最後の夜の願い

つっちーfrom千葉

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最後の夜の願い

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 広大な砂漠の真ん中にひとつの小さな国家があった。この話は、その刑務所での出来事である。この刑務所は世界的な物差しで見れば、中規模に属するものであったが、その牢屋の多くは、決して許されざる大罪を犯した受刑者のみで埋め尽くされていた。牢獄の岩壁には、それぞれの刑が終わる日まで続けられる、厳しい労役に疲れ果てた囚人たちの汗が染みとなってこびりついていた。床には砂塵と埃と汚染された泥土が、幾重にも積み重なっていて、それが多くの害虫を呼び寄せ、例えようもないほど汚れきっていた。とっくの昔に未来への希望を失った人生の敗北者たちの獣のような叫び声はやがて唄となって、監獄の内部の隅々まで響き渡っていたが、それが分厚い壁の向こう側にまで響くことはなかった。牢屋は細く長い通路を境に、多くの十字路が展開して奥へと続いていき、重い判決の下された囚人ほど、より奥の暗く湿った監房を割り当てられることになっていた。その一番奥にある特別監房には、自身の処刑日を明日に控えた、ひとりの若い囚人が囚われていた。

 その罪深き男は、今、暗がりの中で地べたに這いつくばり、両手で頭を抱え、額にはびっしりと汗をかき、浅く早く呼吸をして、数秒おきに足音を立てて迫りくる死の恐怖と戦っていた。極刑の宣告を受けてからの毎日は、失望と後悔と祈りと懺悔の果てもない繰り返しであった。しかし、とにもかくにも、明朝を迎えれば、その想像を絶する苦悩からは解放される。この世のあらゆる悦楽は、今後は味わいようもないわけだが、解放という概念で考えれば、確かにそうである。

 この世での最後の一日は、自分の過去の大罪を今一度思い返し、過ちを真摯に反省し、無念の内に世を去る羽目になった、今は亡き被害者たちの霊を弔い、明日には地上の人ではなくなる自分のためにも、ひたすら天に祈りを捧げることで過ごした。しかし、時の流れは非情なものである。いや、時間という概念ほどに非情なものが他にあるのだろうか? 幸福だった時期は、緩やかに流れていたはずの時間は、その日が近づくごとに速度を上げて過ぎゆき、やがて、この砂漠には最後の絶望の夜が来た。長い年月の経過により、改心に至ったとはいえ、その冷酷な運命は動くことはない。どれだけ神に祈ったところで、太陽が今一度、天に向かって昇り輝けば、彼のやせ細った身は、ここからたちまちにして引きずり出され、衆目のもとで縊り殺されるわけである。男は窓の鉄格子越しの月を眺めながら、しばし深い思いに耽っていた。

『今からでも、自分に出来ることは無いのだろうか?』

 ふと、こちらに向けて廊下を歩いてくる、控えめな足音が聴こえてきた。死刑囚は深い思考から覚めて顔を上げると、ここに留置されてからの十三年の間、毎日世話をやいてくれた看守がそこに立っていた。彼は冷徹と憐れみとを帯びた表情で男の様子をしばらく伺っていた。囚人は頭を軽く下げて、いつもの通り、気のおけない挨拶をした。看守は頑強な鉄扉の二ヶ所に設置されている鍵を、慣れた手つきで開けると、監房の中に入ってきた。もはや、単なる世話人という言葉を乗り越えて、盟友とも表現できた。

「どうだい、気分は悪くないか? いよいよ、明日だな」

「ええ、あなたには長きに渡り本当にお世話になりました。最後に丁重なお礼を申し上げたいのですが、今はもう言葉にもなりません」

 男はすっきりとした表情でそう笑った。死という概念を眼前に控えながらも、その声には、一切の動揺や畏怖が感じられなかった。長い苦痛きわまる裁判を戦い抜き、牢獄に入れられてからの貴重な体験がなかったなら、今夜のような澄み切った気持ちは、決して生まれなかったはずだ。

