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1章 井戸の呪い

5話 亜香子の霊視

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 鬼頭亜香子は、翌日、野分寺に行くことにする。
 亜香子たち3人は、山方市内のビジネスホテルに泊まる。
 亜香子は、みおに聞く
 「3人の子供たちから手足がしびれるような感じがしたわ。みおは何を見たの。」
 「手足がしびれる感じは私もしました。」
 「3人に何かあったんでしょ。」
 「3人の首に髪の毛のようなものが巻き付いていました。」
 「3人とも怨霊に目を付けられているのね。」
 「それだけではないんです。髪の毛のようなものは燃えるように赤く光っていたんです。」
 「怒りが強いようね。」
 「あんな強力なもの見たことがありません。」
 「私たちの手に負えないかもしれないわね。」
 「明日行く、野分寺は危険なところですよ。」
 「ええ、覚悟しているわ。」
霊を見る目は、亜香子よりみおの方が優れている。
 危険ならみおは、野分寺に行くことを反対するであろう。
 そのみおが、注意しかしない。
 みおにも思うところがあるのだろう。
 その頃マッスルは、筋トレに励んでいた。
 翌日の朝、助手のマッスルの運転で、亜香子とみおは野分寺に向かう。
 寺に着くと、入り口には、細井和重の塚と小川武信の塚があり、塚の間に細い道がある。
 細い道は、野分寺の境内に続いている。
 亜香子は車を降りて、寺を見る。
 野分寺は赤く燃え、死霊たちの怨嗟の声が聞こえてくる。
 みおは車から降りることが出来ない。
 彼女には、野分寺が燃え、死霊たちの怨嗟の声が聞こえるのは同じだが、入り口の2つの塚からは血が染み出している。
 塚の上には、細井和重と小川武信と思われる怨霊がいる。
 寺に続く細い道は髪の毛のようなものがうごめき、車に近づいてきている。
 みおは、亜香子に青い顔をして言う
 「先生、車に戻ってください。このままだと捕まります。」
 「分かったわ。」
亜香子はすぐに車に戻り、車を発車させる。
 こういう時の判断は、みおが的確なのである。
 車の中で亜香子はみおに言う
 「寺が赤く燃え、死霊たちの怨嗟の声が聞こえたのだけど、みおは何を見たの。」
 「2つの塚に細井和重と小川武信の怨霊がいました。」
 「ほかに、細い道が髪の毛のようなもので埋め尽くされて、うごめいて車に近づいて来ていました。」
 「私は、寺に気を取られていたみたいね。」
 「先生、どうするんですか。」
 「あんなの手に負えないわ。」
 「沙衣ちゃんに頼みますか。」
 「中野沙衣ね。」
亜香子は黙り込む。
 亜香子にとって中野沙衣は、ライバル関係にあった沙也加さやかの娘である。
 沙衣の実力は認めているが、自分の手に負えない仕事の後始末を頼むのは、複雑な心境である。
 午後、亜香子たちは恵子の父親に会いに行く。
 恵子の父親は、亜香子たちが来ると、達臣の父親とはなの父親を呼ぶ。
 亜香子は話し出す
 「朝方、野分寺に行ってきました。」
 「どうです。何とかなりそうですか。」
 「寺は燃え上がり、死霊の怨嗟の声が聞こえました。」
 「それに、寺の前の塚に細井和重と小川武信の怨霊がいます。」
 「どういう状態なのですか。」
 「かなり、危険な状態です。」
 「何とかなるんですよね。」
 「私の手には負えません。」
 「先生がだめなら、私たちはどうすればいいのですか。」
 「息子が死ぬのを待てというのですか。」
父親たちは亜香子に詰め寄る。
 「私より力のある払い屋を紹介します。」
 「その方なら何とかできるのですね。」
 「分かりません。彼女にとっても大変難しいと思います。」
 「その方も女性ですか。」
 「女性だと心配ですか。」
 「いいえ、そんなことはありません。」
 「彼女は現役の女子大生です。」
 「大丈夫なんですか。」
 「女子高生の時には、私より腕は上でしたよ。」
 「そうなんですか。」
 「これが彼女の事務所の電話番号です。事務所は夕方から夜にかけて2時間だけ開いています。」
 「そんなんで商売が成り立つのですか。」
 「依頼するかは、お任せします。」
 「時間がありますので検討します。」
 「私はお力になれませんでしたので、これで失礼させていただきます。」
 「出来れば子供たちを呪いから守って欲しいのですが。」
 「私ではお力になれません。」
 「そうですか、ありがとうございました。」
亜香子たちは去って行く。
 父親たちは話し合い、沙衣に仕事を依頼することにする。
 彼らには、それしか選択肢が残されていなかった。

 夕方、恵子の父親は、事務所に電話する。
 大学の講義を終えて事務所に来た中井祐二が電話を取る
 「中野沙衣探偵事務所です。」
 「探偵事務所ですか。」
 「はい、そうです。」
 「お祓いの件で電話したのですがお願いできますか。」
 「はい、そちらの方が本業ですから。」
祐二の返答に沙衣がムッとして言う
 「何が本業ですって。」
 「お払いだよ。」
 「私は探偵よ。」
祐二は、アルバイトを始めてから探偵らしい仕事をしたことはないが黙っておくことにする。
 「電話、代わるわ。」
電話を代わり、沙衣が言う
 「所長の中野沙衣です。」
 「鬼頭亜香子さんからの紹介で電話しています。」
沙衣は亜香子からの紹介と聞いて厄介な案件だと思う。
 「どのような要件でしょうか。」
 「子供たちが怨霊に呪われています。」
 「お子さんたちは無事ですか。」
 「いいえ、昨日、1人亡くなっています。」
 「亜香子は何か言っていましたか。」
 「子供たちの首に髪の毛のようなものがあると言っていました。」
 「それから寺が燃えているようになっていて、死霊の怨嗟の声が聞こえると言っています。」
 「ほかに寺の前の塚に細井和重と小川武信の怨霊がいると言って手に負えないと言っていました。」
 「かなり厄介そうですね。」
 「先生だけが頼りなのです。お願いします。」
 「分かりました。今からそちらへ向かいます。」
沙衣は、祐二とマツダ・ロードスター赤色 令和2年式を運転して山方市へ向かう。
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