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12章 宗七の働き

1話 宗七のいない扶桑

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 俺たちが国府の城に滞在している時、宗七は国府を訪れている。
 宗七たちは、旅に必要なものを補充すると大治に向かう。
 このため、俺たちは宗七が来ていることに気づかずにいる。
 城には1週間滞在して、鉄製の官位の証を受け取ると国府を出発する。
 城の門を出ると町の人々が見送りに出ている。
 俺たちは国府から扶桑を目指す。
 俺たちは鬼柳が何か仕掛けてくるのではないかと警戒する。
 1日目の夕方が来る。
 寝る場所を決めると美代が陣を張る。
 深夜一つ目が2匹来るが、しばらく付近をうろつくと去って行く。
 2日目は化け物は来ない。
 3日目の午後、俺たちは扶桑に着く。
 俺は門番に言う
 「熊野つなである。領主の植松殿にお目通り願いたい。」
門番の1人が館に走って行く。
 俺たちは馬に乗り、ゆっくり館に向かう。
 町の人々が、俺たちに気づき声をかける
 「おかえり。」
 「討伐成功おめでとう。」
俺たちは町の人々に手を振ってこたえる。
 館に着くと植松良房が出迎える
 「黒鬼討伐尾までとうございます。」
 「ありがとう。」
 「話は中でしましょう。」
良房は、俺たちを広間に案内する。
 彼は話し始める
 「つな殿、腕のけがは大丈夫ですか。」
 「はい、治るのに少しかかりそうです。」
 「つな、油断した。」
清音が言う。
 「それでは、菊姫との結婚はもう少しかかりそうですね。」
 「やはり結婚するんですね。」
 「つな殿、他人ごとではありませんよ。菊姫は、ずっと待っていたのです。」
 「分かっていますが、実感が持てないのです。」
 「今のうちに覚悟を決めておいてくださいよ。」
 「はい。」
 「宗七のことは聞いていますか。」
 「何のことですか。」
 「彼は菊姫の勅命で鬼柳を調べています。」
 「姫様が命じたのですか。」
 「正確には、帝の指示です。」
 「つなさん、帝に話しましたね。」
 「ああ、話した。」
俺は、話すべきでなかったのではと後悔する。
 「宗七さんはどこに行ったんですか。」
 「大治に向かいました。大治の商人に奴国の商人を紹介してもらうつもりのようです。」
 「可能なのですか。」
 「難しいでしょう。」
俺は宗七ならやり遂げそうな気がする。
 俺たちは館を出ると角倉に行く。
 もちろん宗七はいない。
 番頭が迎えに出てくる。
 俺たちはいつものように離れを借りる。
 俺と清音は、母屋の特別の客のための部屋で番頭と話をする。
 番頭は、心配そうに俺に聞く
 「主人は角倉に戻って来るでしょうか。」
 「俺も宗七さんに会っていないのでわかりませんが、仕事は成功させると思います。」
 「つな様と清音様は主人が何をしているのか知っているのですか。」
 「話すことはできません。彼が帰るまで角倉を守ってください。」
俺たちは宗七の役割を番頭に話すわけにいかなかった。
 彼のために余計なことはできないのだ。
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