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第4章 最高神 編
第230話 【攻略対象 平凡村娘】微睡む新入社員、玲於奈
しおりを挟む「お前たち、いつまで思い出話をしているんだ? まぁ、あのゲームは未だ誰もが求め続ける伝説の秘宝みたいなもんだからな。盛り上がるのも分かるが、そろそろ時間だ。社長もお越しになってるぞ、企画会議のプレゼン資料は揃ってるのか?」
営業部長の苦笑を含んだ声で、モニター前に集っていた面々が「はい、今すぐ」「やば、チェック中だった」と、一斉に動き出す。どれだけ緩んだ姿を見せていても、彼らは実績もある優秀な開発者だ。定刻までにはキッチリと体裁を整えてしまう。
その姿に、玲於奈は眩しげに目を細める。
新入社員の自分ではまだ加われない会議の席に、羨望を含んだ一瞥をくれると、彼女はくるりと踵を返した。
(夢の入口に辿り着いたけど、またまだわたしはモブのひよっこでしかないのよね。けど、きっと未来を掴み取るんだから!)
瞑目して、心の中の誓いに強く拳を握りしめて一歩踏み出す。
「あぃたっ」
ぼすんと、超至近距離に立っていた誰かに、額から衝突した。
相手は背の高い人間だったのか、ぶつかった感触は柔らかく、首より下だと理解した。それはそれで不味くはある。相手に化粧品の汚れを付けてしまったのではないかと、慌てて確認した。
目の前のスーツの胸元には、幸いにして何の汚れも付いてはいなかった。
(良かったぁ。入社してすぐ同僚の服にキスマークを付けるハプニングなんて、モブ社員でしかないわたしには失態にしかならないもの)
安堵するとともに「申し訳ありません! 不注意でぶつかってしまい」と頭を下げれば、空気が流れた拍子に鼻腔をくすぐるどこか懐かしい匂いに、記憶の奥底を刺激された。
(この感じ……わたし、知ってるかも)
相手の顔を見ようと、俯けた顔の前を覆った前髪の隙間からそろりと窺う。
「眠りの玲於奈、ううん、眠り姫レーナ? いつまでも微睡んでいないで、そろそろ起きてはどうかな?」
「え」
「君の中には、まだレーナの記憶が眠ってる。君が望めば、ダンテフォールの想い出が蘇るはずだよ」
スーツの男の声が、やけに懐かしく玲於奈の心に染み入る。記憶の扉を叩くように、鼓動が早鐘を打って、早く早くと彼女を急かす。
「あの、どこかでお会いしました……か」
「そうだねぇ。今の僕は、長期の海外視察から戻った社長だよ。けど、気付いて欲しいのはそっちではないんだよね。
ねぇ、せっかく逢えたのに、レーナはいつまで玲於奈の中で目を瞑っているつもり?」
視線が絡んだ瞬間、惚けてしまった玲於奈に微笑を返したのは、あまりに美麗な青年だった。爽やかなエアリーマシッシュスタイルの銀髪を、トップの毛先を虹色に染めることにより、美しい彼の面立ちを更に華々しく引き立てている。玲於奈を見詰める切れ長で涼やかな目には、ラピスラズリの如く黄金の煌めきをちりばめた藍色の瞳がキラリと輝いて、彼女の奥底で眠るレーナに記憶の標を示した。
「――リュザス?」
「ご名答」
嘗て、恋焦がれ、一途に想った青年の姿が、鮮やかに記憶の奥底から蘇る。
「ようやく、君が待ち望んでいた僕との、真のエンディングに辿り着いたんだよ」
玲於奈の胸のどこかで歓喜する欠片がある一方で、心に空いた穴が埋まりきっていない違和感が大きく主張し出す。
「ちが……の」
「んん? 感動のあまり声が出ないのは解るけど」
リュザスの言葉に、玲於奈は目を射す真っ白な光景が脳裏に翻る。
次の瞬間、玲於奈は惑いの晴れた笑みを浮かべ、挑む視線を正面に立つ青年へ向けていた。
「そうじゃなかったよね、リュザス。やっと――全部、想い出したよ。リュザスも含めたみんなが生きている世界を、終わりにさせたくなかった。気持ちの答えが出せないまま、レーナが途切れたからエンディングは迎えていないでしょ?」
「なぁんだ。それも、思い出しちゃったんだ」
残念、とリュザスが呟くと、玲於奈を取り巻く周囲は一瞬にして空間自体が仄明るく光る虚無の場所に変わっていた。
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