「それで、今夜はどうやって過ごすつもりなんだ? これまでの毎日と同じように、神にひたすら許しを乞い、祈りを捧げようというのか?」

「そうです。自分の愚かな行為のために、かけがえのない命を失ってしまった被害者の方々のために、ただひたすら祈りを捧げていました」

 そんな言葉を聞かされると、看守は心からの同情を隠せず、囚人の思いを少しでも汲んでやろうと、少しうつむいて、この場に必要な言葉を、何とか紡ぎ出そうとしていた。残酷な刑罰とは無縁といえ、自分の人生とて楽ではなかった。いつ気をおかしくして暴れ出すかも分からぬ、徒刑囚たちの世話を淡々とこなす毎日。最初の半年も耐えられずに職を放棄した同僚も数知れず存在した。そのなかで、この仕事が誇りとなるまで続けてこられたのは、眼前のこの囚人との関係があったからこそである。いつ訪れるかも分からぬ死と向き合いながらも、決して目を逸らすことなく、それと戦う彼の姿が自然とそれを見守る自分の励ましにもなっていた。いわば、互いの心を助け合いながら、今夜まで生きてきたのである。

「確かに殺人は許されることではない。しかしな、もう遥か昔のことでもある。時の流れが罪を薄める、などと言うつもりはない。しかし、この牢屋に入れられてからの日々、おまえさんは自分が殺めた命の重みを理解できるようになるために、様々な種の勉学を積み重ねてきた。そして、自分に足りない道徳の教育を受け、改心を得るために神父さんに諭される日々、少しずつ、命の重さという概念を身につけながら、毎日のように被害者の魂に向けて祈ってきたじゃないか。法に係らぬ罪を重ねながらも、死の意味など何も考慮に入れず、街中を平然とぶらついている市民たちと比べてどうだろう? 今の君の姿の方が立派ではないのかな。その成長した姿を見れば、天国にいるはずの被害者の方々の御霊も、おまえさんの心に新たに生まれたその苦悩に気持ちを傾け、許してくれているはずさ……」

 囚人はそのように慰められても、到底納得はできない様子で、頑なに首を横に振るばかりだった。

「いいえ、この私に対しては、そのような温かな同情は無用です。確かに、自分で企画した犯罪とはいえないものでした。それに、犯行当日はいくつもの複雑な要因が絡んでしまい、本来は組織の一番手下であったはずの私が、殺めるつもりもない生命を、この世から消してしまうことになりました。被害者の方に恨みがあったわけでもなく、欲に目が眩んだわけではなく、すべては偶然と出来心の範疇なのです。しかし、結果的としては、三人もの重い命を残酷な手段で殺めることになってしまいました。これは、私が主軸となって行われた犯罪であると、そう判断されても無理はありません。弁護の余地がまったくないとまでは言えませんが、裁判官から頂いた厳しい判断は至極適切なものであり、今となっては、受け入れる他はないと思っています」

 看守はその目に大粒の涙を浮かべながらも、健気に語る囚人の声を聴いて、すっかり感じ入ったように大きくため息をついた。

「死刑というのはどう考えても不思議な制度でな。いくら冷酷な殺人犯が存在するとはいえ、人間が同じ人間を裁くわけだからな。法律を深く学んだ学識者の中には、死刑廃止論者も多い。「国家が人を殺めていいのか」と主張する人も多くいる。実際には冤罪を恐れ、人権を重視する方針により、死刑を廃止する国も徐々に増えてきているわけだ。長年、君に寄り添ってきた自分としては、この死刑制度に対して複雑な思いもあるし、犯罪者の首を平然と刎ねていく我が国の司法のやり方を支持するつもりもない。実をいえば、上司に直訴することで君を救ってやれればと思ったことも、何度となくあるんだ。十三年間も朝昼晩と一緒に生活をすれば、これはもう兄弟と同じだからね」

 その言葉で囚人の涙は嬉し泣きへと変わっていった。握りしめた右手で、静かにその涙を拭った。

「お気持ちはこの上なく嬉しいのですが、私は法律や判決文を恨んではいません。この十三年間、反省に反省を重ねてきたことで、自分が無慈悲にも殺めてしまった相手方の気持ちに深く思い至りました。自分たちの心の傷を慰めるためには、どうしても犯人に死んで貰わねばならない、と願う被害者の親族の訴えもよくわかります。多角的に見ますと、理論上は難しい制度なのかもしれませんが、それ以上に、私はこの地上に存在してはならない人間なのです」

 このような議論はふたりの間で、毎夜のように行われており、看守はその意を十分に汲んではいたが、ここは囚人を慰めてやろうと、彼の肩をぽんと叩いた。

「今夜はふたりにとって最後の夜だ。ようし、それなら、私としても出来るだけの力を尽くして、おまえさんの願いを叶えてやろうじゃないか。明日を忘れるために、この世へのすべての未練を消し去ろう。どうだ、何か願い事はないのか? 私にもそこそこの人脈はある。もし、おまえさんが望むのなら、可能な限り、何でも叶えてやるぞ」

