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1章 井戸の呪い

6話 沙衣、仕事を引き受ける

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 沙衣の運転するロードスターは山方市内に入り、恵子の父親の家に着く。
 時間はすでに夜11時を過ぎている。
 沙衣は、手足に電気が走るようなしびれる感覚を感じる。
 一応、祐二に確認する
 「何か変わったことある。」
 「いいえ、何も。」
沙衣の想像通りの回答が返ってくる。
 祐二は、霊に非常に鈍感である。
 そのおかげで沙衣の助手が務まっている。
 沙衣は、インターフォンを鳴らす
 「はい。」
 「中野です。」
恵子の父親が玄関に出迎える。
 「ようこそ、お願いします。」
 「子供たちはいますね。」
 「分かるのですか。」
 「はい、変な感じがしたものですから。」
 「はあ。」
沙衣は、まっすぐ居間に向かう。
 彼女には、子供たちの居場所がわかる。
 手足に電気が走るようなしびれる感覚が強い方を目指せばいいのだ。
 居間には、達臣の父親、はなの父親がいる。
 そして、肝心の達臣、恵子、はながソファに座っている。
 沙衣が3人を見ると、3人とも首に髪の毛のようなものが巻き付いており、燃えるように赤く光っている。
 沙衣は、何度も首に髪の毛が巻き付いているのを見たことがあるが、燃えるように赤く光っているのは初めてである。
 彼女は、父親たちに言う
 「子供たちは、怨霊に捕まっています。」
 「何とかなりますか。」
 「試してみます。」
沙衣はミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開けると水を出す。
 水は流れ落ちず、沙衣の手のひらの上で刃の形になる。
 沙衣は達臣の首に巻き付いている髪の毛のようなものに水の刃を飛ばす。
 水の刃は髪の毛のようなものに当たると砕け霧散する。
 その場にいた者たちは驚く。
 水を自在に操っているである。
 祐二はみんなに
 「水を操るのは、彼女の能力ですから。心配ありません。」
と説明になっていない説明をする。
 みんな、納得するしかない。
 沙衣は、再度、水の刃を作る。
 今度は集中して固く鋭く作る。
 再び達臣の首に巻き付いている髪の毛のようなものに水の刃を飛ばす。
 今度は水の刃は砕けないが切れずに止まっている。
 沙衣は、水の刃を回転させる。
 しばらくすると髪の毛のようなものは、切れて霧散する。
 彼女は、さらに恵子とはなの髪の毛のようなものを切る。
 それとともに沙衣の手足に電気が走るようなしびれる感覚は消える。
 沙衣は、みんない言う
 「髪の毛のようなものは切って消しました。」
恵子の父親が聞く
 「子供たちは助かったのですね。」
 「いいえ。一時的なものです。」
 「まだ、ダメなのですか。」
 「はい、非常に強力な呪いです。髪の毛のようなものは復活するでしょう。」
 「どうしたらいいのですか。」
 「私が怨霊を倒します。」
 「あの、現役の女子大生と聞きましたが、本当ですか。」
 「はい、そうです。」
 「倒せるのですか。鬼頭先生はお手上げだと言っていました。」
 「やってみなければわかりません。」
 「怨霊を倒しても呪いが消えないときは呪い屋に解呪を頼みます。」
 「呪い屋に解呪してもらえばいいのではないでしょうか。」
 「いいえ、怨霊を倒さなければ意味はありません。」
 「分かりました。」
 「とりあえず、髪の毛のようなものは取り除きましたので、お子さんが今夜死ぬことはありません。」
 「ありがとうございます。」
夜遅いので沙衣と祐二は、恵子の父親の家に泊めてもらうことにする。
 部屋がないので2人は同じ部屋に寝る。
 祐二は、沙衣と同じ部屋に寝ることが出来るので夢見心地である。
 沙衣は、祐二に冷たく言い放つ
 「別に廊下で寝てもいいのよ。」
 「せめて部屋に入れてください。」
 「仕方ないわね。この線から入ったら殺すわよ。」
 「そんなに信用できませんか。」
 「祐二、ときたま、いやらしい目で私を見ているでしょう。」
祐二は、沙衣に見とれてしまうことがある。
 沙衣はそれを誤解しているようだ。
 「誤解ですよ。沙衣に見とれただけです。」
 「見とれるって、私に気があるの。」
 「ずうっと、好きでした。」
祐二は思わず告白する
 「ごめんなさい。祐二は、ただの助手ですから。」
沙衣が断ることは分かっている
 彼女は高校で何十人と男子をふってきているのである。
 祐二は諦めていないが、沙衣との距離は遠いと感じる。
 しかし、祐二は話もできなかったところから一緒の部屋に寝る所まで来たのだと自分に言い聞かせる。
 深夜、祐二は沙衣に半殺しにされ、廊下にたたき出される。
 どうやら、祐二は寝ぼけて沙衣が示した線を越えてしまったらしい。
 沙衣は線に結界を張っており、祐二が線を越えたことにすぐ気づく。
 彼女は先手必勝とばかりに一方的に祐二を叩きのめして廊下に放り出す。
 朝になり、祐二は廊下にのびている。
 沙衣は起きると祐二を見下ろして言う
 「お猿さんには、しつけが必要ね。」
 「誤解だって。」
祐二は弁解する。
 「次はないわよ。」
沙衣は、物騒なことを言うが本気のようだ。
 朝食になり、沙衣と祐二は、恵子の家族と食事をとる。
 「昨晩は騒がしかったようですが何かありましたか。」
恵子の父親が沙衣に聞く
 「しつけの悪い猿が出ましたの。」
沙衣の言葉に父親は祐二を見る。
 祐二は痛ましい姿をしている。
 沙衣は、それより恵子の首を見ている。
 昨夜、消したはずの髪の毛のようなものが再び巻き付いているのである。
 沙衣は、怨霊を退治するまで髪の毛のようなものを消し続けなければならないと考える。
 恵子の父親は沙衣の視線に気づき
 「恵子の首に何かありますか。」
と聞く。
 沙衣は、父親に言う
 「髪の毛のようなものが戻っています。毎晩、消す必要があるようです。」
 「そうですか、私からみんなに伝えておきます。」
恵子の父親は答える。
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