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とある世界の冒険者
五話目
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side ファングウルフ(強化種)
自分は人間で言うところのファングウルフと呼ばれる存在だ。
しかし、この草原という環境が自分を強くした。
数々の強敵と闘い、その首に牙を突き立ててきた。
そうして自分の身体は他の同族とは比べものにならないくらいに大きく、力強くなった。
そして元いた群の者達のような灰色の毛並みも、黒く変色したように思える。
元いた群からも離れ、更なる自己の強化に努めてきた。
当然群からは長になるようにと言われ、引き止められもした。
しかし、あの群ではこれ以上自分が強くなることは出来ないと直感した。
そして、おそらくは自分の直感は当たっていたのだろう。
その証拠に自分は群にいた頃よりも随分と強くなった。
そのはず、だった。
何故、自分は強者、だったはずだ。
何故、自分が恐れる者はこの草原の中でもそういなかったはずだ。
いや、いるとすればかの草原の主、グリーンドラゴンくらいなものだ。
何故、自分は強くなったのではないのか。
群を離れ、自分の力を高め、いつかはこの草原で一番になろうとしていたのだ。
だと言うのに、あの人間は何だ。自分を脅かすあの存在は何だ。
自分を殺そうとする、それは良い。自分とて何度だってその手の輩を撃退してきたのだ。
それに人間は同族以外を殺すことを趣味としているそうだからな。
だが、あの瞳は何なのだ。自分を見ているようで何も見ていない。
そんな力の無い瞳をしていながら、何故あれ程強い?
あれが本当に命ある存在か?それさえも怪しくなる。
感情を感じられないその瞳に、言いようもない不安を抑えることができない。
歓喜も激情も悲哀困惑も何もかもが無い。
自分には理解し得ない未知に恐怖心が芽生えてくるのを感じた。
抗おう、闘い、打ち勝とう。そう自分の心に喝を入れる。
生きるために、死なないために、目の前の怪物から生き延びよう。
だから立て、たった一度攻撃されただけではないか。
まだ一度も傷はつけられていない。体力は有り余っている。四肢は十全に動く。
足りなかったのは、折れそうになっていたのは自分の心だ。
目の前の人間に恐怖し、屈服しようとした自分の弱い心だ!
ああ、自分はまだこんなところで死ぬわけにはいかないのだ!!
だから立て!闘え!そして勝ってみせろ!
この牙を、この爪をあの化物の喉に突き立てろ!
side out
纏う空気が変わった。この一瞬で何があったのか。確かについ先程までは萎縮していたはずだ、あのファングウルフの強化種は。
何かが違う、そう感じる。
まったく、勘弁してほしいものだ。気合いを入れて攻撃したら予想外にも躱されたからびっくりして見つめてしまった、と思ったら何か覚醒してるし。
「この依頼、ハズレだったか。こんなのが出てくるとはな」
面倒だ、それにこの類の魔獣はべらぼうに強い。
何が何でも相手を殺そうとしてくる。
「死にたくは……ないよなぁ…………」
何故こんなオッサンに本気になるというのか、小一時間ほど問い詰めたいところだが……
「ガァァァァ!!!」
「そうも、言ってられないか!」
つまらないことを考えてたのがファングウルフにバレたのか、隙とも言えぬほど僅かな意識の隙間にその凶暴な牙をむき出しにしながら男に飛びかかった。
先程のお返しとばかりにおそらく首を狙ってきたであろうファングウルフに対し、男は右前方に一歩踏み込んだ。
と、同時に右手に持っている剣をファングウルフの胴体に叩きつけた。
ドン、そんな鈍い音が響いた。言葉にならない悲鳴と共に崩れ落ちるファングウルフ。
首を狙うとまた躱され、今度は反撃されかねないと考えた男は切り裂くことができないのを承知で背中から斬りつけた。
いや殴りつけるという表現の方がしっくりくる。
通常よりも太く、長く、硬い金属製の男の剣はそのような使用法にも耐えうるものであった。
酷く背中を痛めたのだろう、どこか苦しげに男を睨めつけるファングウルフは、それでも素早く立ち上がり右前脚の爪で男を切り裂こうと再び飛びかかる。
「グルァァァァァ!!!」
闘志に満ち溢れた叫びを辺りに響き渡らせながら振り下ろされた爪を、半身になりながら僅かに身体を左にずらして男は避ける。
「フンッ!」
思わず、といった風に喉から溢れた気合いの声。
それに合わせるように男は反撃に転ずる。
飛びかかったその勢いのまま男の後方に移ったファングウルフを一瞬鋭く見ながら、両脚に力を込める。
「ーーーっ!」
ファングウルフが着地するのとほぼ同時に接近し、抉り込むように眼を突いた。
「ーーーーーーーーー!!!!!!」
声にすることさえ叶わない悲鳴、それが男の耳に否が応でも届いた。
「………………」
のたうちまわるファングウルフにとどめを刺そうと瞬時に感情を殺す。
振りかぶる
その時
ファングウルフが怨めしそうにこちらを見ている
そんな気がした。
自分は人間で言うところのファングウルフと呼ばれる存在だ。
しかし、この草原という環境が自分を強くした。
数々の強敵と闘い、その首に牙を突き立ててきた。
そうして自分の身体は他の同族とは比べものにならないくらいに大きく、力強くなった。
そして元いた群の者達のような灰色の毛並みも、黒く変色したように思える。
元いた群からも離れ、更なる自己の強化に努めてきた。
当然群からは長になるようにと言われ、引き止められもした。
しかし、あの群ではこれ以上自分が強くなることは出来ないと直感した。
そして、おそらくは自分の直感は当たっていたのだろう。
その証拠に自分は群にいた頃よりも随分と強くなった。
そのはず、だった。
何故、自分は強者、だったはずだ。
何故、自分が恐れる者はこの草原の中でもそういなかったはずだ。
いや、いるとすればかの草原の主、グリーンドラゴンくらいなものだ。
何故、自分は強くなったのではないのか。
群を離れ、自分の力を高め、いつかはこの草原で一番になろうとしていたのだ。
だと言うのに、あの人間は何だ。自分を脅かすあの存在は何だ。
自分を殺そうとする、それは良い。自分とて何度だってその手の輩を撃退してきたのだ。
それに人間は同族以外を殺すことを趣味としているそうだからな。
だが、あの瞳は何なのだ。自分を見ているようで何も見ていない。
そんな力の無い瞳をしていながら、何故あれ程強い?
