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第108話 歌って踊れる幼女

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「いーあいーあうー。
 あーあうー。きゅあー」

 部屋に幼くかわいい歌声が響く。
 ラウニーが可愛く踊りながら歌を歌っているのだ。

「ふわわわわっ、かわいいです。かわいすぎます!」

「ん。かわいい」

 それを見たシア(トリンシア)さんがたまらずといった感じでめまいを抑えるしぐさをし、マーヤさんが満足げに頷いている。
 『尊い』とか言いながら。

 なぜ満足気かというとこの振り付けを教えたのがマーヤさんだからだね。
 俺はアイドルとか興味がなかったからこのダンスが既存のものなのかオリジナルなのか区別はつかないが、歌はどこかで聞いたな気がする。

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁっ」」」

 一曲終わると周りが拍手喝さいを送り、ラウニーは照れてネムに抱き付いてじたばたしている。またその姿が可愛くて悲鳴が上がる。
 ネムたちの他にメイドや孤児院からのお手伝い組もここに集っているのだ。

 事実上のラウニー・オンステージである。

「かわいらしいお嬢さんですな。子供が一人いるだけでこんなに家の中が華やぐとは…」

 セバスがみんなにかまわれて嬉しそうにはしゃぐラウニーをみてしみじみとつぶやく。
 彼ぐらいの年になると何か思うところもあるのだろう。

「しかしたった二週間ですっかりアイドルになってしまった」

「はい、メイドたちも最初はおっかなびっくりの者もおりましたが…かわいいは正義とマーヤ様がおっしゃっておいででした。真理でございますな」

 それほどのもんかいな?

 と思わなくもないが、ラミア族というのは一応亜人、獣人の一種族。という扱いにこの公爵領ではなっている。だが、あくまでも一応で、見たことなどない。という人がほとんど。
 そのせいで警戒される向きは確かにあったのだ。

 屋敷であれば当主である俺の客人なので粗略な扱いはなかったが、町に出るとやはり警戒感は強かった。
 ネムが外に連れ出したときなどは絡んでくる冒険者などもいて、ネムにコテンパンに伸されている。

「やはり人種の壁というのは厚うございますからな」

「うん、そうだね」

 俺はセバスの言葉に相槌を打つ。
 って人種どころかラウニーは魔族なんだけどね。

 当然ラミアではないらしいのだが、まあ、みんながラミアだというのであればそれはラミアということでいいのではないだろうか。
 多分大丈夫。

 そんなことを考えている間もラウニーは愛想を振りまき続ける。
 シアさんに抱きつかれて思いっきり頬ずりされたりもするし、マーヤさんに『おいでおいで』とか言われてぴょんと飛びついたりとかもする。

 ちなみに二人が合流したのは一週間ほど前だ。
 学校が忙しくてこれなかったのだ。

「信じられない。私たちが忙しくて動けないうちにこんなかわいい子を仲間にしているなんて…」

 そうつぶやいだマーヤさんはまるで青天の霹靂を絵にしたような感じだった。

 シアさんはやはり最初尻込みしていたがマーヤさんが入り浸って踊りだの歌だのを仕込んでいるのを見て陥落した。
 今やラウニーのファンである。

「しかし我が家の女子率高いな」

「はい、大変華やかでよろしゅうございます」

 いや、よろしくはないだろう。女ばかりだとちょっと居づらい。

「はー、私も早く赤ちゃんほしいです」

 そんなことを言いながらネムがにじり寄ってくる。
 ネムさんの母性本能に火がついてしまった。

「あか?」

「そうよ~、ラウニーの妹か弟だね」

「きゃいやっ。うみ~」

 すっごくうれしそう。
 そしてネムよ。ラウニーは既にうちの子なんだね。

「当然ですよ。私たちで立派に育てないと」

「ないと~」

 うんいい、わかってたよ。

「というわけで私たちにも子供を授けるべきだと思う」

「そっ、そうですね。それは大事ですよね」

 シア君、マーヤ君、どさくさに紛れてそういうことは言わないでほしい。
 わたしは一夫多妻には反対の立場だ。

「男ならハーレムを目指すべき。この世界は男が少なくて女があぶれるから優良物件は逃がさない」

「そうですよね、逃がしちゃだめですよね」

 くそう、かわいい子供を見ると自分も子供ほしいとか言う女の人。いるよね。相手がいるとなおのこと。
 ていうかこいつらマジで俺のことロックオンしているよな。
 できればほかにイイ人を見つけてほしいものなんだが…

