とある世界、とある場所にて

晴れのち曇り

文字の大きさ
6 / 20
とある世界の冒険者

六話目

しおりを挟む
 強者が弱者を殺す。殺して己の糧にする。

 それは自然の摂理、弱肉強食の社会。

 生命の螺旋の渦に誰しもが飲み込まれる。

 虫も、魚も、花も、獣も、亜人も、人間も、そしてドラゴンでさえも。

 世界の理には逆らえない、抗えない。

 出来るとすれば、それは神の祝福を受けず、神の光太陽の光に当たらず、闇でしか存在することを許されない者達。
 アンデットくらいのものであろう。

 そもそも、逆らおうとなど思わないのだ。
 己が平穏、己が安寧、己が幸福を求め、祝福を望み、享受することを望むのならば、その総てを捧げ神に祈り、螺旋の渦に身を任せる。

 それこそがこの世界の理、この世界が望み。

 ならばそれに従おう。

 この世界が望むのなら、この世界の生命達は喜んでその矮小な命を献上することだろう。

 それはこの世界が生命の無意識下に刻み付けた刻印、楔、呪い。

 それから解き放つ方法など存在しない。

 呪文、否。

 鍵、否。

 神の慈悲、否、否、否。

 どのような手段を用いようとも知覚することさえ叶わない。
 そのようなことのだから。
























 そのはずだった。




































「終わった、な」

 終わってみれば一瞬に等しい闘い。しかし、その密度はそれに反比例するかのように高いものだった。

 簡単に終わると思っていたファングウルフの依頼。
 だが、蓋を開けてみれば討伐対象は通常のファングウルフではなく、その強化種。

 下手をすれば依頼を受けた冒険者が命を落としかねないのだ。
 冒険者ギルドの失態である。怠慢と呼ばれても反論出来ないほどに。

 情報は冒険者の活動においてどんな物にも代え難い重要な要素である。
 だからこそ冒険者達はギルドで情報を収集して、装備を整え、万全を期した状態で魔獣の討伐を行うのだ。

 だが、信ずるべきのギルドが偽物の情報を提供してしまった。

 これは信用に関わることなのだ。

「帰ったらギルドに報告だな」

 そう呟きながら、素材の採取を続けた。

















 男はザルツに帰還した。道中で何度か魔獣に襲われることもあったが、さして強力な魔獣でもなかったので、苦戦もせず切り抜けることが出来た。

 だが、男には気になることがあった。それは、魔獣の数である。
 どうにもいつもより遭遇する魔獣の数が多い気がしたのだ。
 いつもなら一体か二体ほどの遭遇だけで済んだのだが、今回は五体も遭遇したのだ。
 それもこの辺りではあまり見ない強力な魔獣が。
 何かがおかしい、そう男に感じさせた。



















 街についた男は行きに通った門からザルツの中に入ろうとする。すると昨日今日と顔を合わせ少しばかり言葉を交わした門番がいた。

 こちらに気づいたのだろう、あの大人でも涙目になりそうな凶悪な顔を更に歪めながら男を見た。

「おう、戻ったのか。今日は早いんだな…………っと、それにしてはえらく疲れてるな。何があった?確か今日の獲物はファングウルフだったよな?あいつは普通の冒険者からすると強敵だが、お前なら大して苦戦もしないような相手のはずだろ?」

 手を軽く上げながらいつものように雑談でもと思って声をかけた門番は男の疲労に瞬時に気づいた。

 そしてそれを疑問に思った。何故なら本人に自覚はないが、男はこの国でも有数の冒険者でザルツはもちろん、王都にさえ男より強い者はそうそういないと誰もが知っていることだからだ。

 本人以外は、だが。

 だからこそおかしいのだ。新人ならまだしも、この男がただのファングウルフに苦戦するわけがない。
 何かがあったのだ。ならば、それを把握して報告する義務が門番にはある。真剣にならざるを得ないわけだ。

 もっともこの門番がそんな真面目な顔をすれば、顔がさらに凶悪になること間違いなしなのだが。

「ああ、あったぞ。あった。ギルドが情報収集の時点で失敗していた」

 男はその門番の質問に心底参ったと言わんばかりの疲れた顔で答えた。

「ギルドが、失敗?魔獣の数でも間違えたってのか?」

「いや、魔獣の数はあっていた。一体だ。だが通常種じゃあなかった。それに帰る途中にもかなりの数の魔獣に遭遇した」

「へえ、そりゃあ災難だったな…………ておい、通常種じゃないって言ったか?」

 男の言葉に門番はある予想に辿り着いた。
 それを表しているかのように門番の表情に驚愕が浮かんでいた。

「ああ、強化種だ」

 その男の言葉に自分の予想が外れていなかったと嘆き、頭を抱えた。

「そりゃ、一大事じゃねえか!だから最近魔獣の報告が多かったのか!」

 魔獣の強化種にはとある特徴がある。それはただ強いだけではない。
 強化種本体の周りには魔獣があめり寄り付かなくなるが、その代わりと言わんばかりに通常種の魔獣が増えるのだ。それも加速度的に。

「まずいな、つまりは近日中に魔獣の大量発生が起こるわけか。早く報告しないとな!すまんが俺は詰所へ報告に行く、お前も詳しい説明のために付いてきてくれるか?」

「ああ、もちろん構わない」

 そう言葉を交わすや否や二人は詰所へ走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...