 その申し出に対して、かなりの時間、囚人は考え込んでしまった。重い責任を背負った身として、反省の遂行とまだ心に残る欲望の達成とを秤にかけていた。頭の奥でどのように結論を出したのかは伺い知れぬが、しばらくすると、囚人の表情は、すっかり吹っ切れたような嬉しそうなものに変わっていた。

「極刑を待つ身としましては、にわかには信じがたいほどのお申し出です。本当にどのような願いでも叶えてもらえるのでしょうか?」

「ああ、今夜だけは何を言われようとも、受け入れるようとも。遠慮はするな。最後で最大の欲望を絞り出せ。どんなことでも言ってこい」

 看守は男の願望をさらに勢い付けようと、そう答えた。

「それでは…、この夕食が私の人生において最後の食事になりますので、何を差し置いても、やはり美味いものが食べたいですね。砂漠の王者でさえ見たことの無いような、贅の限りを尽くした料理をご用意して頂けませんか」

 男は相手に言われた通り、何の遠慮もなしに、そう主張した。看守はこれまた気持ちのいい笑顔によりそれに応じた。

「まったく、筋の通った要求だ。これまでにも多くの死刑囚がそのように答えたものよ。よくわかった。すぐに食事の用意をさせるから、待っていろよ」

 看守はそう述べると、一度足早に牢屋の外へ出ていった。囚人が格子越しに覗いてみると、彼は携帯電話を用いて、どこか別の部署へ連絡を取り始めた。すると、彼の独断でこれが行われているわけではないらしい。それから二十分ほども経つと、白い割烹着に身を包んだ料理人たちが、どやどやと慌ただしく押しかけてきた。どうやら、付近の街にある有名料理店のコックが、一同に集って来たらしかった。料理人は客を選ばず、国境などもない、とでも言わんばかりである。ここが死刑囚の独房だと知らされても、怖気付く様子もなく、調理に一心に集中している様子だ。

 それから半刻も経った頃、彼らは独房の床に座り込む男の前に、美しい真っ赤なペルシャ絨毯を敷いてみせた。次に、世界各国の有名料理をその上に並べてみせた。北京ダックや仔羊のステーキはもちろん、近海もののオマール海老の姿煮や白トリュフのスープもそこにはあった。もちろん、これまで社会の底辺で生き永らえてきた、この哀れな囚人は、このような豪勢な料理を目のあたりにするのは初めてなので、ただ驚く他はなかった。はるか昔、娑婆の労働者であった頃も、執事が付き添うような豪華な食事には、縁遠い生活を送ってきたのだから。

「これはすごい、本当にこの王侯貴族の料理を、私のような者が頂いてもよろしいのでしょうか? 明日の早朝、執行人の持つ刃により、私の首が飛ばされた瞬間に、胃袋にあるこの食事も、すべて無駄になるわけですが」

「もちろんだ。これこそは、この世での僅かなひと時を惜しむ、おまえさんのために用意された料理なんだからな。さあさあ、これが一生で最後の口福だ。遠慮なく全部食べ尽くしてくれ。人生の最後の一瞬には利益も不利益もない。まったくもって、何の気兼ねもいらんのだ」

 看守は余裕の表情でそう答えると、囚人をさらにけしかけた。この国の常識で語れば、処刑の迫る囚人に対して、多くの食事を振る舞う必要は無いという考えが一般的であり、事実、日頃の手抜き料理によって、男はすっかり腹を空かしていたわけである。しかし、今さら、出されたものに不審を抱く必要もない。手元に置かれている料理から手当たり次第に口に運ぶと、捕えられた鹿の肉に群がるハイエナのように、十人前はあった豪勢料理を、ものすごい勢いで食い尽くしていった。たった一時間弱で、ほぼすべての料理を無きものにしていた。男はまるでマハラジャのように、食後の高級フランスワインをガブガブと飲んでいた。看守もその側に立ち、満足そうにその様子を眺めているのだ。

「ああ、こんな贅沢を味わったのは、生まれて初めてです。しかし、こんな凄い料理を食べてしまいますと、逆にこの世に未練が生まれてしまうでしょうね。せっかく、先ほどまでの長い祈りによって心が落ち着き、死へと向かう覚悟が着々と整っていたというのに……。いえ、別に死にたくない、などと今更言い出すつもりはさらさらありませんが」

