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7章 麗姫

3話 今泉頼幸

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 国枝町の町長は五條家に電話する。秘書が霊能者の情報を調べて探し出したのだ。
 「白井と申します。霊能者の件で電話しました。」「お待ちください。今電話を代わります。」
五條樹が電話に出る
 「霊能者の用件だそうですがどのようなものでしょか。」「国枝町町長の白井です。あの化け物を退治してくれないでしょうか。」
樹は国枝町の人食いの化け物の案件だと考える。
 「私の知り合いにそのような知り合いはいません。」「調べて電話しているのですよ。お座敷様を退治したのは五條の関係者でしょ。」
白井は沙衣のことを言っている。しかし、彼女は仕事を受けないだろう。
 「分かりました。一応、打診してみます。」「お願いします。料金は言い値を払います。」
樹は離れに行き美月に話す
 「国枝町の件で、町長から依頼の電話がありました。」「依頼を受けたのですか。」
 「いいえ、保留にしています。」「沙衣にしか対応できないでしょう。」
 「沙衣にはお座敷様の件があります。」「依頼を受けないでしょうね。」
 「そう思います。町長は言い値を払うと言っていますが。」「受けるなら命に釣り合う料金を請求しましょう。」
 「とりあえず、沙衣に連絡を取ります。」「お願いします。」
樹は3年前のお座敷様の事件を思い出す。迷路のような家に潜むお座敷様に多くの人たちが殺される。
 当時、沙衣は美湖と2人組で払い屋のアルバイトをしていたが、仮面で顔を隠してオカルト番組にも出ていた。
 それを見ていたお座敷様は、戦う相手に2人を名指しする。2人は悩んだ末、最後の仕事として受けることにする。
 2人は、何とかお座敷様を退治するが、その後、マスコミに騒がれ続ける。
 今回、仕事を受ければ、再びマスコミに騒がれるだろう。沙衣はそれをよしとしないはずだ。
 それに今回の相手は強敵である。勝てるとは限らない。
 樹は、沙衣の携帯に電話する
 「樹さんどうしました。」「仕事の依頼が来ている。」
 「どのような仕事ですか。」「国枝町の件だ。料金は言い値を払うと言っている。」
 「やはり、来ましたか。お断りします。」「わかった。」
沙衣の答えは樹の想像通りだった。
 樹は白井に電話する
 「この依頼はお断りします。」「なぜだ言い値を払うと言っているんだぞ。」
 「お金だけで仕事をしているのではありませんので。」「後悔するぞ。」
樹は電話を切る。
 町長の白井は、麗姫の首に賞金を懸ける。
 麗姫を退治した者に3000万払うと公言したのだ。
 腕に覚えのある霊能者や猟銃を手にしたものが麗姫に挑戦するが彼女は全てを返り討ちにする。
 その後、麗姫に挑戦する者はいなくなる。
 マスコミは、町長の家の周りに集まっている。そこに美しい女性がやってくる。
 女性は、マスコミの1人に質問する
 「おぬしら何をしている。」
質問された男は美人の質問に快く答える
 「取材をしているのさ。」「それをしてどうなるのだ。」
 「全国に情報を伝えるんだよ。」「それはいい。我を取材しろ。」
男は言うとおりにする
 「あなたは誰ですか。」「麗姫である。」
その言葉に男は目をむく。そして言う
 「ただいま麗姫が現れました。なぜ、ここに来たのですか。」「贄の催促に来たのじゃ。」
 「町長の家に来たのですね。」「我に変わって、伝えるがよい。1週間後に娘をもらい受けに来るとな。」
 「1週間後に攫いに来るのですね。」「その時は一家皆殺しにする。それまでに生贄を差し出すことだ。」
麗姫が現れたと知り、マスコミは麗姫を取り囲む。
 カメラマンが
 「麗姫さん、こちらに目線をください。」
などと要求する。麗姫は機嫌がいいのか要求にこたえる。マスコミは活気づく。
 町長の白井は、マスコミの取材に憤りを感じる。
 悪者のはずの麗姫がマスコミにもてはやされているのである。
 白井は麗姫の賞金を4000万に上げる。
 翌日、青年が1人白井家を訪れる。町長の秘書が応対する。
 「何か用ですか。」「妖を退治してほしいのだろう。」「お入りください。」
青年は居間へ通される。ソファに座ると町長の白井が入って来る。
 「町長の白井です。」「陰陽師の今泉頼幸いまいずみよりゆきです。」
 「化け物を退治してくれると言うのは本当ですか。」「4000万出せるのだな。」
 「そのくらい現金で払います。」「分かった引き受ける。生贄の娘を連れて来てくれ。」
 「娘に危険が及ぶのですか。」「心配ない、依り代を作るだけだ。」
白井は孫娘の凛を連れてくる。
 しばらくすると白井家から車が出発する。後部座席には頼幸と凛が座り、秘書が運転している。
 車は丸山に向けて走り山道に入る。頼幸は途中で車を止めて、凛と車から降りる。
 頼幸は秘書に言う
 「いつでも逃げれるように車の向きを変えてエンジンをかけたままにしておいてください。」「分かりました。」
秘書は汗をかいている。頼幸が負ければ自分も殺される恐れがある。
 頼幸は、泣き叫ぶ凛を引きずって、山道を登って行く。
 祠に着くと麗姫が現れる。
 凛は叫ぶ
 「いやー、殺さないでー」
麗姫は薄笑いを浮かべ言う
 「生きの良い贄じゃの。お前は帰ってよいぞ。」
頼幸は黙って立っている。麗姫が凛の腹を裂くと凛は紙の人型に変わる。
 「たばかったなー」
麗姫が恐ろしい形相になって怒る。
 頼幸は
 「おまえにはそれで十分だ。」
と言うと紙を2枚投げる。それは鬼になる。
 「前鬼と後鬼のつもりか。」
麗姫が飛びのくと2匹の鬼は彼女に襲い掛かる。
 麗姫は鬼の爪を避けながら後ずさる。鬼は連携していて隙が無い。
 彼女の右肩に爪が届く、爪は肉を引き裂くが彼女の傷はふさがって行く。
 麗姫は次に左腕をもがれるがそのまま鬼に接近する。そして右腕で鬼の腹を2つに裂く。
 すると鬼は紙に戻る。麗姫はもがれた左腕を拾うと傷口を合わせる。すると腕は元通りになる。
 それを見た頼之は逃げ出す。麗姫はもう1匹の鬼の相手をする。
 鬼は鋭い爪を持った腕を振り回す。麗姫は鬼の右腕を掴むと引きちぎる。
 さらに後ろに回り込むと頭を掴みねじ切る。鬼は紙に戻る。
 麗姫は頼幸の後を追い始める。しばらくすると山道を走る頼幸を見つける。
 彼女は回り込み道を塞ぐ、そして、頼之の腹を引き裂く。
 しかし、頼幸は人型の紙になる。
 「してやられたか。」
麗姫は独り言を言う。
 頼幸は秘書が運転する車の後部座席で青くなっている。
 麗姫は、頼之のかなう相手ではなかった。
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