【完結】女神が『かぐや姫』なんて! ~ 愛され令嬢は実利主義!理想の婿を追い求めたら、王国の救世主になりました~

弥生ちえ

文字の大きさ
258 / 385
第四章 女神降臨編

いつ追い出されても良いように、言うことだけはしっかり言わなきゃね!

しおりを挟む
 ちらちらカヒナシの使者を注視しながら、頭をすっぽりと覆ったヴェールを引っ張って顔が隠れるようにしていると、使者ではなく、侍従の方がこちらを見てギクリと身体を強張らせた。

「ほう?破廉恥娘 精神スピリッツ は家族全体に引き継がれているのかのぉ?」

 愉し気なミワロマイレの呟きが聞こえて来る。

 えーっと?わたしの精神スピリッツが家族にも引き継がれているってどう云う事!?
 似たもの家族ってことだろうけど。まぁ、家族だから色々似ていても不思議はないのに、なにを今更‥‥?

 はっ!そう云えば、カヒナシの侍従の反応がおかしかったわよね!?まさか!

「国王陛下御来臨です。」

 目当ての方向を見ようとした途端、響いた声に確認作業は中止となった。
 静かに上座に現れた、かっちりとした黒のロングジャケットを着込んだ金の短髪の男が告げると、ミワロマイレを始めとした、その場に居る人たちが皆ゆったりとした動作で頭を下げた。カーテシーをしそうになったわたしは、慌てて姿勢を戻して頭を下げる。

 こつ‥‥こつ‥‥

 随分ゆっくりとした靴音が響き、その音の方から「みな、楽に。」と掠れ気味の短い言葉が聞こえてくる。さっきの紹介があった後だから、国王陛下の声のはずなんだけれど、なんだか聞き覚えのあるものと違う気がする。声としては同じなんだけれど、声質が随分弱々しいって云うか、張りが無い感じで。
 恐る恐る顔を上げて、やっぱりと思う。

 正面の一段高い玉座に着いた国王デウスエクス・マキナ・フージュは、以前『月見の宴』で見掛けたのと同じく、王冠を頭上に頂き、王族しか用いる事の出来ない『有翼の獅子』の文様と、国王その人を現す『太陽』の文様をふんだんにあしらった豪奢な衣装に身を包んでいる。けれど決定的に違うのは、堂々とした居住まいに見せようとはしているけれど、隠しきれない疲労と衰弱の色――艶のあった黒髪はパサつき、こけた頬と血色の悪さを隠すために施された化粧が一層国王の弱った姿を強調してしまっている。玉座の傍には同様の文様を施したドレスを纏った王妃が寄り添い、その背にそっと支える手を添わせている。以前は手にしなかった王笏を手にしているのは、身体を支えるためかと勘繰りたくなる様子だ。

「さっそくだが、『仏の御石の鉢』継承者ミワロマイレ・アッキーノよ、夜闇に天の川が掛かり、過日ついに月の欠片が流れ落ちるに至った。古の記録通りなら『月の忌子ムーンドロップ』の出現はこれより幾度か繰り返されるであろう。私の治世を永らえさせたいとは言わん、ただ私の持てる力を使い尽くしてもこの国を護りたいと思う。これよりの戦いには継承者の力がより必要となる。その力をもって、どうかこの国のために尽くして欲しい。『燕の子安貝』継承者イシケナル・ミーノマロが代理の者も同じく、お主等のあるじの力は、この先の国民の生命を護る為の戦いに必要不可欠だ。私の頼みを聞き入れ、協力して欲しいと、どうか伝えて欲しい。」

 要請や王命ではなく、依頼だった事にまず驚いたし、国王の治世のためではなくて、国を護るためって断言されたのにも少し驚いた。自分自身もこの国を護るために力を使い尽くす覚悟があるってはっきりと断言されたし。

 これから、始まるのは、そんな命に関わるような戦いなの?

 そっと国王の面差しを眺めると、全てを受け入れている凪いだ表情がそこにはあった。国のために身命を賭し、力尽きて倒れてもいいとか思っていそうな表情だ。

「トップがそんな捨て鉢なんて冗談じゃないわ‥‥。」

 ぽろりと零れた言葉は、緊張感でピンと張り詰めた静けさに包まれている謁見の間で、想像以上に大きく響いてしまった。ミワロマイレが顔色を変えて背後のわたしを振り返る。

「おいっ‥‥何を言い出すんだい!?」

 国王直属の純白の騎士服を纏った護衛騎士たちが、完全にわたしにロックオンして、いつでも飛び出せるようにしているのが分かる。失敗したーとは思うけどけど、それならちゃんと言っておくべきかと気を取り直す。
 わたしはミワロマイレの影からそっと移動し、その隣で恭しげ胸の前で祈るように両手を組み、立て膝で国王に向き合うようにしてそっと頭を垂れた。
 勿論作法なんてさらっさら知らないから、世の中の人の幸せを願って祈りを捧げる、神職者シスターを勝手にイメージし、尚且つ顔を隠そうとしたただけよ。

「恐れながら、申し上げます。全てをなげうつ覚悟、結構でございます。けれど、臣下にまでそれを強要するのは勿論、国王陛下自身がはなから諦めておられるご様子は看過出来ません。」

 目立っちゃったなら仕方ない、いつ追い出されても良いように、言うことだけはしっかり言わなきゃね!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...