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10章 管狐

5話 沙衣への依頼

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 美月は、辻直高に電話する。
 「中野沙衣の呪殺に失敗しました。」「いくら払ったと思っているんだ。」
 「手強いと申したはずです。一歩間違えれば五條は滅んでいましたよ。」「私が依頼したことはばれていないだろうな。」
 「それは大丈夫です。」「どうすればいいんだ。」
 「殺し屋を雇えば可能性は低いですが成功するかもしれません。」「私が殺しに手を染めたことが判れば辻電工は破滅だ。」
 「それでは失礼します。」「・・・」
直高はそれから呪い屋を3度雇うがすべて失敗に終わる。
 管狐は直高に言う。
 「私の消滅は決まっています。」「お前がいないと私はどうすればよいのだ。」
 「事業は軌道に乗っています。私は必要ありません。」「しかし・・・」
直高は、自分が管狐に頼り切っていたことを実感する。

 直之は、辻家の者たちが集まった所で皆に言う
 「直高を排除できなければ管狐を排除しようと思う。」「考え直せ、直之。管狐は辻家の宝だぞ。」
 「そうだ、直高を呼び戻そう。」「管狐が戻れば辻家は勢いを取り戻す。直高を迎えよう。」
 「裏切り者ども出て行け!辻家は私のものだぞ。」「言い過ぎだ。付き合いきれん。」
直高を呼び戻そうとした者たちが立ち去る。直之は続ける。
 「管狐は、しょせん妖怪に過ぎない。祓ってしまおう。」
直之のいとこが言う。
 「寒沢の怨霊を祓った祓い屋がいます。」「この前の呪い屋のように失敗しないだろうな。」
 「でしたら、自分で調べて雇ってください。」「分かった。辻家は俺が守る。」
直之の態度にいとこまで匙を投げる。直之は寒沢について調べる。すぐに寒沢の岩山が崩れた事件に行きあたる。
 ネットでは、怨霊の仕業だと噂されており、その怨霊を中野沙衣が退治したとある。
 中野沙衣について調べていくと、以前、世間を騒がせた迷路の家でお座敷様を退治していた。
 さらに国枝町で麗姫という化け物を退治していることもわかる。直之は独り言を言う。
 「こいつは本物だ。管狐を祓うなど造作もないに違いない。」
直之は直高から管狐を奪うことを考え笑い出す。
 彼は夕方、中野沙衣探偵事務所に電話する。
 「中野沙衣さんですか、仕事の依頼があって電話しました。」「どのような依頼ですか。」
 「辻直高が使役している管狐を退治してほしいのです。」「分かりました。」
沙衣は依頼を引き受ける。彼女には依頼人の事情は関係ない。
 彼女は、祐二に言う。
 「仕事が来たわよ。」「どんな仕事ですか。」
 「辻直高が使役している管狐を祓うのよ。」「人のものを祓うのですか。」
 「そうよ。」「とりあえず、辻直高という人を調べましょう。」
祐二は辻直高について調べ始める。
 「この人、辻電工の社長ですよ。」「辻電工?」
 「車の電装品を作っている会社です。」「辻直之を調べてみて。」
 「辻商事の会長で関連会社が多いようです。」「2人は身内じゃないの。」
 「分かりません。」「どちらにしろ、管狐を祓うのは変わらないわ。」
沙衣と祐二は直高の行動を調べる。そして、毎朝、自宅から会社まで10分ほど歩いて行くときに1人になることが判る。
 2人は人通りが少ないところで直高を待ち伏せる。直高は1人で歩いているようだが、沙衣には彼に寄り添って歩く管狐が見える。
 沙衣と祐二は、直高の行く手を塞ぐ。彼は2人に聞く。
 「祓い屋か?」「そうよ、管狐を祓いに来ました。」
 「中野沙衣さんだね。依頼の倍の金額を出すから見逃してくれ。」「私を呪殺する依頼をしたのはあなたですね。」
 「・・・」「管狐は、近い未来が判るそうですね。」
 「そうだ。」「なら、諦めてください。」
 「君を恨むよ。」「ご自由にしてください。」
沙衣は、ミネラルウォーターのペットボトルから水を出すと水の刃を飛ばす。水の刃は管狐を切り裂き霧散させる。
 「なんてことをするんだ。直之が依頼したんだね。」「依頼人を教えることはできません。」
沙衣と祐二は、その場から去る。祐二は沙衣に言う。
 「後味が悪いね。」「私は、正義の味方ではないのよ。依頼をこなしているに過ぎないわ。」
沙衣は、直高と直之は憎み合い続けるのだろうなと考える。
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