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第201話 グージェル〔versionⅢ〕

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 流れ込んでくる力の制御は冗談ではなくかなり大変。
 魔力炉というのは丹田の位置にあって、そこから生成された魔力が全身にめぐる感じなのだが、この魔力炉の出力が桁外れに上がったように思う。

 今までも質の高い魔力を生成して俺に供給してくれていたのだけど純度と量がけた違いになった。
 これってあそこで浴びた源理力に近いものじゃないかな?

『そーれ、がんばれ、ファイト、頑張れ』

 無責任な応援だなあ…それにこいつこんな性格だったか?

 ちょっとイラっとしてしまった。 そしたら制御が甘くなって魔力が暴走。
 肩のあたりから棘がドパッと生えてしまった。
 棘というか尖った鱗か?
 右腕がとがった鱗の塊みたいになってしまった。
 おまけに増殖している。

 他にも肌が金属質になったり、葉っぱが生えたりしとらんか?
 これどうすんだ?
 さすがにやばいんじゃないか? という気がする。

『どうもこうもない。統制すればいいだろう? 今までだってやってたんだから』

 あれ? そんな記憶はないですけど…

『いやいや、やっていたぞ。
 そもそもお前の身体はあの地下に閉じ込められていた時にすべて魔力で再構築したものだろう?』

 あー…そう言えばそうだったな。
 食べ物がなくてすべてを高濃度の魔力で補ってたんだ。
 仙人だよね、カスミを食って生きてますって…あれ?

『なんだ、気が付いていなかったのか。お前は言ってみればエネルギーの塊が人間の姿をしていたようなものだ。
 いや、体がすべてエネルギー性のものに置き換わったというべきかもしれん…
 それをお前の意志がお前の形に整えていたんだ。
 今はエネルギー流量が大きくなったからちょっと制御が難しくなっているだけだ。
 慣れれば同じようにできる』

 げげっ、それってすでに生き物じゃないような?
 ていうか精神生命体? エネルギー生命体?
 俺ってそんなんだったの?

『気にするまい。この世のすべてはもとをただせばこの源理力だ。
 お前の意志のもとに源理力で肉体を形成しているのだ。正しい生物の在り方と言えよう』

 いや、それって屁理屈? ていうか前代未聞?

『なに、昔は結構いたぞ、〝古龍〟と呼ばれていたやつらだな。
 源理力を浴びて昇華した何か。
 意志を持った力。
 正しくドラゴンだ』

 ええーーーーーっ、と思ったが、まあ、それに関してはどうしようもなかったな。仙人みたいに魔力カスミで暮らさないと本当に死ぬどころか消滅していたわけだし、他に選択肢はなかった。
 ただ状況は把握しておきたかったな。

 無理に抑え込むのをやめて湧き出す力を放置すると逆に変形は収まった。
 そのうえで〝自分〟と言うのを認識したら形もあっという間に元に戻る。

「なるほど、これが古龍ということなのか…」

『いや、違うぞ』

 いや、今あんたそう言ったじゃん。

『さっきまでが古龍なんだ。今お前は源理力の吹き出し口の一つだからな。源理の獣に近い。我の同類だな』

 がっくりと膝をついた。
 何してくれてんの?
 いや、こいつがやったわけじゃない。
 他に選択肢もない。

「一度冷静に話し合おうか。不都合を把握しておきたい」

『うーん、しかし今までとそうは変わらんぞ? 出力が上がったぐらいだ』

 安心できない。

『しかし、エネルギーの供給が切れたせいであの暴れていたやつが動き出すぞ?』

 忙しすぎる!

◇・◇・◇・◇

「おや、お帰り、早かったね」

 イアハートが軽口をたたくが、はっきり言ってぼろぼろだ。かなりやられている。
 やったのは当然グージェル。
 だが随分形が変わっているな。

「あれ、本当にグージェルですか?」

「ああ、間違いないね」

 俺は回復魔法を発動させながらイアハートと話をする。
 イアハートの話だと、地面に落ちて力を吸い上げていたグージェルは力の供給が切れた瞬間から縮みだしたらしい。

「一瞬そのままケリがつくかと思ったんだがねえ」

 空に浮かんだ巨大な龍の巣のようなグージェルはどんどん縮んで最後には10mほどの球体になり、その中から浮かしたのが今のグージェルだったそうだ。

「一言で言うと出来損ないだな」

「?」

 イアハートが首をかしげるが、まあ、無理はない。イアハートは〝真理《あいつ》〟を見たことないからな。
 そう、グージェルは真理の出来損ないのような姿をしていた。

 基本の形は龍だね。東洋風の龍。ただごつごつした枝をより合わせて作ったいびつな龍。
 人間の腕に似た腕が六本生えていて、これは木の枝のようだ。関節が無茶苦茶についたいびつな腕。翼も葉っぱを張って重ねたようなのが六枚生えていて、枝や蔓を集めて作ったあいつの案山子と言った感じ。

「おそらくだけどね、エネルギー供給が絶たれたせいで、ため込んでいた力を固めに固めてあんな姿にしたんだと思うね。
 ただあんなでかかったのがあの大きさだ。どんな出力なのか想像もつかないよ」

 出来損ないの龍はこちらを警戒しつつゆっくりと宙を舞っている。
 とりあえず…やってみるしかないか…

「ずいぶん警戒されているじゃないか」

「おれ?」

「そうさ、こいつは私にも全く興味を示さなかったのさ、私が攻撃をかけるからそれを払っていたぐらいだね。
 それだけで私はこのざまさ。
 攻撃も全く効かなかったしね。
 あいつが興味を示したのはあんたが初めてさ」

 さて、どういう基準で動いているのかな?
 あんまり街中とか言ってほしくないんだけど…

「あれの弱点って何かあるかな?」

「元が樹木だからね、昔は火を嫌ったんだけど…」

 イアハートの答えに納得する。
 確かに木なら日には弱いかもしれない。

「火…火か…」

 とりあえず周囲に重力結界を張ってそれを圧縮。
 大気を圧縮するんだ。
 結界の大きさだと足りなかったみたいなんでさらに空気を集めて押しつぶす。
 圧縮された空気は速やかにプラズマ化する。

「とりあえず数千度という感じかな」

 それをグージェルにたたきつける。
 勢いよく飛んだそれはグージェルに叩きつけられ、その熱量を開放しつつ空中で火球に…

「さて、どんなもんかな?」

 ってやっぱり全然効いてないな。
 あいつも源理力で変質したのなら言ってみれば古龍だろうし、ぶっちゃけエネルギー生命体なわけだ。
 今更火はきかないか…多少は元の性質を引きずってくれているとよかったんだけど…

「げげっ」

「まずいね、まねされたよ」

 グージェルの口に周辺の大気が飲み込まれていく。
 そしてそこに光り輝く弾が、プラズマの塊が…

 ドン! という音とともにドラゴンブレスよろしくプラズマ弾がこっちに飛んできた。
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