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第4章 最高神 編
第229話 【攻略対象 平凡村娘】株式会社リューサス
しおりを挟む幾つもの企業が入居するオフィスビルの最上階。
1階からの直通のエレベーターまで完備された、そのフロアに在るのは、4年前ソーシャルゲーム業界に新規参入し、リリースするゲームが次々に人心を捉え、あっという間に業界トップの業績に肩を並べるようになった株式会社リューサスだ。
20代の若手社員を多く抱える開発部門では、今日も新作のプロトタイプ版を映し出すPCモニタを前に、社員らが活発に意見を交わす。
「んー? 悪くは無いんだけど、どっかで見たことあんのよね」
「あ、思いました? 実は私もです。昔、皆がえらく嵌って、社会現象にもなったアレ。なんて名前のゲームでしだっけ?」
「そうそう! 僕の彼女もド嵌りして、ゲームの中の攻略対象のリー……なんてったっけな、そいつに掛ける時間のが僕より大事だって、結局僕たち別れちゃったんすよね。2次元に負けるなんて、忘れられない辛い思い出だなぁ」
「あったねー、あちこちで。ゲーム離婚なんてのもあったよね」
ひとしきり思い出話が盛り上がったところで、再び誰かが呟く。「で、何て名前のゲームだったかなぁ」と。だが、誰一人として口を開くものは居ない。
それは、不思議なゲームだった。
各種メディアに取り上げられ、社会現象にもなるほどの隆盛をみせたことを誰もが記憶している。
けれど、そのタイトルや、キャラクターの造形となると誰もが口をつぐむ。
巷に溢れていた数々のグッズも、いつの間にか一つとして目にすることは無くなった。
ブームが過ぎ去ったとか、そんなありきたりな現象ではなく、ある時急に――誰もが気付いた時には、ゲームも、蒐集品も、そのタイトルに関わる「関心」までもを含めた全てが消え失せていたのだ。
開発部の面々は、この春入社した若者ならば記憶も鮮明だろうと、一人の女子社員に声を掛けた。
「ねえ、羽角さん。君、覚えてる? 昔、一瞬凄い人気が出て、スッと消えちゃった伝説の嵌りゲーム」
「え? あ、あー……はい。わたしも受験生だった時に嵌っちゃって、大変だったんですよね。あれは今でもわたしの黒歴史筆頭ですよ」
羽角 玲於奈はほんのりと頬を染め、バツが悪そうに頬を掻く。当時のことを思い出すと、今でもどうしてあんなことになったのかと、穴の中に入りたいくらいの羞恥に見舞われるのだ。
高校3年の秋。受験勉強も大詰めと言うところで、玲於奈は何気なく始めたスマホゲームにひどくのめり込んだ。大学受験まで残り半年を切った貴重な3連休を、寝食を忘れて無我夢中で件のゲームに費やした結果――彼女は部屋で意識を失ってしまったのだ。そして運悪く、超極地的災害に遭遇した。
意識を失った玲於奈が外出から戻った家族によって発見されたのは、強盗団が入り込んだか、嵐が巻き起こったとしか思えないほど、荒れ果てた部屋の中だった。
窓ガラスは砕け、壁も一部が破損し、カーテンは引きちぎれて、家具は倒れ、物は散乱する。
その中で玲於奈は、スマホを握りしめながらベッドに突っ伏し、すうすう眠っていたのだ。
折しも、その日は複数の小型竜巻が各所で発生する、前例のない異常気象日であった。さらに不遇なことに被害に遭ったのは、彼女の家のみだったのだ。
羽角家の、彼女の部屋にあたる一角だけが滅茶苦茶に破壊されていたのだから、局地被害にも程がある。更に、当人は平穏に眠っていただけなのだが、当時は九死に一生を得た奇跡の少女としてメディアに取り上げられたりもした。状況だけ見れば、突風に巻き込まれても、家具や家屋の倒壊に遭ってもおかしくなかったのだから。
一生の運を使い果たしたと思われた玲於奈だったが、その事件以降、憑き物が落ちたように妙にすっきり頭が冴えた結果、彼女は見事第一志望――以上のランクの工学部へ入学を果たした。
それからは、高校3年生のあの時、一過性とは言え自分をとことん虜にしたゲームの世界をもっと知りたいとの、心の奥底の声に従って、この業界を目指した。数多の志願者がいる中、トントン拍子に業績右肩上がりのこの会社へ入れたのは、本当に運が良かったと言える。
家族ら身近な者たちは、件の事件が玲於奈に幸運を齎したのだと口を揃える。そして、眠っているうちに大活躍する某探偵になぞらえて「眠りの玲於奈」と呼ぶようになった。
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