「難しゅうございますな。何といっても男不足でございますから」

 そうなんだよねえ、魔物とかたくさんいて人間の死亡率は意外と高い。
 町の中は一先ずだけど、町の外に出れば運が悪ければ帰ってこれない。ということは結構ある。

 そう言うときに犠牲になるのは大概男だ。
 なので20才ごろになると男一人に女二人ぐらいの比率になってしまうのだ。
 それは自然に一夫多妻の風習を産み。
 そして女は能力の高い男に群がる。

 この世界では実力のない男は女に相手にされなかったりするのだ。

「旦那様、そういえば先ほど行政府よりの使いがお手紙を持ってきておりました」

「そうか、先日の件だろうね。どれ」

 とりあえずセバスの援護射撃で危機を脱した俺はそそくさと手紙を開いた。
 できれはこのままフェードアウトしたいものだ。

 ■ ■ ■

 まず手紙はフレデリカさんの呼び出しだった。
 なので行政府に隣接する公爵家の屋敷に向かう。

 ちなみにほかのメンバーはラウニーと遊ぶのが忙しくてついてこない。
 つまりまんまと脱出できたのだがなんか納得がいかないなあ。

 まあいいや。

 それでフレデリカさんの話なんだけど、この町に巣食っていた密猟・密売組織は完全に壊滅した。と考えているらしい。

 まずあの貴族はキルシュ家とは対立している『ラカー公爵家』の派閥に属する貴族でスタイフノロビアム子爵というらしい。フレデリカさんは当然後ろでラカー公爵が糸を引いていたと考えている。

 だが証拠はない。
 彼らが密売組織なのは疑いようがないがラカー公爵とのつながりは出てこなかった。つまり子爵が勝手にやっていたこと。というわけだ。

 だが完全にごまかすには至らなかった。
 今回ラカー公爵家はかなりのポカをやっている。

 彼らがつかまった翌日、ラカー公爵家外交官というのが当然のようにねじ込んできたらしい。
 同じ国なのにお互いに外交官がいて、表向きは仲間なのにバチバチやり合っているんだそうな。

 外交官は子爵をすぐに釈放するように要求。
 彼らは密売の証拠はこれから探すのだと考えていたらしい。

「電撃的に全部まとめて釣り上げたからね。マリオン君のお手柄よ」とフレデリカさんが言う通り今回はもう証拠も何もあったもんじゃないところまで来ている。

 にもかかわらず、『スタイフノロビアム子爵は公爵閣下の忠実な臣であり、子爵を不当に拘束するということは公爵閣下に対する不当で傲慢な攻撃である』と居丈高にねじ込んできた。

「その後現場に案内して地下三階まで連れて行った時の外交官の顔ったら…」

 よほど面白かったらしい。

 子爵の有罪は間違いないのに子爵は公爵の忠実な臣下であると公言してしまったのだ。これはまずい。

 しどろもどろになった外交官は慌てて帰っていき、後日『子爵がいろいろと不正を行っていたことが確認された。今回は当家の不手際であり、誠に申し訳ない』というお手紙が届いたそうな。
 しかも『キルシュ家の騎士たちの優秀なること王国の至宝である』とか何とか美辞警句付きで。

 結局かなり莫大な賠償金が公爵家から払われることになったらしい。

「これで当分ラカー公爵家に対して大きな顔ができるわね」

 ご機嫌なフレデリカさんだった。

 まあ、今回の顛末である。

 ■ ■ ■

 話を聞いた後、家に帰り着いたらティファリーゼがいた。

 ラウニーのことを相談するためにいったん森に帰っていたのだ。
 その結果を持ってきたようだ。

 さて、どうなったやら。

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