あれが本当に命ある存在か?それさえも怪しくなる。
感情を感じられないその瞳に、言いようもない不安を抑えることができない。
歓喜も激情も悲哀困惑も何もかもが無い。
自分には理解し得ない未知に恐怖心が芽生えてくるのを感じた。
抗おう、闘い、打ち勝とう。そう自分の心に喝を入れる。
生きるために、死なないために、目の前の怪物から生き延びよう。
だから立て、たった一度攻撃されただけではないか。
まだ一度も傷はつけられていない。体力は有り余っている。四肢は十全に動く。
足りなかったのは、折れそうになっていたのは自分の心だ。
目の前の人間に恐怖し、屈服しようとした自分の弱い心だ!
ああ、自分はまだこんなところで死ぬわけにはいかないのだ!!
だから立て!闘え!そして勝ってみせろ!
この牙を、この爪をあの化物の喉に突き立てろ!
side out
纏う空気が変わった。この一瞬で何があったのか。確かについ先程までは萎縮していたはずだ、あのファングウルフの強化種は。
何かが違う、そう感じる。
まったく、勘弁してほしいものだ。気合いを入れて攻撃したら予想外にも躱されたからびっくりして見つめてしまった、と思ったら何か覚醒してるし。
「この依頼、ハズレだったか。こんなのが出てくるとはな」
面倒だ、それにこの類の魔獣はべらぼうに強い。
何が何でも相手を殺そうとしてくる。
「死にたくは……ないよなぁ…………」
何故こんなオッサンに本気になるというのか、小一時間ほど問い詰めたいところだが……
「ガァァァァ!!!」
「そうも、言ってられないか!」
つまらないことを考えてたのがファングウルフにバレたのか、隙とも言えぬほど僅かな意識の隙間にその凶暴な牙をむき出しにしながら男に飛びかかった。
先程のお返しとばかりにおそらく首を狙ってきたであろうファングウルフに対し、男は右前方に一歩踏み込んだ。
と、同時に右手に持っている剣をファングウルフの胴体に叩きつけた。
ドン、そんな鈍い音が響いた。言葉にならない悲鳴と共に崩れ落ちるファングウルフ。
首を狙うとまた躱され、今度は反撃されかねないと考えた男は切り裂くことができないのを承知で背中から斬りつけた。
いや殴りつけるという表現の方がしっくりくる。
通常よりも太く、長く、硬い金属製の男の剣はそのような使用法にも耐えうるものであった。
酷く背中を痛めたのだろう、どこか苦しげに男を睨めつけるファングウルフは、それでも素早く立ち上がり右前脚の爪で男を切り裂こうと再び飛びかかる。
「グルァァァァァ!!!」
闘志に満ち溢れた叫びを辺りに響き渡らせながら振り下ろされた爪を、半身になりながら僅かに身体を左にずらして男は避ける。
「フンッ!」
思わず、といった風に喉から溢れた気合いの声。
それに合わせるように男は反撃に転ずる。
飛びかかったその勢いのまま男の後方に移ったファングウルフを一瞬鋭く見ながら、両脚に力を込める。
「ーーーっ!」
ファングウルフが着地するのとほぼ同時に接近し、抉り込むように眼を突いた。
「ーーーーーーーーー!!!!!!」
声にすることさえ叶わない悲鳴、それが男の耳に否が応でも届いた。
「………………」
のたうちまわるファングウルフにとどめを刺そうと瞬時に感情を殺す。
振りかぶる
その時
ファングウルフが怨めしそうにこちらを見ている
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