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とある世界の冒険者
三話目
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雨の降る音が聞こえる。ざあざあと鼓膜を僅かに震わせる音に、宿の二階に泊まっていた男は目を覚ました。
「…………朝、か」
誰かに確認するかのように呟くその声は憂鬱さを感じさせる。
少女から向けられる視線、その意味は分かっているつもりだ。
嬉しくない訳がない。だってそうだろう、街でも評判の看板娘で娘のように思っているのだ。
彼女の好意自体は嬉しい。手放しで喜びたくなるほどに。
もし自分がもっと若ければ確実に口説きに行った自信がある。
だが、あくまでそれはもしもの話、現実は違う。彼女は家族だ。自分にとって娘みたいなものだ。
生憎と男は家庭を持ったことはなかったが、もし娘がいたのならこんな風に接したのだろうと常々思っていた。
少女の想いに目を逸らしながら。
「全く……駄目な大人だな、俺は。女の子一人にさえ真っ直ぐに向き合えない」
こんな感情を抱いたまま彼女の好意を受けることが許されるのだろうか。いや、きっと許されない。
だけど、もう少し。
このモヤモヤした気持ちに蓋をしよう。
いつか、きっと…………
「二度寝してたのか……?」
ぼうっとした頭のまま窓を見てどうにも先程と太陽の位置が違うことに気づく。
どうやらまたいつのまにか二度寝に突入していたようだ。
「そろそろ起きるか……」
そう呟きながら、億劫そうに身体を起こす。
パキパキと身体から音が鳴るのを感じると、歳を取りつつあることを訴えかけられているようでもある。
「っし!」
だるい身体に喝を入れるかのように鋭く声を上げながらベッドから立ち上がる。
そろそろ朝食の時間が過ぎてしまうだろう。
この宿の美味い飯を食わないという選択肢は男には存在しなかった。
少し急ぎながら、一階へと続く階段を降りていった。
「ああ、少し、気まずいかな……」
そう零しながら。
「いってらっしゃい!」
そんな彼女の声に見送られながら、男は冒険者ギルドへと脚を向けた。
冒険者ギルドとは、簡単に言えば「魔獣関連専門の仕事斡旋所」である。
そこで魔獣の目撃情報を聞いて依頼を受注したり、達成した依頼の採算や素材の買取などをしている。
冒険者と呼ばれる者達は例外無く全ての者が冒険者ギルドに所属し、最低限管理され、支援されている。
恐怖と不安の対象である魔獣を討伐することから、王国民からは非常に多くの人から支持を得ている。
また、その影響国王ですら冒険者ギルドに配慮が必要となってくる程である。
歴史を感じさせながらも清潔でまるで古臭さといった印象を見る者に与えない内装に、珍しい二階建ての建物。
初めてこの冒険者ギルドザルツ支部を訪れた人達は驚く。
それは男も例外ではなかった。正直に言うと、大衆食堂や酒場のようなイメージを持っていたのだ。それが良い方向で覆されたものだ。
そんなことを考えながら、男は冒険者ギルドを入って入口の左手にある依頼掲示板から魔獣討伐の依頼を探し始めた。
今ではすっかり慣れたものだが、まだ冒険者に成り立ての新人の頃は右も左も分からず、困惑しながら依頼を受けたものだ。
どの依頼が自分の実力に見合ったものなのかすら分からなかったあの時は、何度も危険な依頼を受け付けに持って行って怒られたものだ。
流石に今はそんなことはないが、当時はそれに命を救われたと言っても良いだろう。
「討伐、討伐は、と…………ん、ファングウルフか……これにするか」
ファングウルフはその名の通り牙が発達し、たとえ金属製の鎧でさえ貫くという魔獣である。
主に単独で行動しており、余程のことがない限り群れることはない。
なので誰とも組まずに活動している男のような冒険者にはちょうど良いのだ。
とは言え、それなり以上の実力が必要だが。
ファングウルフの討伐依頼書を掲示板から剥がし、入口から向かって一番奥にある受け付けに持って行った。
「こんにちは、今日は少し遅めでしたね。寝坊でもしたんですか?」
「まあ、そんなところだ。夢見が悪くてな。それに寄る年波には勝てん」
「またまたー、討伐依頼を一日に一回も受けている人が何を言いますか。珍しいんですからね?休憩を入れずに毎日討伐依頼を受け続ける人って」
「確かに、そうだな。普通なら一度の討伐依頼で二日か三日程休憩を入れるものだからな」
「分かってるならちゃんと休憩を取ってくださいよ?」
「まあ……そのうちな」
