上 下
16 / 105
2章 鏡界

5話 鏡界の男

しおりを挟む
 沙衣と宗一は、暗闇の中に立っているがお互いのことはよく見える。
 しかしどこにも光源はない。
 宗一が沙衣に聞く
 「ここはどこですか。」
 「私もわからないわ。」
沙衣は答えると座ろうとする。
 しかし、体が回転して上下がさかさまになる。
 「何これ上下がないわ。」
 「戻ってください。スカート見えますよ。」
 「見たら殺すわよ。」
 「言葉遣いが乱暴ですね。」
 「おしとやかにはなれませんの。」
沙衣は体を戻しながら言う。
 彼女は考える。
 この状況を作り出しているものがあるはずである。
 しかし、見る限り闇が続いている。
 しばらくすると声が聞こえてくる
 「困りますね。どうやって出たのですか。」
 「誰、出てきなさい。」
沙衣が言うと暗闇の空間が裂け、男が出てくる。
 歳は30代にも50代にも見え白いスーツに赤いリボンタイをしている。
 出来の悪いマジシャンのようだ。
 沙衣は問いかける
 「あなた誰。」
 「私に名前はありません。ただこの姿見は鏡魔の姿見と言われています。」
 「私たちどうしたら出られるのかしら。」
 「分かりません。鏡を出た者はいません。」
 「あなたを倒したら出られるのかしら。」
 「分かりません。だいたいどうやって出てきたのです。」
 「部屋を壊したのよ。」
 「そんなことできるわけありませんよ。」
 「壊したわ。」
 「空間を壊したのですか。」
 「そう、空間を壊したら出られるのね。」
 「どうやって壊すのですか。」
 「どうしましょ。」
 沙衣は考える。
 宗一が提案する
 「この人に鏡のことを聞いた方が良いのではありませんか。」
 「そうね、情報が欲しいわ。」
宗一が男に聞く
 「この鏡はどうして作られたのですか。」
 「昔、男が好きな女性と永遠に一緒にいるために作ったのです。」
 「相思相愛だったの。」
 「片思いです。」
 「最低ね。」
 「まあ、それでその男は鏡の中にいるのですか。」
 「はい、その女性と一緒にいます。」
 「その男に会えないのかな。」
 「無理です。それぞれの空間は閉じていますので入ることも出ることもできません。」
 「鏡はどのようにして作られたんだ。」
 「職人の手によって作られました。」
 「そうじゃなくって、ほかの鏡と異なるところはあるかな。」
 「魔石を鏡の裏に仕込んでいます。」
 「それね。そこに連れて行ってくれる。」
 「魔石は鏡の外にあります。」
鏡の外では手が出せない。
 沙衣は、美湖が気づくことに期待するしかないのかと思う。
 宗一は質問する
 「その魔石を取ったら、鏡の外に出れるのかな。」
 「分かりません。ただの鏡に戻ると思います。」
沙衣が質問する
 「あなたは鏡の世界で何をしているの。」
 「ただいるだけです。」
 「何もしないの。」
 「はい、見ているだけです。こうして話をしたのも初めてです。」
沙衣は、男と魔石のつながりを疑っているが答えを出せずにいる。

 樹は、知り合いの払い屋と呪い屋に鏡魔の姿見について知っていることはないか電話をかけ続ける。
 そして、清家南海せいけなんかいと言う呪い屋が鏡魔の姿見について調べていることが判る。
 祐二と樹は、清家南海を訪ねることにする。
 樹は南海に言う
 「今、鏡魔の姿見を調べています。少なくとも2人の人が姿見の前で消えています。」
 「鏡魔の姿見は、私の家に受け継がれる呪術で作られています。」
 「どんな方法で作られているのですか。」
 「教えることはできません。」
 「では、消えた人を助ける方法はありませんか。」
 「ありません。」
 「どういうことですか。呪具なら解決方法があるのではないのですか。」
 「消えた人間は小部屋に閉じ込められます。そこは時が止まった世界です。」
 「その部屋を出ることはできるのですか。」
 「いいえ、永遠の牢獄です。出ることはできません。」
祐二は、沙衣なら小部屋を壊していると信じて言う
 「もし、小部屋を出たらどうなります。」
 「暗黒の世界に放り出されます。」
 「そこから出ることはできないのですか。」
 「内側からでは無理でしょう。」
 「小部屋の空間を破壊できたとしても、暗黒の世界は無限に続いています。」
 「外からはどうですか。」
 「鏡を割るか、普通の鏡に戻せばあるいは・・・」
 「可能なんですね。」
 「可能かもしれないということです。」
樹が祐二に言う
 「沙衣が小部屋を出ているとは限りませんよ。」
 「あの沙衣がおとなしくしていると思いますか、」
 「そうですが・・・」
南海が言う
 「人間に小部屋は出られませんよ。」
 「空間を破壊したら出られるのですよね。」
 「そうです。」
 「なら、可能性がありますよ。」
祐二は言い切る。
 南海は、2人に聞く
 「いま、お二人の元に鏡魔の姿見があるのですか。」
 「はい、あります。」
 「譲っていただけませんか。」
 「預かり物ですので、譲ることはできません。」
 「ではせめて鏡を調べることはできませんか。」
樹が答える
 「それは当主に相談しないと答えられません。」
 「ぜひ、お願いします。長年探していたの物なのです。」
 「分かりました。後日、連絡します。」
祐二と樹は、一旦、五條家に帰ることにする。
 2人が帰った後、南海は笑い出す
 「見つけたぞ。ついに見つけたぞ。」
南海の顔は執念を感じさせる。
しおりを挟む

処理中です...