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7章 麗姫

2話 昔話

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 国枝町には、麗姫の話が、昔話として語られている。
 その話では、美しい人食いの天女が現れて、裏の家に白羽の矢を立て、その家の娘を山の祠に連れて来させて喰らっていた。
 村人たちが困っていると話を聞きつけた国枝の殿様が天女を退治しようと追い立て、ついに天女は天に逃げ帰って行った。
 そして、国枝町にある丸山まるやまには祠があり、麗姫の祠と呼ばれている。
 佐久間由美さくまゆみは、今年から高校生になり、町にある高校に通学している。
 彼女には、両親と中学生の弟がおり、戸建ての家に住んでいる。
 ある日、佐久間由美の家に白羽の矢が立つ。
 それは近所の人が見つけて知らせてくれたのである。
 両親は悪質ないたずらと思い警察に相談する。
 警察ではストーカーの恐れがるとしてパトロールを強化してくれることになる。
 由美は、町の昔話を思い出し気持ち悪がる。
 数日、何事もなく過ぎていく。白羽の矢が立てられてから2週間後の夜、玄関が突然開けられる。
 玄関のドアにはカギかかけられ、ドアチェーンもかけられていたが、人間業とは思えない力で引き開けられる。
 ドアのカギは壊れ、扉にはひびが入っている。そして、暗闇の中を何者かが玄関に入って来る。
 由美の両親は飛び起き灯りをつける。父親が野球の木製バット持って玄関に向かうと美しい女が立っている。
 父親はバットを構えて怒鳴る
 「なんだお前はー」「私は麗姫、早く生贄を捧げないか。」
父親はバットで殴りかかる。麗姫はバットを受け止めると、バットを握り砕く。
 麗姫は、折れたバットを父親の腹に突き刺す。それを見ていた母親は悲鳴を上げる。
 母親は逃げようとするが腰が抜けて動けない。麗姫は、母親の首の骨を折り、静かにさせる。
 階段には由美と弟がいる。麗姫は階段に座り込む由美と弟を見下ろして言う。
 「ここにいたか、我が贄よ。」「な、なんですか・・・あなたは」
由美は、震えながら声を振る絞る。
 「何を言っておる。白羽の矢を立てたら贄を祠に連れてくる決まりであろうが。」「昔話でしょ。」
由美は涙目で言うが、麗姫は冷たい目で見降ろしている。
 「今回は特別に私が迎えに来てやったぞ。」「いや・・・来ないで」
麗姫は怯える由美を担ぐと弟に言う
 「皆に伝えるがよい、麗姫が帰ってきたとな。」
弟は恐怖で声も出ない。麗姫は由美を連れ去る。
 その後、近所の人の通報で警察官が駆け付ける。弟は、出来事と姉が麗姫に連れ去られてことを説明する。
 警察は人を集め、15人の警察官が丸山の祠へ向かう。そこには麗姫はすでにいない。食い荒らされた由美の死体が見つかる。
 事件はマスコミに大きく取り上げられるが、麗姫は見つからない。
 住民は不安な日々を送ることになる。1年後、またどこかの家に白羽の矢が立つことになる。
 引っ越しをする者まで出てくる。県からの要望で、国が自衛隊を対応させることにする。
 そして、警察は麗姫を探し続けるが居場所は分からない。
 1年後、国枝町の町長の家に白羽の矢が立つ。家には孫娘の白井凛しらいりんがいる。
 警察の捜索で祠に麗姫が舞い戻っていることが判る。陸上自衛隊の部隊が麗姫の抹殺に動く。
 部隊は祠を包囲しながら気配を殺し忍び寄る。祠を目視できるところまで包囲を狭めたが麗姫の姿はない。
 部隊は本部に通信して指示を受ける。そして、そのまま、待機する。
 麗姫は包囲の外から部隊を見ている。彼女は以前、侍に包囲され、謀られ苦汁をなめている。
 彼女は自衛隊の部隊を現代の侍と認識している。彼らは刀を帯びていないが鉄の棒のようなものを抱えている。それが武器に違いないと考える。
 彼女は隊員を一人一人葬ってゆく、足音も気配も消している。残りが一人になると余裕が出てくる。
 彼女は隊員の横に突然姿を現して言う
 「私と遊ばないか。」
隊員は反射的にナイフを抜き切りつける。麗姫の顔に大きな傷ができる。
 「いきなりひどいことをなさるのね。」
隊員は飛びのき、銃口を麗姫に向けるがその時には姿がない。それどころか隊員は麗姫に頭を掴まれている。
 すでに顔の傷は消えている。麗姫の美しい顔が、隊員の最期に見たものになる。
 自衛隊の部隊が全滅したことはニュースになる。町長の家の周りにはマスコミが集まっている。

 沙衣は、事務所のテレビを不機嫌な顔で見ている。ちょうど、国枝町の事件を放送している。
 祐二が沙衣の不機嫌面を見て言う
 「どうしたの。気分でも悪い?」「そうよ。嫌な予感がするわ。」
沙衣は高校1年生の時、戦ったお座敷様のことを思い出している。この時も国が自衛隊員10人派遣して全滅している。
 彼女は、この時、世間の注目を浴びたため、祓い屋のアルバイトをやめることになったのだ。
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