追想のヒガンバナ

希塔司

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第1章 「悪魔」

第9話「ある大国の殺し屋」

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 私、櫻井すみれは麦国に仕えている殺し屋。普段はマフィアの残党を始末したり大戦の戦地に参加してたくさんの兵士を殺したりしてる。

 もちろんちゃんとお金は受け取ってるし私専用の屋敷まで用意してくれる実力主義の国だから助かってる。なんでこの異国の地で生活してるかって?それは私が小さい頃に遡る。


       ーーーーーー

「おねーちゃーん!」

 小さい時の私にはとても慕っていた人がいた。

「すみれ!いつも言ってるでしょ勝手に抜け出したらまた強制実験場に連れてかれるって!」

 私の両親は結核によって亡くなって物心ついたころにはすでに孤児だった。道端で盗みを働きながらその日暮らしをする毎日を送っていた私は未来に絶望しか感じていなかった。盗みに失敗すると周りの大人から暴力を振るわれ、家畜の臭い糞尿まみれのところに放り投げられることもあった。

 そんな中、帝国が阿国との戦争に勝ち更に戦力増強のためにある研究が始まった。

 人の体に動物の細胞を埋め込み戦地で強制的に戦わせる兵士の製造を。各地から身寄りのない子供を捕まえて利用する形になった。孤児なら仮に死んでもだれも悲しまないから。

「いたぞ!使えそうなガキを発見した!

「よし、連れてけ!こいつには一体どんな動物の細胞を埋め込もうか...」

 私も研究所の人に捕まり、囚人収容所のような場所で実験を繰り返し行われる毎日を過ごすことになった。


 次々と周りの私と同じような子供が実験に失敗して暴走して処理されたり、失敗して廃棄場に捨てられたりといった非人道的な最期を迎えて行った。


 体力も精神もどんどんすり減っていく私に誰も助けてはくれなかった。たった1人をのぞいて...鬼切あやめ。


「あなた大丈夫?」

「ひっ!?来ないで...来ないでよ!!」

「大丈夫だよ、私はあなたを傷つけないから!」


 先輩と初めて交わした会話を私は一生忘れることはない。私が麦国に行って殺し屋をやるきっかけになった人物。そして私にとってはたった1人優しくしてくれたお姉さん的存在だった。

 先輩はよく話してくれた。

「実は私の一族は忍者って呼ばれてる人たちなんだ...」

「忍者ってあの忍者...?」

「そうよ、隠れて敵を暗殺したり情報を入手したりするあの忍者なの。」

「すごーい!じゃあ今度何か忍術見てみたい!」

「生きてここを出られたらきっと見せるわ。」


 先輩が忍者の一族であり、自分もそれなりの忍術などを教わったことを。今でもいつ見せてくれるのか楽しみにしている。

 他にも本当は家族を作りたかったとも。その時の先輩は小さい子供に本を読み聞かせるような優しい声をしていた。



 時は流れて、服部有蔵という人間が研究所を襲撃して私たちの地獄の日々は終わった。
けれど襲撃の際に建物が崩れてガレキに閉じ込められていた私は先輩のように助けてもらえなかった。

「おねーちゃん...どこにいるの?
お願い、誰か...」

 周りの人達が誰もいない恐怖と戦いながら少しずつガレキをどかしていき外を見ると小さかった私にとってはあまりに衝撃な光景が広がっていた。生臭い血の臭いが私を狂わせるのに時間はあまりかからなかった。私も助からない、そう思っていた。


 だけど運命は私を見離さなかった。そこには海に繋がる下水道がすぐ近くにあった。私はサメの遺伝子を埋め込まれていたからしばらくは泳ぐことができる。そうして私は建物からなんとか脱出してひたすら泳いで行った。広い広い大海原をひたすらまっすぐ泳いで...