受付嬢と顔馴染みとなっていた男は、少しばかり世間話をしてから冒険者ギルドを後にした。
今日も男は魔獣を殺す。
「…………朝、か」
誰かに確認するかのように呟くその声は憂鬱さを感じさせる。
少女から向けられる視線、その意味は分かっているつもりだ。
嬉しくない訳がない。だってそうだろう、街でも評判の看板娘で娘のように思っているのだ。
彼女の好意自体は嬉しい。手放しで喜びたくなるほどに。
もし自分がもっと若ければ確実に口説きに行った自信がある。
だが、あくまでそれはもしもの話、現実は違う。彼女は家族だ。自分にとって娘みたいなものだ。
生憎と男は家庭を持ったことはなかったが、もし娘がいたのならこんな風に接したのだろうと常々思っていた。
少女の想いに目を逸らしながら。
「全く……駄目な大人だな、俺は。女の子一人にさえ真っ直ぐに向き合えない」
こんな感情を抱いたまま彼女の好意を受けることが許されるのだろうか。いや、きっと許されない。
だけど、もう少し。
このモヤモヤした気持ちに蓋をしよう。
いつか、きっと…………
「二度寝してたのか……?」
ぼうっとした頭のまま窓を見てどうにも先程と太陽の位置が違うことに気づく。
どうやらまたいつのまにか二度寝に突入していたようだ。
「そろそろ起きるか……」
そう呟きながら、億劫そうに身体を起こす。
パキパキと身体から音が鳴るのを感じると、歳を取りつつあることを訴えかけられているようでもある。
「っし!」
だるい身体に喝を入れるかのように鋭く声を上げながらベッドから立ち上がる。
そろそろ朝食の時間が過ぎてしまうだろう。
この宿の美味い飯を食わないという選択肢は男には存在しなかった。
少し急ぎながら、一階へと続く階段を降りていった。
「ああ、少し、気まずいかな……」
そう零しながら。
「いってらっしゃい!」
そんな彼女の声に見送られながら、男は冒険者ギルドへと脚を向けた。
冒険者ギルドとは、簡単に言えば「魔獣関連専門の仕事斡旋所」である。
そこで魔獣の目撃情報を聞いて依頼を受注したり、達成した依頼の採算や素材の買取などをしている。
冒険者と呼ばれる者達は例外無く全ての者が冒険者ギルドに所属し、最低限管理され、支援されている。
恐怖と不安の対象である魔獣を討伐することから、王国民からは非常に多くの人から支持を得ている。
また、その影響国王ですら冒険者ギルドに配慮が必要となってくる程である。
歴史を感じさせながらも清潔でまるで古臭さといった印象を見る者に与えない内装に、珍しい二階建ての建物。
初めてこの冒険者ギルドザルツ支部を訪れた人達は驚く。
それは男も例外ではなかった。正直に言うと、大衆食堂や酒場のようなイメージを持っていたのだ。それが良い方向で覆されたものだ。
そんなことを考えながら、男は冒険者ギルドを入って入口の左手にある依頼掲示板から魔獣討伐の依頼を探し始めた。
今ではすっかり慣れたものだが、まだ冒険者に成り立ての新人の頃は右も左も分からず、困惑しながら依頼を受けたものだ。
どの依頼が自分の実力に見合ったものなのかすら分からなかったあの時は、何度も危険な依頼を受け付けに持って行って怒られたものだ。
流石に今はそんなことはないが、当時はそれに命を救われたと言っても良いだろう。
「討伐、討伐は、と…………ん、ファングウルフか……これにするか」
ファングウルフはその名の通り牙が発達し、たとえ金属製の鎧でさえ貫くという魔獣である。
主に単独で行動しており、余程のことがない限り群れることはない。
なので誰とも組まずに活動している男のような冒険者にはちょうど良いのだ。
とは言え、それなり以上の実力が必要だが。
ファングウルフの討伐依頼書を掲示板から剥がし、入口から向かって一番奥にある受け付けに持って行った。
「こんにちは、今日は少し遅めでしたね。寝坊でもしたんですか?」
「まあ、そんなところだ。夢見が悪くてな。それに寄る年波には勝てん」
「またまたー、討伐依頼を一日に一回も受けている人が何を言いますか。珍しいんですからね?休憩を入れずに毎日討伐依頼を受け続ける人って」
「確かに、そうだな。普通なら一度の討伐依頼で二日か三日程休憩を入れるものだからな」
「分かってるならちゃんと休憩を取ってくださいよ?」
「まあ……そのうちな」
受付嬢と顔馴染みとなっていた男は、少しばかり世間話をしてから冒険者ギルドを後にした。
今日も男は魔獣を殺す。
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