精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ

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6-19 お粗末な襲撃。でも意味が分からない

6-19 お粗末な襲撃。でも意味が分からない


 俺は闇に包まれた屋根の上から地面をはいずる虫けら…のような黒ずくめの人たちを見下ろした。
 空には月が出ているが【エレメンタルミスト】を上空に広げ、その光を遮っているので地上に月光が届くことはない。

 ほぼ真の暗闇だ。

 だが魔力視で周囲を知覚する俺にとっては昼間も夜も何も変わらない。

『だけどわからないねえ…こいつらの目的は何だろう?』

《マスターを倒すことでは?》

 モース君の返答は正しい。彼らの目的は間違いなく俺だろう。
 先日襲ってきた中年太りもいるしあのメイドさん。ルーミエ嬢もいるし、あの時の獣人もいる。

 しかも今回は総勢二〇人にも及ぶ大所帯だ。

 だがこれはおかしいのだ。

 迷宮内で襲われたときに『勇者に余計なことを吹き込む邪魔者』を始末しようとしたのだと考えた。
 たとえ貴族ではあっても迷宮内であればそういうこともありうるものだ。

 だがここは町中だ。

 そこで二〇人もの暗殺者が俺を狙ってくる。これは変だ。

 俺も王国の貴族。一代貴族とは言え子爵待遇でしかも実家は正式に男爵位を与えられている。
 帝国が何であれ手を出すのはまずい相手に他ならない。

《それでもそうしなければいけない理由があるんでありましょう》

 ふむ、その理由は何か。
 聞いてみればいいよね。

 俺は闇をまとい変身する。
 いや、別に本当に闇をまとうわけじゃないんだけどね、魔力を編んで力場体を作りタキシード、シルクハット、ガントレット、装甲ブーツなどを構築していく様はまさに変身。
 惜しむらくは闇の中なので誰にも見てもらえないこと。
 かっこいいのに。

 今度みんなの前で披露しようかな…

 水晶のようなつるりとして黒いのっぺらぼうと化した顔に光の一つ目と細い月のような口がポウと仄暗く光った。

 さあ、始めよう。

 俺は領域神杖・無間獄を自分の中のフラグメントの中から取り出して構えた。
 以前この姿の時は細剣を使っていたが今回は逆にしてみました。
 この格好の時こそ死神活動するときだから、無限獄が使えないと不便だ。

 だからディア君で活動するときは左手の銃と右手に剣にして、この闇のタキシード怪人の時は無限獄を使うようにしようかなって。
 まあ違うのを見た人もいるけど、別にこの世界SNSとか写真とかあるわけじゃないから情報はそのうち書き換わるでしょ。人間の認識だから。

 うぐっ。
 あがっ。

 くぐもった悲鳴が上がった。

 すぐに二〇人は襲撃を警戒して体制を組み替える。

「何があった?」

 リーダーはやはり中年太りの男だ。

 さっと広がり声のした方向を包囲する黒ずくめの暗殺者たち。
 その中で三人だけ、動かない奴がいる。
 男二人、女一人。
 真下から突き出された武器に貫かれてすでにこと切れている。

 彼らの下から何かがすーっと湧き出してきて彼らの体が持ち上がり、そして投げ出されたように横に落ちた。

 その時、雲の切れ目から差し込む月の光〔もちろん演出〕。その光に映し出されたのはとても整った装備を身につけたクリスタルのスケルトン。

「スケルトン」
「なんで」
「ここは結界の中だぞ」
「ネクロマンサーでもいるのか」

「あわてるな、たかがスケルトンだ。戦闘用意、13番、神聖魔法だ」
「「「!」」」

「ほかのものはポーション類を用意しろ」
「「「!」」」

 乱れは一瞬だった。
 リーダーの指示により、黒づくめたちが声も出さずに行動する。意外と練度が高いようだ。

 彼らが戦闘態勢を整えたその時、再び空を黒い霧が覆い世界が闇に飲み込まれる。
 地面の魔法陣から湧いて出た獄卒は6人。
 果たして認識できたかな?

 ぐわっ!
 ぎゃっ!