 
       ーーーーーー

 目が覚めた時にはその光景に驚いた。まさか自分が遠い異国の地にいるなんて思わなかったから。その異国こそ今私がいる麦国だった。


 ほどなくして現地の人に救出されて事情聴取をされた。幸いこの国でも帝国の言葉を話せる通訳の人がいたから会話はなんとか進んだ。政府の方々はみんな涙を流しながら私のことを労ってくれた。小さい私がよく生きていてくれたと。その言葉を聞いたときにはすでに大泣きしてしまった。

 この時から私はこの麦国のために自分が働くことを誓った。



 施設襲撃事件から数年の時が経ち戦闘経験や訓練を積んで麦国の暗殺部隊に所属することにした。関係者からは本当は1人の少女として扱い、人としての幸せを送ってほしかったと言っていたけど、あるニュースペーパーを見て決心した。


「忍刀を持った謎の暗殺者...」

 間違いない、先輩だ。やっぱり先輩はかっこいい、この人に追いつくために私は...


 お姉ちゃんと一緒にいるために殺し屋として生きる。そして越えてみせる。


 大戦が始まり、欧州諸国で次々と戦争が起こる中私たちは次々と戦果を挙げ続けた。最初は私に軽蔑したり差別的な言葉をかけてた連中を実力で黙らせるのが好きだった。

 そして私は昇進して部隊の隊長になることになった。みんな私にとってかけがえのない仲間だ。

 敵地に潜入して情報を得るダニエル。
 罠をしかけて敵を撹乱するアレックス。
 私と同じ接近戦や中距離射撃をしていくエイミー。
 遠距離射撃で敵の頭をぶち抜くジョン。
 そして私を含めた5人は麦国の中でも随一の暗殺部隊になっていった。


 ある日、大統領からある指令が下った。帝国の殺し屋を麦国に引き入れてくれと。


 やっと先輩に会えると思うと嬉しく思う。綺麗になった私を見てもらうためにもこの任務は必ずやり遂げる!


 その日の夜にみんなと談笑した。

「なぁ隊長。帝国の殺し屋ってほんとに強いのか?隊長の方が強いと思うけどな。」


「わかってないわね、あの人は私たちの部隊全員で挑んで勝てるかどうかわからないくらいのバケモノよ。
なんたって1人で全部できるような忍なんだから!」


「え!?ニンジャ!?
昔本で読んだあのニンジャ!?」

「そうだよ。影の中で暗躍して敵を切るあのニンジャw」


 みんなの驚いた顔は今でも私の心の中にある。先輩、あなたの武勇は遠い異国の地にも広まってますよ。



 指令が降った私は数年ぶりに帝国に帰ってきた。懐かしいな。今回は表向きは屋形船に潜入して帝国の役人の暗殺、けど実際は先輩を麦国に勧誘するために潜入した。

 屋形船は私がかつて孤児の時にいた街の河原にいた。あそこにいたんだよなと思いながら昔の記憶を遡っていた。


 芸者の格好を着て、化粧をして私は屋形船に乗り込む。あぁ早く会いたいな。この綺麗な姿を見せたいなと思いながら太った中年の豚の面倒を見ていた。臭い。



 しばらく相手をしていると1人の芸者が船に乗り込んできた。顔を見上げて覗いてみると


 先輩の顔だった。
 やっと、やっと会えたよ...お姉ちゃん。

それに浴衣姿で化粧をしていて、ほんとに一目惚れするくらいな美人になっていた。挨拶をしているときの声も、私に話していたあの頃の優しい声だった。泣きそうになる私をこらえながら引き続き面倒を見ていた。


 しばらくすると先輩は周りを見渡して酒を持ってくるために台所へ向かった。久しぶりに話したい私は、任務の遂行のために先輩の元へ向かう。

酒に何か粉末を入れる先輩。なるほど、どうやら睡眠薬のようなものを入れてるな?私はその状況で先輩にいつばれるかなと思いつつ、先輩に声をかけた。


「まさかそれが狙いだったなんてね?」

 これが私と先輩が再会したときの第一声。私の思い出がやっと帰ってきた瞬間だった。



      ーーーーーー

屋形船の一件が終わった後に先輩とその取り巻きの周って人と3人でご飯を食べることになった。正直先輩がだれかとつるんで仕事してるとは思わなかった。勝手に付き纏われてるだけなのかもしれないけど。


 注文を取ってしばらくすると私にとって衝撃的なことを聞かれた。


「ねぇ、ほんとにあなたすみれなの?
私が知ってるあなたは...!」


 どうして先輩は今更そんなことを聞いてくるんだろう。先輩にとって殺しは日常的なはず、私はあなたに追いつくために、お姉ちゃんとまた一緒にいたいから殺し屋になったのに...


