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2章 鏡界

6話 沙衣の帰還

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 祐二と樹は五條家に戻ると美月と美湖に話をする。
 美湖が言う
 「その南海と言う呪い屋が沙衣を戻せるというの。」
 「その可能性があります。」
美月が言う
 「その呪い屋は何か要求しましたか。」
 「いいえ、ただ調べたいと言っていました。」
 「それは胡散臭いですね。」
樹は美月が物欲に囚われているだけだと思うが黙っている。
 樹は当主の美月に判断を仰ぐ
 「どうしますか。鏡魔の姿見に詳しいのは清家南海だけですが。」
 「お願いするしかありませんね。十分注意するのですよ。」
 「分かりました。」
樹は、南海に連絡する
 「南海さんに姿見の調査をお願いすることになりました。」
 「そうですか、ありがとうございます。」
 「それで、南海さんから何も要求はないのですか。」
 「ありません。調べるだけで十分です。」
 「では、お願いします。」
樹は美月に報告する
 「明日、姿見を調べることになりました。」
 「要求はありましたか。」
 「確認しましたがありません。」
 「そうですか。」
美月はうなづくと祐二を見る
 「中井祐二さんでしたね。」
 「はい、そうです。」
 「沙衣の助手と聞きましたが、それだけの関係ですか。」
 「はあ、助手と言うだけです。」
本当は彼氏に格上げしてほしいが、今は絶対に無理である
 「それで、彼女はいますか。」
 「いません。」
 「美湖はどうですか。」
 「えっ。」
 「優良物件ですよ。」
祐二には理解できない。
 美湖も高校時代、沙衣と共に男子の屍を積み上げたハートブレーカーズの片割れである。
 それがなぜか美湖の母に縁談を勧められている。
 「なぜ、僕なのですか。」
 「この世界では不思議なことに取り乱さない人材が必要です。あなたは沙衣の助手が務まっているのだから合格です。」
どうも美湖の母に見込まれたようだ。
 美湖が割り込む
 「祐二君は沙衣が好きなんだから無理です。」
 「そうなんですか。」
 「はい、片思いなんですが。」
 「手の届かない夢を追うより、現実を見たほうがいいですよ。」
美月は祐二を攻める。
 「まだ大学生ですから結婚は考えていません。」
 「お母さま、いい加減にしてください。」
 「美湖もそろそろ相手を探さないといけませんよ。」
美月の矛先が美湖に向いたので美湖は黙る。
 祐二は、大学生のうちに沙衣との間をできるだけ近くしたいと考える。
 翌日、祐二と美湖、美月、樹が五條家で待つ中、清家南海が来る。
 南海は、離れに通される。
 離れの一室には、和紙で封印された鏡魔の姿見が置かれている。
 部屋には姿見以外何も置かれていない。
 5人は部屋に入ると姿見の封印を取ろうとする。
 南海が注意する
 「鏡に自分の姿を写さないようにしてください。鏡に取り込まれます。」
 「分かりました。」
祐二は返事をすると樹と鏡の面を裏に向けて封印を外していく。
 南海は封印が外された姿見を見ると感動に震えるように
 「これだ、これです。鏡魔の姿見です。」
と言う。
 美月が南海に言う
 「これからどうするのですか。」
 「調べさせていただきます。」
 「どのように調べるのですか。」
 「それは言えません。私1人で調べさせてください。」
 「大丈夫です。秘密は口外しません。」
 「それでは、調べることが出来ません。」
 「なぜですか。」
 「これは清家の秘密の技術です。何人にも見せることはできません。」
 「分かりました。私たちは部屋の外で待たせていただきます。」
美月は引き下がり部屋の外で待つことにする。
 南海は自分の姿を写さないように鏡を下にして鏡を枠から外し始める。
 彼は慎重に作業を進める。
 鏡を外し終えると枠を立てる。
 鏡がはまっていた面の中央に緑色の石がはまっている。
 南海の顔が笑いに歪む。
 彼は石を外すとポケットに入れる。
 すると床に置いていた鏡の下に人が現れる。

 沙衣は、男と話続けているが解決策は出ない。
 彼女は会話をやめて黙り込む。
 しかし、男はその場に居座っている。
 沙衣は、男に聞く
 「あんた、いつまでここにいるの。」
 「行くところありませんから。」
彼女は男を放っておくことにする。
 それからどのくらいじ時間が経過したかわからない。
 突然、男の姿が薄れていく。
 沙衣は、男に聞く
 「あんた、消えかかっているわよ。」
 「なぜでしょう。」
男はそのまま消えていく。
 すると暗黒にひび割れが生じる。
 沙衣と宗一は構えるが、何をすればいいのかわからない。
 そして暗黒が割れ、2人は落ちていく。
 2人は床にたたきつけられる。
 宗一が言う
 「何ですかこれ。」
 「分からないわ。」
沙衣が答える。
 見るとまた見知らぬ男がいる。
 場所はどこかの部屋のようだ。
 沙衣は、男に聞く
 「あなたは誰。」
男が答える前に部屋の引き戸が開き、美湖と祐二が入って来る。
 2人は抱き着かんばかりの勢いである。
 沙衣は、器用に美湖を受け止め、祐二を殴り飛ばす。
 彼女は、鏡の外に出てきたことと外された鏡を見て男が魔石を取り外したことを理解する。
 沙衣は、男に言う
 「魔石はどこ。」
 「何のことかわからないな。」
美月が南海に言う
 「何を隠しているのですか。」
 「私も驚いているんだ。鏡を外したら人が出てきて。」
沙衣が追及する
 「魔石が核になっているのは分かっているのよ。」
 「私は知らないぞ。」
美月が言う
 「この姿見は持ち主がいます。魔石が入っていたならそれも持ち主の物です。」
宗一が言う
 「持ち主は私なんですけど。」
南海が言う
 「鏡魔の姿見を譲ってください。」
 「10万ならいいですよ。」
宗一はちゃっかり値上げしている。
 南海は即金で支払う。
 「これで姿見は私の物だ。」
 「魔石はどうしたの。」
 「魔石も俺の物だぞ。」
みんなの視線が南海に集まる。
沙衣が言う
 「説明してもらえるかしら。」
 「この鏡は部屋の中で永遠に過ごすようにできている。」
 「部屋を壊さなかったらどうなっていたの。」
 「永遠に部屋の中だよ。」
 「えっ、知らないおじさんと永遠に一緒なんてごめんよ。」
沙衣の言葉に宗一は傷つく。
 彼女はさらに聞く
 「魔石をどうするつもり。」
 「これは清家の失われた技術なんだ。研究して新しい呪具を完成させるよ。」
 「良い物が出来たら連絡くださいね。」
美月が言う。
 祐二が南海に聞く
 「他の人はどうなったの。」
 「まだ鏡の中にいるよ。」
 「出すことできないかな。」
 「自分で部屋を壊さないと無理です。」
 「そうですか。」
祐二は後味が悪い。
 この後、宗一は五條の車で赤城家へ送り届けられる。
 こうして、沙衣の請け負った事件は解決する。
 沙衣の元には、五條から多額の請求書が届く。
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