 悲鳴が上がる。
 闇が下りると同時に獄卒のうち近接型の三体が動いた。

 獄卒は刀タイプ、槍タイプ、短剣の忍者タイプ。盾を持った騎士タイプ。魔法使いタイプ。そしてヒーラータイプで実にバランスがいい。

 六人が倒れたので六対十四の戦闘だ。
 でどうなったかというと獄卒が圧倒してしまった。

 獄卒というのはメイヤ様の神獣だ。
 しかも過去に存在した達人だのなんだののデーターをまるで降り積もらせるかのように積み上げた偉人の影なのだ。

 その戦闘力ははっきり言って俺より上かもしんない。というレベル。
 そして俺は獣王と戦えるぐらいには強いのだ。〔達人とは言わない〕

 なので黒づくめたちは次々と制圧されていく。

 そんな中魔法の声が響いた。

「くらえ!【ホーリーライト】」

 これは浄化系の光魔法でアンデットにはよく効くものだ。

 その光が周囲を照らす。

「あはは、アンデットなどこの光に当たれば…」

 しーん。

 と空気が凍った。
 光に照らされた水晶どくろの獄卒たちはとても美しかったといっておく。
 そして当然のごとく浄化魔法なと全く効かない。

 彼らは幻獣のたぐいであってアンデットではないのだ。
 しいて言えばスケルトンの形にかたどられた神の力と人の研鑽の技の融合体。
 それが神獣・獄卒である。

 神聖な力は彼らの糧になる。

「なんで効かないのだー」
「そんな! 悪夢だ」
「ポーションだ、ポーションを投げろ」

 回復薬であるポーションはアンデットにはダメージを与えることが知られている。一発で昇天とはいかないが確実にダメージをあたえるのだ。
 でもこれも効かない。

 カリカリカリカリカリカリカリカリ…

 ハードディスクの作動するような音が聞こえる。
 これが獄卒の詠唱の音だ。

 呪文の完成〔一瞬だ〕の後地面から蔓が伸びて黒ずくめたちを縛っていく。

『よしよしいいぞ、何人かは捕まえろ、状態のひどいやつは殺してしまえ、地獄に収監するから』

 俺の指示に『ギョイ』みたいな返事が返ってきた。

 あれー、なんか昔そんなのを見たことがあるような…テレビ?
 でも彼らの声は『リリリリリ…』みたいな感じなのだ。

 でちょうどそんな声が聞こえてくる。

 根性なしだと思っていたリーダーの中年太り全身黒タイツ男〔どんどんひどくなるな〕が拘束魔法を脱して逃げ出したのだ。
 戦闘力はあったらしい。

 獄卒たちが連絡をよこしたのは一応リーダーっぽいので指示を仰ぐためだったようだ。
 うむ、確かにこいつが一番の悪だ。

「ひいっ」

 逃げようとする男の前にひらりと降り立つおれ。

「ばっ、化け物」

 またかー。かっこいいと思うんだけとな闇のタキシード怪人。

 ちらりと横を見る。
 モース君が気を利かせて水鏡を作ってくれていた。
 暗闇の中に浮かぶ一つ目と裂けた口…
 うん、これはお化けかも。
 次は明るいところでやろう。

「おのれー」

 暴れる中年。こいつにはいろいろ吐いてもらわないといけないから生かしてとらえよう。
 だけど逃げられるような機能を残してやる必要もない。

 俺は無限獄を大鎌の形に展開し、その刃で両手両足を切り裂いた。
 鎌の部分は術式で出来ているので結構何でも切れるのだ。物理的なものでなくても。

 男は四肢の神経系だけを切断され、動かすことができなくなって地に倒れた。

「まあこんなものだな」

 全体の生存者はリーダーも含めて五人。
 四人はあまりひどい歪みを抱えていなかった奴らだ。

 件のメイドのルーミエ嬢も生きたままとらわれている。

「こちらの四人は縛り上げて転がしておいて、リーダーもそこにおいておけばいい」

 死体は分解して土に返す。
 冥の精霊虫にかかればあっという間だ。

 生きている奴らはマヒの魔法をかけてそこに転がしておく。
 面倒くさいから衛兵に引き渡すのは明日でいいや。

 そのあとちょっとだけ危機があった。
 出番のなかったルトナ達が…ちょっと恨みがましい目でにらんできましたよ。

「いいの、わかっているの。必要なことなのよ。子供達を守るのは。でも少しぐらい戦いたかった…」

「そうです、どうせ殺すなら私に切らせてくれてもいいはずです」

「はいはいはいはい、私も活躍したかったです」

 まあ、この三人にわざわざ汚れ仕事をさせる必要もないから…甘んじて文句を聞いておこう。

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