氷結セシ我ガ世界

晴れのち曇り

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一章

第二十話

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「それにしても、人の姿になれるなんてな。何故態々矮小と言ってる人間をとるんだ?」

 圭はこれを逃すともう聞くことが出来ないのでは、と直感したのか唐突とも言えるタイミングでイルヴァに前々から気になっていた事を尋ねた。

「ん……何だ突然。………………郷に入っては郷に従えだとか木を隠すなら森の中だとか言うだろう。そう言うことだ」

 そう言うことらしい。なるほど、道理だろう。
 しかし、その諺がこの世界にもあったというのに圭は感動した。地球との接点など一切感じさせなかったこの世界で、初めて諺という地球のそれも日本に存在するものを知って心を揺さぶられたのだ。

「そうだな、ああ、そうだな。そうだったな」

「…………?納得したのなら早く行くぞ」

「分かってるよ」

 圭の反応に何か特別なものを感じたのか、イルヴァは不思議そうな顔をしながらも早く、と急かした。























「何処だ!我が子よ!?何処にいる!!」

 漸くあの外套の男がいた大通りにたどり着いた。
イルヴァは圭が此処で彼女の子どもを攫ったと思われる男がいた。と話したら眼の色を変えて周囲を見回していた。
 そんな一母の姿に不謹慎ではあるものの、圭は見惚れてしまっていた。

 夕陽を吸い込んで赤く輝く長い銀髪、我が子を見つけ出そうと必死に見開いているエメラルドグリーンの瞳、すらりとした細身の長身。
 その総てが芸術品のようで、しかし母としての姿は人間味が滲み出ており、その二つが同居している。
 そしてその美女の姿は多くの眼を集め、同時に辺りにはこのような疑問が生まれた。

 あんな美女が必死になって探している子どもとは?
そんな疑問を抱き始めた周りの人々はイルヴァの叫びを聞いて驚愕する。

「おのれ!我が子を攫った男は必ず八つ裂きにしてくれるわ!!」

 この怒りの叫びに最も大きな反応を示したのはやはり、と言うべきか同じ母親であった。

「なんだって!攫われた!?何処の馬鹿野郎だい!?母親から子どもを取り上げるなんて!あんたら絶対にその馬鹿を見つけ出してこの娘の前に引きずり出してくるんだよ!!わかったね!!!」

「「「「「おお!!!!!」」」」」

 まさに一致団結というやつである。どうやら思ったより早く男を見つけられそうだ。
 だが、自業自得ではあるものの、その男が見つかった後どうなるかはちょっと想像したくない。
 圭は外套の男に黙祷を捧げた。
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