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第4章 最高神 編
第222話 【攻略対象 平凡村娘】大好きな皆の居る世界を壊さないために
しおりを挟む蹲って呻く青年の背に、レーナは両手を当てて目を瞑り、力を込める。
プチドラを造り出した時とは逆に、結び付けたモノとモノとを、解きほぐし、分けるイメージで彼の体内を探って行く。
―― ぁぐぅっ ――
青年が嘔吐いた次の瞬間、口からゴボゴボと黒いモノが溢れ出た。コールタールのように粘り気を持ち、ぬらりと光る液体だ。
「ごめん、苦しいよね。けど頑張って!」
レーナは励ましながら、黒い青年の背中から補修の力を流し込み、本来の彼とは異なる質感を持つモノを引き剥がすイメージで、力を送り続ける。
最初に嫌悪感を覚えたモノを押し出した結果が、今の嘔吐だった。
「聖女レーナっ、何が起こっているんですか!? 彼が吐き出したのは瘴気です!」
バルザックが、黒い水から漏れ出る負の波動に焦った様子で、周囲の人間に触れさせまいと障壁魔法を張る。
―― やめろ、瘴気は僕の力の源だ! この力を失ったらっ……陽の力を持つモノが居なくなるっ! ――
「何とかするから! それにっ! 何もしなかったら、あなたは消えちゃうでしょ!? あなたの中の皆も」
抵抗する青年に、レーナはきっぱりと言い切る。反射的に何かを言い返そうとした青年だが、それも一瞬。悲しさと苦しさが綯い交ぜになった表情を浮かべて、堪えるように口を引き結んだ。
リュザスが青年に掛けた「浄化」は着実に黒い青年の消滅を進めている。
「大好きな皆がいる世界を壊したくないから、わたしに任せて」
青年の縋る視線を受けてレーナは大きく頷き、預けられた生命の重みに気持ちを引き締める。
(目先の試練を乗り越えるだけじゃあ、確実に世界は崩壊するのよね。ゲームの12巡のルートで散々思い知らされたもの。
だからエンディング後を生きようと思ったら、ただのクリアじゃダメなのよ!)
使命感に突き動かされていると言えば聞こえが良いが、レーナとて聖人君子ではない。無欲の献身などではなく、自分がこの世界で関わったアルルクやエドヴィン達と、まだ見えない先の人生を繋いで行きたい一心なのだ。
瘴気が剥がれたことにより、淡い黄金の髪に変わり始めた青年に周囲が固唾を呑む中、レーナは地面が波打つような眩暈に襲われていた。魔力が枯渇した時に現れる症状だと気付きつつも、彼女は止める事無く「分離」に集中する。
ふと、眩暈が無くなって、自分の手足の感覚が曖昧になったところで、自分の奥底から、虹色の暖かな力が湧き上がった。
(多分これは、リュザスが玲於奈をこの世界に繋ぎ止めるために使った力ね)
既にレーナ自身の魔力は尽きたらしい。けれど、青年に当てた手から流す魔力はまだ途切れてはいない。異世界の住人であった彼女を、この世界に存在させるためにリュザスから施された力をはじめとした、他者から受け取った様々な力が、今の彼女を支えているのだ。
(虹色なのが、リュザスから貰った力で――あれ? それに紛れてる新緑色の柔らかな力は……きっと、大気の宝珠の力ね)
レーナには見えなかった魔力の色が、今ははっきりと見える。皮肉なことに、魔力枯渇の窮地に立たされた今、自分以外の魔力が表に出て感覚が鋭くなったらしい。
青年の姿が揺らめいて、徐々に透明になって行くのを静かに見詰めながら、レーナは淡々と分離作業を熟して行く。
(解きほぐして、あ、違うモノ発見! これを押し出して、おぉっ、また違うモノ発見っ)
静かに、深く、着実に――魔力を探る手から青年の体内に意識を沈める。
玲於奈だった時、幾つもの攻略条件を試しルート開放を試みた根気強い彼女にとって、この地道な作業は心底心躍る時間だった。
「見付けた」
ポツリとレーナが呟けば、緑と朱と青と茶の小さな珠が、半透明の金髪の青年からフワリと出てきて浮き上がる。
―― 火と森と、地と水の……まだ、残ってくれていたのだな ――
泣きそうに顔を歪ませ、目を伏せて珠を見送った青年は、静かに項垂れると、そのまま黄金の珠に変化した。
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