 男は赤い顔を緩ませ、微笑みながら、冗談混じりにそう言った。その余裕の笑みは、死刑囚の顔とはとても思えなかったし、よもや、たったの一時間で、自分の思想信条を根底から覆す人間がいるはずはなかった。

「何も罪悪感を感じることは何もないんだぞ。おまえさんは明日の朝にはこの世から消えてしまう身の上なんだ。この世でもっとも大切なものが時間であるなら、おまえさんは、地上でもっとも恵まれない立場にいると、そう表現してもいいくらいなんだ。このぐらいの贅沢であれば、天界におられる神々も、きっと許してくれるさ」

「それはその通りです。これは文字通り最後の晩餐ですからね。貴方の仰る通り、地上にあってもっとも不遇な位置にいるこの私が微かな幸福を味わえることは理に叶っています。しかし、少し不思議に思うことがあるのです。この料理を用意するには、それなりの費用がかかっているのではないですか? 我が国を統べる官僚の方々が、死刑囚の私に対して、これだけの予算を用意してくださるとは、とても思えません。いったい、どうやってこの料理の費用を捻出したのですか?」

 看守はそのきわめて妥当と思える質問に対して、一度、意味ありげに首を振ってから、にこやかにこう答えるのだった。

「いいか、これはおまえさんにとって最後の贅沢なんだ。お金の出どころなんて気にしなくていい。いや、どうでもいいと表現しようじゃないか。天上から届けられた粋な計らいに対して、すべての疑念は不要なんだ。私としては、ただ、この貴重な時間を、おまえさんが思うさま楽しんでくれれば、それでいいのだ」

 囚人はもっとも信頼している看守に言われるままに、あまり深く考えることなく、そのありがたい申し出を受諾するのだった。ただ、この世で最も汚れた場所のど真ん中に置かれている自分の命に、まだ、それだけの価値があるのだろうかと疑問に思ったことは事実である。

「さあ、他に何か願いはないのか? まだ、空には無数の星が輝いている。夜明けまでには、相当な時間がある。追加の願い事があるなら、それも叶えてやるぞ」

 囚人はその申し出を聞くと、再び考え込んだ。小さな欲の火はさらなる欲を呼ぶものだ。命の火が消されて、目の前が漆黒の闇に沈む前に、やっておきたいことはあるだろうか。

「そうですね。では東洋の花火というものが希望します。我が国にも花火工場はありますが、その造りはとても大雑把です。ただの明るい光と表現できなくもありません。東洋の、特に日本の花火の輝きは、とても優美で繊細だと聞いております。しかし、日本と我が国には、いまだ国交がありません。この大胆不敵な願いは叶うのでしょうか?」

 看守はその二つ目の無遠慮な願いを聞かされても、これにまったく怯むことなく、自信ありげに、大きくひとつ頷いた。

「普通なら遠慮しがちな局面だが、よくそんなことが言えるものだな。よし、わかった。それもお安いご用だ。微力な私の力でも、どうにかなりそうだ」

 そう答えると、看守はまたもや携帯電話を取り出し、どこかの部署へと連絡をとり始めた。囚人は居心地悪く、ただ黙って見守る他はない。それから二十分もすると、刑務所の外の広場が、にわかに騒がしくなってきた。男は背伸びをして、太い鉄格子の嵌った窓から、外の世界を覗いてみた。すると、鉢巻きを締めた和服姿の男たちが数十人も集まって、砂丘のなるべく平たい場所を選びつつ、何か大量の筒のような物を、忙しなく並べていき、大舞台の準備をしていた。

「ようし、そろそろいくぞー!」

 頭領と思われるひとりが、大声でそう呼びかけると、多くのスタッフの手により、用意された花火に次々と着火がなされ、夜空にひとつの輝きが生まれると、また、新しい花火と取り替えられ、たちまちにして、紺色であったはずの空は、美しい華模様で彩られていった。ここは絶望の世界であるはずだが、いつしか、まったく場に合わないほどの幻想的な空間が拡がっていたのだ。もちろん、孤独に押し込められていた囚人は、またしても我が目を見張った。赤い光、青い閃光、緑色の残光などが次々と夜空を彩っていく。花火職人たちは高い費用を投じて作成した巨大な花火を、惜しげもなく次々と打ち上げていくのであった。わずか二時間の間に、五百発を超える花火が夜空を輝かせ、そして一瞬の輝きとともに散っていった。囚人はまるで人類にとって未知の、天上界にいるかのような幻惑に浸り、その素晴らしい光景にすっかり見惚れていた。

