとか彼女を宥めようとする。
「落ち着いてなんかいられないでしょ!? あれって、アレよね!? 一匹見たら百匹いるって言うアレよね!?」
「やだなぁ、レーナ。百匹ぽっちじゃあ、こうも空を曇らせる大群になんてならないでしょ」
呑気に笑う最高神の美しさが、対極にあるソレの醜悪さを一層引き立ててレーナの嫌悪感を煽る。玲於奈の天敵であったソレを目にしたのは、この世界に生まれて初めてだ。しかも記憶に残るものより巨大化して小型犬サイズとなっているが、見間違えるはずはない。赤黒い体色の長い2本の触角を持った、楕円形フォルムの甲虫が、群れとなってブンブン羽音を響かせて接近して来る。
すぐに魔導士らが遠距離攻撃を始め、アルルクが大空高く舞い上がる。群れの外周を旋回しつつ追い込んで、一塊となるように誘導している。このまま地上の騎士魔導士らと連携しつつ大路脇に誘い込んで一網打尽にするつもりなのだ。だが先の昆虫らよりも素早い群れは、先程の虫よりもしぶとく抵抗して思う通りの誘導がままならない。ついには意図する場所から逸れて、待ち構えるレーナらのもとへ凄まじい勢いで接近して来た。
「いぃぃぃっ、やぁぁぁぁあっっ!!!! あっちいけぇぇぇえぇーーーーーーー!!!!!」
レーナが突き出した両手から緑の光が迸る。精霊姫と戦った時に手に入れた木の力で、木々を操ろうとしたのだ。だが昆虫と共に焼き尽くされたこの場の周辺は焼け野原で、意思を聞いてくれる植物は遠い。
「だぁぁぁっ、あんな遠くの木を動かしても何にもならないわっ!!」
半泣きのレーナは、続いて右手に火の力、左手に水の力を集める。
「水と火も使えるんだ。さすが僕の見込んだレーナだね!」
「レーナ嬢、一度に違う属性の力をっ!? いや、それより頭の上に向かって攻撃してはいけない!! 落下でこちらも被害を受けるぞ!!!」
「そんなこと言ったってっ!! あいつら真っすぐこっちに向かって来てるのよ!!!」
成す術のないまま、黒光りする敵の見覚えのある面相が、くっきりと見える距離にまで迫る。
「総員、盾を構えーーーーーー!!」
騎士らの怒号が響き、その場の全員が迎撃の構えを取る。避ける猶予の無い、来たる衝撃に、まず盾で受ける――それは、この場にあって避けようのない選択であるはずだった。
(無理無理無理無理っ!! あんな勢いよく来るのを、盾なんかで受けたらっ……フライパンで引っ叩いたみたいに潰れるからっ!!!)
「盾でカウンターするのはやめてぇぇえええぇええっ!!!」
ごう
と、視界を塞ぐ砂煙と強風が、レーナの叫びと共に吹き荒れる。
全身鎧の兵でさえ迂闊に動けば足元を攫われかねない暴風に、騎士魔導士らは全身に力を込めて飛ばされぬようじっと耐えるしかない。舞い上がる砂埃に頭上の魔獣に目を凝らすことも出来ず、その場に居合わせた者たちは皆、じっと構えを崩さぬまま突然の脅威が過ぎ去るのを待つ。
四方八方から不規則に襲い来る風の猛威は、何の予兆もなく、急にピタリと止んだ。
「風がおさまった! 状況報告を!!」
すかさずクラウディオ王子の号令が飛び、辺りに視線を巡らせた一同は、一変した光景に呆然と目を見開いた。
大路の脇の一角には、今の突風で集められた虫の残骸と、目を回した黒光りする魔獣がうず高く積みあがっていたのだった。
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