3 / 20
とある世界の冒険者
三話目
しおりを挟む
雨の降る音が聞こえる。ざあざあと鼓膜を僅かに震わせる音に、宿の二階に泊まっていた男は目を覚ました。
「…………朝、か」
誰かに確認するかのように呟くその声は憂鬱さを感じさせる。
少女から向けられる視線、その意味は分かっているつもりだ。
嬉しくない訳がない。だってそうだろう、街でも評判の看板娘で娘のように思っているのだ。
彼女の好意自体は嬉しい。手放しで喜びたくなるほどに。
もし自分がもっと若ければ確実に口説きに行った自信がある。
だが、あくまでそれはもしもの話、現実は違う。彼女は家族だ。自分にとって娘みたいなものだ。
生憎と男は家庭を持ったことはなかったが、もし娘がいたのならこんな風に接したのだろうと常々思っていた。
少女の想いに目を逸らしながら。
「全く……駄目な大人だな、俺は。女の子一人にさえ真っ直ぐに向き合えない」
こんな感情を抱いたまま彼女の好意を受けることが許されるのだろうか。いや、きっと許されない。
だけど、もう少し。
このモヤモヤした気持ちに蓋をしよう。
いつか、きっと…………
「二度寝してたのか……?」
ぼうっとした頭のまま窓を見てどうにも先程と太陽の位置が違うことに気づく。
どうやらまたいつのまにか二度寝に突入していたようだ。
「そろそろ起きるか……」
そう呟きながら、億劫そうに身体を起こす。
パキパキと身体から音が鳴るのを感じると、歳を取りつつあることを訴えかけられているようでもある。
「っし!」
だるい身体に喝を入れるかのように鋭く声を上げながらベッドから立ち上がる。
そろそろ朝食の時間が過ぎてしまうだろう。
この宿の美味い飯を食わないという選択肢は男には存在しなかった。
少し急ぎながら、一階へと続く階段を降りていった。
「ああ、少し、気まずいかな……」
そう零しながら。
「いってらっしゃい!」
そんな彼女の声に見送られながら、男は冒険者ギルドへと脚を向けた。
冒険者ギルドとは、簡単に言えば「魔獣関連専門の仕事斡旋所」である。
そこで魔獣の目撃情報を聞いて依頼を受注したり、達成した依頼の採算や素材の買取などをしている。
冒険者と呼ばれる者達は例外無く全ての者が冒険者ギルドに所属し、最低限管理され、支援されている。
恐怖と不安の対象である魔獣を討伐することから、王国民からは非常に多くの人から支持を得ている。
また、その影響国王ですら冒険者ギルドに配慮が必要となってくる程である。
歴史を感じさせながらも清潔でまるで古臭さといった印象を見る者に与えない内装に、珍しい二階建ての建物。
初めてこの冒険者ギルドザルツ支部を訪れた人達は驚く。
それは男も例外ではなかった。正直に言うと、大衆食堂や酒場のようなイメージを持っていたのだ。それが良い方向で覆されたものだ。
そんなことを考えながら、男は冒険者ギルドを入って入口の左手にある依頼掲示板から魔獣討伐の依頼を探し始めた。
今ではすっかり慣れたものだが、まだ冒険者に成り立ての新人の頃は右も左も分からず、困惑しながら依頼を受けたものだ。
どの依頼が自分の実力に見合ったものなのかすら分からなかったあの時は、何度も危険な依頼を受け付けに持って行って怒られたものだ。
流石に今はそんなことはないが、当時はそれに命を救われたと言っても良いだろう。
「討伐、討伐は、と…………ん、ファングウルフか……これにするか」
ファングウルフはその名の通り牙が発達し、たとえ金属製の鎧でさえ貫くという魔獣である。
主に単独で行動しており、余程のことがない限り群れることはない。
なので誰とも組まずに活動している男のような冒険者にはちょうど良いのだ。
とは言え、それなり以上の実力が必要だが。
ファングウルフの討伐依頼書を掲示板から剥がし、入口から向かって一番奥にある受け付けに持って行った。
「こんにちは、今日は少し遅めでしたね。寝坊でもしたんですか?」
「まあ、そんなところだ。夢見が悪くてな。それに寄る年波には勝てん」
「またまたー、討伐依頼を一日に一回も受けている人が何を言いますか。珍しいんですからね?休憩を入れずに毎日討伐依頼を受け続ける人って」
「確かに、そうだな。普通なら一度の討伐依頼で二日か三日程休憩を入れるものだからな」
「分かってるならちゃんと休憩を取ってくださいよ?」
「まあ……そのうちな」
受付嬢と顔馴染みとなっていた男は、少しばかり世間話をしてから冒険者ギルドを後にした。