「いや、これは美しい。名状しがたい無数の輝きの奇跡。とても言葉にはならない。私は体験したこともない感動に浸っています。大罪を犯して独房に放り込まれた人間が、こんなにも素晴らしい時間を独り占めに出来たんですからね。この砂漠の空虚な世界において、これに勝る贅沢はありますまい」

「そうか、おまえさんがそこまで喜んでくれれば嬉しいよ。何しろ、これはおまえさんの人生にとって最後の贅沢なんだからな」

 看守は自分の為した善行に一応の満足を得たようであったが、なぜか、囚人の側は少しばかり暗い表情になり、考え込んでしまった。

「しかし、こんなことまでして頂いて、本当に大丈夫なんでしょうか? 日本の花火といえば、一発だけの打ち上げとしましても、とても高価なもののはずです。たとえ、先進国の水準にあっても、一般の人の手が届くものではないはずです。それを次々と……、あんなふうに惜しげもなく打ち上げてしまって……、おそらく、費用の方は天井知らずなのでしょうが、お支払いの方は大丈夫なのですか? いったい、散っていったあの花火たちの莫大な費用は、この貧しい国のどこから出てくるのでしょう」

 看守はそれを聞いても、まったく余裕の表情のままに小さく首を振った。その疑念は最初から折り込み済みさ、とでも言わんばかりである。

「何度も言うようだが、今夜のひと時は、一般の人には当たり前に過ぎるが、おまえさんにとっては、人生で最も貴重な一刻ではないか。たとえ、処刑直前の囚人であれ、人間の命には金や手間などでは計り得ない、それ相応の価値があるものだ。明日になれば冷酷な処刑により、哀れにも命を奪われる運命(さだめ)にある、おまえさんの寂しさをいくらかでも慰めるためならば、費用はどこからでも、いくらでも湧いてくるものさ。国家というものは、人ひとりの存在の重さにそこまでズブくはない。何せ、長きにせよ、短きにせよ、たった一度きりの人生だからな。おまえさんには、この世で起こったすべての事象について、すっかり満足してから、あの世へと旅立って欲しいのだ」

 囚人はそれを聞いてある程度の納得を得た。なるほど、今夜の自分のための特別な計らいは、国家の要人たちが熟慮の上で支払ってくれているのだと、そう湾曲して理解することにした。あるいは、死刑廃止運動に携わる非営利団体からの多額の寄付金があったのかもしれない。これらは曖昧な推測になるが、それ以外に納得のいく説明は見つけようもなかった。

「その答えを聞いて安心しました。犯罪者である私に対して、国政を司る偉大な人々が、そこまで気を使ってくれるとは夢にも思わなかったのです。あなたの丁寧な説明を聞いて、とても感動しました」

「まだ夜明けまでは多少の時間がある。何か他に願い事はないのか? もし、思いつかないなら、それでもいいのだが、もし、まだこの世にいくらかの執着があるのならば、何か希望を出して見るといい」

 そう尋ねられてはみたものの、己の半生のこれまでの勝手気ままで横暴なる振る舞いのことを思い出すと、またしても贅沢なる願いを繰り出すなどというのは、あまりにも図々しいのでは、とも思われた。だが、ここまできたなら、その丁寧な誘いに対して、今さら無下に断るのも、かえって悪いかもと思い直し、遠慮もなしにさらなる願い事を打ち明けることにした。

「そういうことで有れば、図々しくも申し上げます。位置としては、ここからさほど遠くない位置になりますが、ジェンダという港町の一角におきまして、二十歳にも満たぬようなダイヤのような磨き抜かれた美女たちを数十人も雇うダンスホールがあるのです。その店では、彼女らに薄い水着のような淫らな格好をさせて、夜な夜な踊り明かすそうです。私も重大な犯罪を犯す以前から、その店の存在はよく知っておりまして、折あらば、一度でいいから通ってみたいものだと妄想を膨らませていたわけです。しかし、根が純情なのと、その店の入場料がべらぼうに高額なこともあって、結局訪れないままになっていました。あの美女たちの華麗なダンスを、もし、生きているうちに見られるのであれば、それはもう、この世にはなんの未練もなくなるでしょう」

「まだ、そのような欲望に満ち満ちた願い事があったわけか。その言葉はどうあれ、いつまでもこの世への未練の断ち切れぬところに人間の本性はあるようだな。それにしても、人の腸(はらわた)の中には、人生の最後の最後に至るまで、何かが残っているということなのだな。では、了解しよう。希望はジェンダの踊り子たちだな。よし、すぐに準備をさせるから、そこで大人しく待っていろよ」

 看守は今度も落ち着いた様子でそう応じると、三たび携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。その電話のやり取りも、ほんの十数秒で、すぐに話はついたようだった。緊急時であるのに、そのかけ慣れている様子が、次第に薄ら寒い印象を与えてきたのも事実である。囚人はもしかしたら今度も、という大いなる期待に心躍らせながら、表面上はそれを表すこともなく、命じられた通り、冷静な態度で微動だにせず待っていた。

 それから二十分ほどもすると、監獄内がにわかに騒がしくなり、どたどたという明らかに大人数と思しき、短靴の軽やかな足音が辺りに響き渡った。三十人以上もの水着美女たちが、一列に並んで唄い踊りながら、賑やかな振る舞いでやってきたのだ。太鼓や角笛や巨大なラッパを背負った演奏役の男たちも、その美女たちのあとに続いてやってきた。

 一行は監房の中に入り込んでくると、囚人の男を取り囲み、なかなか打ち解けようとしない彼の顔に向けて、にこやかに手を振り、それから、うやうやしく一礼をした。そして、次の瞬間、たちまちに派手なリズムが辺り一帯に鳴り響き、大勢の美女たちによる、華やかな舞台が始められた。汚れを知らず、若々しく爽やかな美女たちは、ほとんど全裸のような淫らな格好で、頭には純金の髪飾りを刺し、純金の首飾りを下げ、銀色に光り輝くプラチナ製の鞭を振りかざし、腰をくねらせて天女のように踊り続けた。その姿にすっかり魅せられた囚人の興奮は、今やピークに達していた。最初は座って声援を送りながら、拍手を合わせているだけだったが、彼女らのリズムカルで陽気なダンスを見ているうちに、居ても立っても居られなくなり、彼自身もやおら立ち上がると、美女の肩や腰に手を回して、一緒に踊り始めたのだ。本来なら、ここは重大犯罪者の巣である。その陰鬱な雰囲気とかけ離れた、あまりの大きな騒ぎにより、いったい何が始まったのかと、付近の監房の囚人たちも鉄格子越しにこちらを覗き見ようとしているが、角度的にそれは難しいように思えた。

 今夜の優美な、そして淫らなダンスパーティーを享受できるのは、処刑を明日に控えた、地上でもっとも不幸なはずの囚人ひとりだけなのだ。その踊りも終盤に差しかかる頃、彼はもうすべての苦悩を忘れ去り、有頂天になっていた。汗だくになりながら、約一時間に渡って、踊り子たちと共に踊り続けた。その結果として、自分の人生で成し遂げるべき目的のすべてを、すでに達成していたように感じていた。あまりの幸福により、自分が明日死ぬべき運命にあることさえ、忘れてしまっていたらしい。やがて、夜空が東の方から白みだすと、ダンスチームの一行は素早く後片付けをして、ここに入ってきたときと同様に、うやうやしく礼をして、引き下がっていった。囚人はこの夜の数時間の出来事に、すっかり満足していた。もう、地上に思い残すことなど、何もなかった。何しろ、犯罪に手を染める前は、何ひとつ叶わなかったことが、人生の崖っぷちに立つ今になって、すべて叶えられたのだから。彼は熱い幻想から覚めると、看守の靴の前に跪き、熱くお礼を言うのだった。

「ああ、果たして、今の私以上に幸せな人間がこの世にいるのでしょうか。たった数時間の有り難い施しにより、この世の楽しみをすべて味わい尽くしたように思えます。もはや、この地上には、一切の未練はありません。天国への土産話も十分にできました。もうすぐ直面するであろう処刑の時を、喜んで受け入れます」

 看守も囚人のその素直な反応を見て、ようやく緊張の解けた暖かい笑顔を浮かべると、満足そうにひとつ頷いた。

「そうか、この世で過ごす最後の一夜に、思う存分満足出来たのなら、それはとても良いことだ。俗人は往々にして死を前にした時、こちらが如何に喜ばせようとも、思考がどうしようもなく暗い方向へと傾いてしまい、目の前において突発的な喜びごとが起きていても、脳の理解がそれを取り入れられず、素直には喜べないものだ。だが、君のその達観した表情を見る限り、すっかり今夜のイベントに満足してくれたようだな。そこまで喜んでくれたのなら、長い時間をかけて準備をしてきた私としても嬉しいよ。さあ、あとはふたりで雑談でもしながら、その時を待とうではないか」

 二人は牢屋の床に粗末な敷物を敷いて、その上に肩を並べて座り、処刑場の役人がその運命を伝えに来るのを静かに待っていた。普段なら、その残酷さに誰もが目を背ける瞬間である。看守は時折すぐ横にいる、囚人の様子を伺ったが、男の表情には、怖気付く様子は、少しも見られなかった。すでにこの広い世界のどこにも未練はないようで、少年のような清々しい表情で、天からの迎えがくるその時を待っていた。しかし、夜がすっかり明けてしまってから、さらに二時間ほどが経っても、刑場からの迎えの使者は来なかった。処刑当日の前例によれば、この時間には、とっくに迎えがきているはずなのだが……。看守は痺れを切らし、首をひねるようになった。

「おかしい……、まだ、迎えが来ない……。もしかすると、何か不測の事態が起こったのかな?」

 その時だった。監獄の薄暗く長い廊下を、けたたましい足音が響き渡って、一人の下っ端の役人が腕を振り上げながら大声で何か喚き散らし、凄い勢いで駆け寄ってきた。

「大変だ! 大変なことが起きたぞ! 天地がひっくり返ったんだ!」

 その腕白の役人は顔面蒼白になって、狂ったようにそう叫んだ。

「どうした、いったい何が起きたというのだ。何にしても、取り乱してはいけない。まずは落ち着けよ」

 看守は真に驚くべき報告を携えて、ここまで駆けてきた同僚を冷静な態度でなだめると、ガラスコップに冷たい水をついでやり、それをひとくち飲ませてやった。長距離を懸命に走ってきた、その小役人は水を飲むことで、ようやく、ある程度の落ち着きを取り戻したようだった。

「それが、大変なことが起きたんだ! まさに革命的だ。長年世継ぎに恵まれずに深く悩まれていた我が国のお妃が、つい先ほど念願の男の赤ちゃんを授かったんだ!」

「おお、それはめでたい! この国の行く末を気にしていた、政界の要人や高級官吏の皆様も、今ごろは、さぞかし喜んでおられるだろう」

 看守も素直に顔をほころばせて、そう言った。

「ところが、話はそれで終わりじゃないんだ。いいか、正気を保ってよく聴けよ。国王は念願のご子息を天から授かったことを、この上なくお喜びになられて、ただちに国中に恩赦を発せられたんだ。それによると、すでに十年以上牢獄に囚われている重大犯罪者たちは、今日この時点において、全員無罪放免になるということだ」

「そ、それは本当ですか? ということはつまり……」

 処刑直前の立ち位置であったはずの囚人は、すがりつくようにして、この急報を携えてきた役人の男の足下に身を投げた。

「そうなんだ、そういうことなんだ。つまり、君はこの瞬間に無罪放免だ!」

 役人は男の肩を何度も強く叩いて、正気を取り戻すように、あるいは励ますようにそう言った。すでに十三年も監獄に囚われてきた男は、その夢物語を聞いても、まったく実感が湧かず、信じられないような思いだった。

「さあ、君は今から自由の身だ!」

 役人は勢いよくそう告げると、男の手錠と足かせをすぐさま外して、牢屋から外へと出してやった。囚人は膨大な時間を乗り越えて、ようやく無実の身となり、監獄の外に出られる喜びを噛みしめるように、よろよろと監房の外の世界をゆっくり歩き回った。

「ああ、これは本当のことだろうか……。何度ほっぺたをつねっても、この夢からは覚めない……。看守さん、あなたは先ほど言ってくれましたよね。私は十三年もの間、自分の手で死へ追いやってしまった、哀れな被害者の方々に心からの祈りを捧げてきた。彼らも私の罪を許してくれる頃合いだと……。まさにその通りのことが起きたんです。我が祈りは天へと届き、神の御意志がついに私を許してくれたんです!」

 囚人は天を仰ぎながら、感極まってそう叫んだ。彼は看守の手を握って激しく嗚咽した。これは無念のままにこの世を去っていった、これまでの多くの囚人が決して為しえなかった勝利であった。

「本当にありがとうございました。あなたの温かい思いやりのおかげで、今日まで絶望に屈することなく生きてこられたんです。その甲斐があって、私はふたたび無実の身になりました。これからは人の役に立つ職業に就いて、他人には温かく接し、自由に生きていきたいと思います」

 しかし、不思議なことに、恩人であるはずの看守は、その真剣な感謝の言葉を聞いても、あまり嬉しそうな様子には見えなかった。奥歯に物が挟まったような複雑な表情をしていた。彼は囚人には決して聞かれないように、謎めいた独り言を発した。

「いや…、しかし、本当にこんなことでいいのかな?」

 囚人が何度も両手を空に向けて突き上げ、甲高い雄叫びを上げ、喜びを噛み締めていたが、恩人であるはずの看守は、戸惑いを隠せないように、少しうつむきながら呆然と立ち尽くしていた。その態度は、今後の成り行きを不安視しているようにも見えた。囚人は二人の役人に対して、もう一度丁寧な礼を述べてから、いよいよ、敷地の外へ、つまり自由の空へと旅立って行こうとした。今日が終点と決まっていたはずの運命は、にわかに翻ったかに見えた。しかし、監獄の入り口では、黒いスーツを着込んで、サングラスをかけ、その手には目に余る物騒な武器を多数携帯した、不気味な男たちが囚人を待っていた。

「あなたたちは、どういった方々ですか?」

 新たな訪問者に、多少脅えながらも、釈放されたばかりの囚人は勇気を振り絞ってそう尋ねてみた。

「うるせえ! 何をとぼけてやがる! さっさとこっちに来い! 今日処刑されるはずだった囚人ってのは、おまえのことだな?」

 その風貌から、明らかにマフィアの一味と思われる男たちの怒りの矛先は、どうやら無実に転じたばかりの囚人に向いているようだった。

「こ、これは、いったいどういうことです?」

 囚人は震えながらも振り返り、無言のまま、申し訳なさそうに立ち尽くしていた看守に尋ねた。

「うむ…、君の処刑については、確定事項と考えていたからな…。この私としても、まさか、こんなことになるとは…」

 看守は申し訳なさそうに、後頭部を二三回かいてから事情を説明した。

「実は今日の処刑によって、間違いなく失われるはずだった、おまえさんの命を、生命保険会社への担保にして、マフィア系の金融機関から大金を融通してもらっていたんだ。おまえさんには事前に何も伝えなかった。伝えても意味はないと思い込んでいたんだ。だが、今となっては状況が暗転してしまった……。ほんの少しでも、助かりたいと思っていたのなら、勝手なことをして悪かったな。でもな、そうでもしなければ、花火やら食事やら、あんな贅沢をさせる費用は、この私には捻出できなかったろうしな。だから、マフィアの連中にしてみれば、君が予定通り、この時刻にきちんと死んでくれないと、こちら側に貸した多額の金銭が取り戻せなくて困るというわけさ」

 看守はそれほどの罪の意識もない様子で、淡々とそう話したが、囚人はそれを聞いて、絶望の谷に一気に叩き落とされ、その顔は真っ青になった。

「ちょっと待ってください! つまり……、恩赦の特例によって、せっかく無実になれたというのに、私は結局死ななければならないというわけですか?」

「すまん、どう計算してみても、そうならないとまずいんだ…」

 看守は申し訳なさそうに、何度も頭を下げた。

「何をぶつぶつ言ってやがる! おまえは死刑囚だろうが! さっさとこっちに来やがれ!」

 マフィアの男たちは、身体中から殺意をほど走らせながら、数人がかりで囚人を羽交い締めにした。男は一度地獄から天国へと引き上げられ、今また一転して地獄に突き落とされ、もうすでに、自分の身に何が起きているのか、わけがわからなくなっていた。

「いやだあ、死にたくない! なんでこんな目に、私は何も、何も悪いことなどしていないのに~」

 囚人はすっかり錯乱して泣き叫んだが、マフィアたちは乱暴にその身体を引きずって外に連れ出そうとしていた。

「今さら、抵抗するな! さっさと来やがれ! 砂漠でも海底でも、おまえの好きな方に埋めてやるぜ!」

 囚人は必死に抵抗して、泣き叫びながら、周囲に助けを求めたわけだが、看守も他の役人も、ことの成り行きを、ただ黙って見守ることしかできなかった。
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