 人は変わる。私だって泣き虫だった自分を変えるためにたくさんの人を殺した。
そんな私だからハッキリと冷静に答える。


「人は変わるものですよ、私だってあの時の小さいままじゃないですし。
人間の汚い部分やこの国がやろうとしてる愚かな行為を見ていたら気が気じゃなくなりますって。」


 先輩は悲しい表情を浮かべていた。どうしてわかってくれないんだろう。その後私たちは意見がぶつかり合ってしまった。そして準備までの2週間の内のある日、ある人物に呼び出された。周さんだ。



「よう、元気そうだな。」

「いきなり呼び出してどうしたんですか?」

「いや、ちょっとサシで話したいと思っていてな。

お前、一体何企んでる?」


 何を言っているんだこの男は。


「えっと、何の話ですか?」


 とぼけようと目を逸らしていたときにはすでに目の前にいた。いつのまにか。

「とぼけんな麦国の犬が。あやめがいない今だから聞ける。
あやめに一体何させようとしてる。」

 この男鋭いな、私がどんなこと考えてるかお見通しか。

「言ったじゃないですか。
私は先輩の役に立てればそれで...」


「いや違うな。
お前はあやめを利用しようとしている。可愛い顔してやることがエグいよな。

下川戦線は前の阿国との戦争で既に焼け野原になっている。麦国はあんな場所の状況でさすがに利権を取ろうとしてるとは思えない。

そしてその戦線は大戦を大きく左右する。
つまり兵の数や兵器や兵装の数も最多でたくさんの死者が出ている。

お前、あやめを殺すつもりか?」


 ついに核心をつかれた。私は静かに怒りを顕にして彼の胸ぐらを掴んで壁にぶつけてこう言った。


「黙れ。あんたになにが分かるのよ、よそ者の分際で。先輩を、お姉ちゃんをろくに知らないやつが偉そうに人の心に踏み込むな。

あの人は変わった。過去に縋るだけの人の目を覚ますには今のこの世界の現状を見せるしかないじゃない。もし仮にお姉ちゃんがそのまま死ぬような人なら私の思い違いだったんだから。」


「なるほどな。それがお前の本性か。」


 彼はニヤリと笑いながら反論した。少し落ち着いて脅していくことにする。


「先輩はあんたのことなんとも思ってないですよ。実際今あんたが死んだって多分悲しまない、私と同じ殺し屋なんだから。

知ってる?サメはどうして人を食うことがあるのか、それは嗅覚が良すぎて血の匂いでエサと勘違いしちゃうからだよ。

なんなら今ここであんたを殺したって、間違って殺してしまったって誤魔化せるもんね。私とお姉ちゃんの領域に踏み込むやつは誰であろうと殺す。」

 サメのようにするどい八重歯を見せて牽制する。鮫肌を見せれば近づいちゃいけないと分からせるんだ。これで数多の敵に牽制を仕掛けていた。だが彼はとんでもない行動にでた。

 胸ぐらを掴んでいる腕をつかみ出した。鮫肌が出ているから握った手から血が吹き出していく。そして今まで見えなかった彼の一面を見ることになった。


「あぁそうかい。じゃやってみろよ。お前の腕がおれの首をかっ切るのが先か、おれの銃がお前の頭をぶち抜くのが先か試してみようぜ。

おれは元帝国兵だ。お前のようなガキは今まで腐るほど見てきたが、そんな奴らはロクな最後を迎えちゃいねぇ。なぜだかわかるか?

その慢心でことごとく命を落としていくんだよ。あやめはやらせねぇ、お前のようなイカれたやつには絶対にな。」


 なんなのこいつ、お前の方がよっぽどイカれてるよ。普通そんなことしない。死んでも構わないようなそんなイカれた笑顔で私を見つめながら言っていた。

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