今日も男は魔獣を殺す。
「…………朝、か」
誰かに確認するかのように呟くその声は憂鬱さを感じさせる。
少女から向けられる視線、その意味は分かっているつもりだ。
嬉しくない訳がない。だってそうだろう、街でも評判の看板娘で娘のように思っているのだ。
彼女の好意自体は嬉しい。手放しで喜びたくなるほどに。
もし自分がもっと若ければ確実に口説きに行った自信がある。
だが、あくまでそれはもしもの話、現実は違う。彼女は家族だ。自分にとって娘みたいなものだ。
生憎と男は家庭を持ったことはなかったが、もし娘がいたのならこんな風に接したのだろうと常々思っていた。
少女の想いに目を逸らしながら。
「全く……駄目な大人だな、俺は。女の子一人にさえ真っ直ぐに向き合えない」
こんな感情を抱いたまま彼女の好意を受けることが許されるのだろうか。いや、きっと許されない。
だけど、もう少し。
このモヤモヤした気持ちに蓋をしよう。
いつか、きっと…………
「二度寝してたのか……?」
ぼうっとした頭のまま窓を見てどうにも先程と太陽の位置が違うことに気づく。
どうやらまたいつのまにか二度寝に突入していたようだ。
「そろそろ起きるか……」
そう呟きながら、億劫そうに身体を起こす。
パキパキと身体から音が鳴るのを感じると、歳を取りつつあることを訴えかけられているようでもある。
「っし!」
だるい身体に喝を入れるかのように鋭く声を上げながらベッドから立ち上がる。
そろそろ朝食の時間が過ぎてしまうだろう。
この宿の美味い飯を食わないという選択肢は男には存在しなかった。
少し急ぎながら、一階へと続く階段を降りていった。
「ああ、少し、気まずいかな……」
そう零しながら。
「いってらっしゃい!」
そんな彼女の声に見送られながら、男は冒険者ギルドへと脚を向けた。
冒険者ギルドとは、簡単に言えば「魔獣関連専門の仕事斡旋所」である。
そこで魔獣の目撃情報を聞いて依頼を受注したり、達成した依頼の採算や素材の買取などをしている。
冒険者と呼ばれる者達は例外無く全ての者が冒険者ギルドに所属し、最低限管理され、支援されている。
恐怖と不安の対象である魔獣を討伐することから、王国民からは非常に多くの人から支持を得ている。
また、その影響国王ですら冒険者ギルドに配慮が必要となってくる程である。
歴史を感じさせながらも清潔でまるで古臭さといった印象を見る者に与えない内装に、珍しい二階建ての建物。
初めてこの冒険者ギルドザルツ支部を訪れた人達は驚く。
それは男も例外ではなかった。正直に言うと、大衆食堂や酒場のようなイメージを持っていたのだ。それが良い方向で覆されたものだ。
そんなことを考えながら、男は冒険者ギルドを入って入口の左手にある依頼掲示板から魔獣討伐の依頼を探し始めた。
今ではすっかり慣れたものだが、まだ冒険者に成り立ての新人の頃は右も左も分からず、困惑しながら依頼を受けたものだ。
どの依頼が自分の実力に見合ったものなのかすら分からなかったあの時は、何度も危険な依頼を受け付けに持って行って怒られたものだ。
流石に今はそんなことはないが、当時はそれに命を救われたと言っても良いだろう。
「討伐、討伐は、と…………ん、ファングウルフか……これにするか」
ファングウルフはその名の通り牙が発達し、たとえ金属製の鎧でさえ貫くという魔獣である。
主に単独で行動しており、余程のことがない限り群れることはない。
なので誰とも組まずに活動している男のような冒険者にはちょうど良いのだ。
とは言え、それなり以上の実力が必要だが。
ファングウルフの討伐依頼書を掲示板から剥がし、入口から向かって一番奥にある受け付けに持って行った。
「こんにちは、今日は少し遅めでしたね。寝坊でもしたんですか?」
「まあ、そんなところだ。夢見が悪くてな。それに寄る年波には勝てん」
「またまたー、討伐依頼を一日に一回も受けている人が何を言いますか。珍しいんですからね?休憩を入れずに毎日討伐依頼を受け続ける人って」
「確かに、そうだな。普通なら一度の討伐依頼で二日か三日程休憩を入れるものだからな」
「分かってるならちゃんと休憩を取ってくださいよ?」
「まあ……そのうちな」
受付嬢と顔馴染みとなっていた男は、少しばかり世間話をしてから冒険者ギルドを後にした。
今日も男は魔獣を殺す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる