氷結セシ我ガ世界

晴れのち曇り

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一章

第三十四話

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 触れた、かの杖に。

 魔力の奔流が迸った。

 それはまるで嵐のようで。

 それはまるで荒れた大海のようで。

 激しく、激しく、うねり、暴れ狂う。

 まさに天災、それがこの龍杖には込められていた。

 古龍と言う名の天災が。

   *    *    *

「……………………!!!」

 魔力が襲い来る。

「ーーーーーーーーー!!!」

 言葉にならない悲鳴を上げる。

「かっ!!はぁ!!!」

 やっと出た声は掠れ、今にもかき消えてしまいそうだ。

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 咆哮、そうとしか表現できないような野性的な叫び声。

「ごふっ!」

 口の中から赤い液体が吐き出された。

「こひゅー……こひゅー……」

 これは……血、だろうか?

 未だに自身の身体を侵略する魔力。

「があああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 痛い、と言う感覚ではない。

 ただ、叫ばずにはいられなかった。

 そうしなければ自分を自分と認識することが出来なくなる、そんな気がした。

「ーーーーーーー!」

 今何か聞こえた気がする。

 イルヴァの声かもしれない。

 だが、聞こえない。

 自分の叫び声に遮られて?それともこの龍杖から流れる魔力の感覚以外の総てを拒絶している?

 分からない。

 自分が分からない。

 俺は今何処にいる?

 今俺はどんな姿をしている?

 ちゃんと人間か?

 それとも…………

 もっと別の何かか。













 沈んでいく、魔力の波にさらわれて。

 沈んでいく、大海の底へ。

 沈んでいく。







 ………………?今何か聞こえた。先程の声とは違う。

 これは……龍杖?龍杖の声、なのか?

『覚悟はあるか』

 ……………………?何……を言って……いる。

『汝、覚悟はあるか』

 …………覚悟、何の?

『汝が我を振るう覚悟。そして汝が世界から排斥される覚悟』

 ………………面白いこと、を言うな。俺は元々、この世界の人間じゃあない。
 元々居場所が無い人間をどうやって排斥するんだ?
 …………馬鹿馬鹿しい。そんな質問、答える価値もない。

『其れが汝の答えか』

 そうだ。俺に覚悟なんて要らない。

『良かろう、我が力存分に振るって見せよ』















 …………言われるまでも無い。今の俺にはそんな事しか出来ないのだから。
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