227 / 237
第4章 最高神 編
第229話 【攻略対象 平凡村娘】株式会社リューサス
しおりを挟む幾つもの企業が入居するオフィスビルの最上階。
1階からの直通のエレベーターまで完備された、そのフロアに在るのは、4年前ソーシャルゲーム業界に新規参入し、リリースするゲームが次々に人心を捉え、あっという間に業界トップの業績に肩を並べるようになった株式会社リューサスだ。
20代の若手社員を多く抱える開発部門では、今日も新作のプロトタイプ版を映し出すPCモニタを前に、社員らが活発に意見を交わす。
「んー? 悪くは無いんだけど、どっかで見たことあんのよね」
「あ、思いました? 実は私もです。昔、皆がえらく嵌って、社会現象にもなったアレ。なんて名前のゲームでしだっけ?」
「そうそう! 僕の彼女もド嵌りして、ゲームの中の攻略対象のリー……なんてったっけな、そいつに掛ける時間のが僕より大事だって、結局僕たち別れちゃったんすよね。2次元に負けるなんて、忘れられない辛い思い出だなぁ」
「あったねー、あちこちで。ゲーム離婚なんてのもあったよね」
ひとしきり思い出話が盛り上がったところで、再び誰かが呟く。「で、何て名前のゲームだったかなぁ」と。だが、誰一人として口を開くものは居ない。
それは、不思議なゲームだった。
各種メディアに取り上げられ、社会現象にもなるほどの隆盛をみせたことを誰もが記憶している。
けれど、そのタイトルや、キャラクターの造形となると誰もが口をつぐむ。
巷に溢れていた数々のグッズも、いつの間にか一つとして目にすることは無くなった。
ブームが過ぎ去ったとか、そんなありきたりな現象ではなく、ある時急に――誰もが気付いた時には、ゲームも、蒐集品も、そのタイトルに関わる「関心」までもを含めた全てが消え失せていたのだ。
開発部の面々は、この春入社した若者ならば記憶も鮮明だろうと、一人の女子社員に声を掛けた。
「ねえ、羽角さん。君、覚えてる? 昔、一瞬凄い人気が出て、スッと消えちゃった伝説の嵌りゲーム」
「え? あ、あー……はい。わたしも受験生だった時に嵌っちゃって、大変だったんですよね。あれは今でもわたしの黒歴史筆頭ですよ」
羽角 玲於奈はほんのりと頬を染め、バツが悪そうに頬を掻く。当時のことを思い出すと、今でもどうしてあんなことになったのかと、穴の中に入りたいくらいの羞恥に見舞われるのだ。
高校3年の秋。受験勉強も大詰めと言うところで、玲於奈は何気なく始めたスマホゲームにひどくのめり込んだ。大学受験まで残り半年を切った貴重な3連休を、寝食を忘れて無我夢中で件のゲームに費やした結果――彼女は部屋で意識を失ってしまったのだ。そして運悪く、超極地的災害に遭遇した。
意識を失った玲於奈が外出から戻った家族によって発見されたのは、強盗団が入り込んだか、嵐が巻き起こったとしか思えないほど、荒れ果てた部屋の中だった。
窓ガラスは砕け、壁も一部が破損し、カーテンは引きちぎれて、家具は倒れ、物は散乱する。
その中で玲於奈は、スマホを握りしめながらベッドに突っ伏し、すうすう眠っていたのだ。
折しも、その日は複数の小型竜巻が各所で発生する、前例のない異常気象日であった。さらに不遇なことに被害に遭ったのは、彼女の家のみだったのだ。
羽角家の、彼女の部屋にあたる一角だけが滅茶苦茶に破壊されていたのだから、局地被害にも程がある。更に、当人は平穏に眠っていただけなのだが、当時は九死に一生を得た奇跡の少女としてメディアに取り上げられたりもした。状況だけ見れば、突風に巻き込まれても、家具や家屋の倒壊に遭ってもおかしくなかったのだから。
一生の運を使い果たしたと思われた玲於奈だったが、その事件以降、憑き物が落ちたように妙にすっきり頭が冴えた結果、彼女は見事第一志望――以上のランクの工学部へ入学を果たした。
それからは、高校3年生のあの時、一過性とは言え自分をとことん虜にしたゲームの世界をもっと知りたいとの、心の奥底の声に従って、この業界を目指した。数多の志願者がいる中、トントン拍子に業績右肩上がりのこの会社へ入れたのは、本当に運が良かったと言える。
家族ら身近な者たちは、件の事件が玲於奈に幸運を齎したのだと口を揃える。そして、眠っているうちに大活躍する某探偵になぞらえて「眠りの玲於奈」と呼ぶようになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる
アミ100
ファンタジー
国立大学に通っていた理系大学生カナは、あることがきっかけで乙女ゲーム「Amour Tale(アムール テイル)」のヒロインとして転生する。
自由に生きようと決めたカナは、あえて本来のゲームのシナリオを無視し、実践的な魔法や剣が学べる魔術学院への入学を決意する。
魔術学院には、騎士団長の息子ジーク、王国の第2王子ラクア、クラスメイト唯一の女子マリー、剣術道場の息子アランなど、個性的な面々が在籍しており、楽しい日々を送っていた。
しかしそんな中、カナや友人たちの周りで不穏な事件が起こるようになる。
前世から持つ頭脳や科学の知識と、今世で手にした水属性・極闇傾向の魔法適性を駆使し、自身の過去と向き合うため、そして友人の未来を守るために奮闘する。
「今世では、自分の思うように生きよう。前世の二の舞にならないように。」
趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた
歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。
剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。
それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。
そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー
「ご命令と解釈しました、シン様」
「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」
次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる