追想のヒガンバナ

希塔司

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第1章 「悪魔」

第10話「仲裁は嫌い」

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  すみれからの依頼を引き受けて1週間が経って私は再び鍛冶師のおっちゃんのところへ取りに向かっていた。

 さてさて、おっちゃんは今回どんな感じに作成してくれたかなと少しワクワクしながら歩いていると、何やら路地で揉め事を起こしている連中がいるらしい。私には関係ないと思い無視をすることにする。そうしようとした、2人を見るまでは...



「黙れ。あんたになにが分かるのよ、よそ者の分際で。先輩を、お姉ちゃんをろくに知らないやつが偉そうに人の心に踏み込むな。」


「なるほどな。それがお前の本性か。」


周とすみれが揉めているなんて...


 はぁ、一体何してんのほんとに。すみれをあそこまでキレさせるなんて周一体何を言ったのよ。すみれもすみれであそこまで周に噛みついちゃダメだって、ほんとに殺されるわ。


 少し離れたところで私は2人の様子を見ていた。すみれがあんなにブチギレているのは正直初めて見た。笑顔や泣き顔しか見ていなかったからあの子も怒るんだと実感する。てかあの子能力まで使ってる。能力を使っていくと埋め込まれた動物の一部が発現する。


 周は胸ぐらを掴んでいるすみれの腕を思いっきり掴んだ。鮫肌が露出しているからそのまま掴んだせいで血が吹き出してる。あいつら、マジでここで殺る気か!?

 場合によっちゃ止めなきゃまずいと思い、私はあるものをポケットから取り出す。
そう、『丸ガン』だ。

 でも確か賭けてるからあんまりこれは使いたくないんだけど、能力持ちのすみれと元帝国兵の中で選りすぐりの強者の1人だった周を相手にするんじゃ使うしかなくなる。そうならないように願っていたのも束の間、ついにすみれから手を、いや牙を出してきた。


      ーーーーーー

 おれの目の前にいるすみれは牙を剥き出しにしておれの肩に噛みついてきた。肩の肉を食いちぎろうとするくらいの顎の力だ。


「ぐっ!」

 咄嗟におれは彼女の腹に蹴りを入れる。みぞおちあたりに入れたから少し苦しんでいる。幸い牙のあとが残る程度で済んだからまだよかった。


「げほっげほっ!」


「苦しいだろうな、まともに攻撃食らったことのねぇ甘ちゃんには効くだろ...?」


「この、クソがぁー!!」

 ついに完全に理性失ったな。それこそ餌を前にしている血に飢えた鮫の顔になってるぞ。あんな綺麗な顔が口周りにおれの血で汚れて台無しだろ。

速鮫吸そくこうきゅう!」

 すみれは忍刀と銃を手に取りおれの周りを高速で周り始めた。それはまるで鮫が獲物を襲うときに見せる牽制術のように。


 銃を撃ちながらおれに近づき、少しずつ手前で切り裂いていく。銃弾は楽々避けれるが触れてもいないのに少しずつ切り傷ができていく。おそらく空気を摩擦で切っていく技だ。かまいたちのように知らず知らずのうちに相手に攻撃する技。銃をわざと外しているのは少しずつ皮膚を切っていくためだ。


 確かに殺し屋の技としては悪くねぇ。けどやっぱ甘ちゃんだ。その気になれば首筋の頸動脈を狙える技だが、おれを舐めているのか急所を狙ってこない。なら一瞬の隙を見つけるまでは乗ってやるか。


「あはははは!どうしたの!?やっぱり口だけの男なんだ?嫌われるよそういうの?w」


 そうだ、もっと調子に乗れ。調子に乗って相手を見下した時にはもうお前は死ぬんだから。


「そーらとどめよ!秘技『大海原』!」

 正面に立ち回り、高速で短刀を突き刺していく。1秒間に100~150回刺していく技で回避は難しい。まるで海の気難しさを表現した技だ。ならこれだ。


 おれが手にしたのは腰にかけてある鎖鎌だ。『神斬虫《かみきりむし》』おれの長年の相棒だ。それを回して振り回す。振り回すことで相手の攻撃を防ぐことができる。みるみるうちに間合いが近づき。そしておれもみねうちだが一発技をくらわせるか。


『角兜!』

 まるでカブト虫が突進してきたかのように思いっきり鎖と柄の部分を当てる技。それを彼女の鼻にぶつける。


「ふぐっ!...」


 すみれは鼻血を出した。ちょっとやりすぎたかな?


「私が、この私がこんな...ふざけんな...マジでふざけんじゃねぇぞクソが!!」


「さぁてそろそろ遊びは終わりだ。次は一瞬でお前の頭をぶち抜く。もう一つの相棒でな。」

 おれはついに銃を構える。ケリをつけよう、あやめには悪いがこの子はいまここで殺す。あいにく早撃ちには自信がある。


「この技は使いたくなかったけど、やむを得ないかな。」


 すみれがそう言うと、短刀を口に加えてもう一つナイフを用意した。おれの首をかっ切る気だな。さぁて、本番だ。


「死ね、『海内無双』!」


 そのスピードで短刀とナイフを挟み込んで両方から切っていこうとする。一瞬でおれの目の前にまで来た。鮫がトドメをさすときに首元に思いっきり噛み砕こうとするイメージだ。だがおれも引き金に指をすでにかけている。この距離ならかわせねぇ。さぁ、さよならだ。


 すみれはナイフを立てて喉仏辺りを突き刺そうとする、対しておれは銃をすみれの眉間辺りに向けて引き金を引きに行く。


 だが次の瞬間、気がついたらおれたちは吹っ飛ばされていた。一体何が起きた!?一瞬でおれたちの間に割り込みそれぞれの腕を掴んで思いきっきり吹き飛ばした。あまりの衝撃に辺りの砂埃が風圧によって舞上げられる。そして砂埃が晴れると、そこにはあやめがいた。


「あやめ!?」

「先輩...?」

「あんたたちまじでいい加減にしろ!そんなに死にたいなら今私があんたたちを殺すわよ。」

 あやめの目はまるでトカゲの目のように瞳が細く、黄色く光っていた。

       ーーーーーー

 もうさすがに我慢の限界だった。気がついたら私はあいつらの前まで向かっていた。幸い『丸ガン』はまだ使用していない。能力もほんの5%くらいだ。


「あやめ、どうしてここに...?」


 周は慌てた様子で私に話しかけてきた。ムカつく、まずは一発殴った。そして胸ぐらを掴んで脅してく。


「あんたなにすみれの顔や体を傷物にしてんのよ。それですみれがお嫁に行けなくなったらどう責任とるつもりなのよ?」


「いや見てたならわかってんだろ、あいつがああいう性格ってこと。今更美化したってしょうがねぇだろ。」


「んなこと聞いてんじゃねぇんだよ。
あんたまじでやりすぎよ。私に借りがあんの忘れてないよね?」


 それを聞いた周は顔を青ざめ、咄嗟に土下座をして懺悔をしてきた。


「頼む!それだけは...」


「はぁ...だったら最初からこんなことすんなよな。いい年した大人なんだから、いい加減戦闘狂いの性格直した方がいいわよ。次はないわよ。」


 周はそのまま緊張が解けたのかうなだれてしまった。さて次はすみれだ。さすがに一回説教入れないといけないね。


「すみれ、あんた私に隠し事あるっしょ?
下川戦線に送って私たちを殺そうとしてること。」


「え、なんでそれを...」


「普通あんなことを殺し屋に頼む時は邪魔者を消す時だけよ。あんた無意識とはいえ、そういう仕草や言葉を話してたの。わかる?」


「あの、えっと...」


「それにねすみれ、周に喧嘩を売るのは筋違いよ。文句があるなら私に直に言えばいいじゃない。なのに周にあんな態度とってその上負けそうになってるなんて惨めよ。」


「違う!あいつの首元まで迫ってた!あと少しで、あいつの首を...」


「その前に周はあなたの頭をぶち抜いてたわ。相手の実力も測れないなんて殺し屋失格よ。いい、あいつは腐っても帝国の十将の1人だったのよ。」


「え、そんなこと何も...」


「当たり前じゃない。殺し屋どうしでそんな情報交換するわけないでしょ?バカなんじゃないの。あなたは周の喧嘩を売った時点ですでに負けてるの。」


「そんな...私が...」


 さて、これですみれへの説教は終わり。初めてだから加減がわからなかったけど、ちゃんと効いたかな?すみれの顔を見ると、泣き出していた。まるで昔に戻ったかのように。


「ごめんなさい...私...」


「はぁ、すみれ。あなたはやっぱり殺し屋向いてないわよ。こんなにもたくさん涙を流せる子が、殺し屋なんてやっちゃだめよ。

でも、正直嬉しいよ。私のことまだ慕っていてくれて...ほんとにありがとね。」


「ごめんなさいお姉ちゃーん!!」


 私に抱きついて泣きついてきた。大泣きしていて血が混じった鼻水を流している。汚いけど我慢するが...


「ごめんよあやめー!!」


 流れに身を任せる周。いやなんでよ。


「お前は抱きついてくんなー!!」


 周の顔に一発蹴りを入れて吹っ飛ばす。




      ーーーーーー

「はぁ、しょうがないわね。もう仲直りしてくれるなら今日は私の奢りでいいわ。」


「「やったー!」」


 こいつらやっぱり始末すればよかったと後悔しているところだ。これだから仲裁するのは嫌いだ。気遣わなきゃいけないんだから。
あのあと2人を引っ張って鍛治師のおっちゃんの店で兵装を受け取り、今はご飯を食べにきている。


 まぁ、なんだかんだあったけどこの2人がやり合わなくてほんとによかった。周りの人たちまじでドン引きしてたからね?


 周りの人たちはその光景の殺伐さに震えていた。2人があまりにも動きが早く、殺気を立ててひたすら撃ち合いをしていたため途中から気絶する者まで現れていた。


「ほら2人とも、早く注文頼みなよ。」


「「ごめんなさい。」」

「え、なに急に?」


「先輩が怒ってるのほんとに初めて見たのでなんか...」

「おれもあんなに殺気を立てておれたちに見せてた目を見ていたら正直な、まだ手が震えてるんだが...」


「何よ人を化け物呼ばわりしちゃって。」

 
 自分ではどんなふうに見えているのかはわからなかったが、あとで聞くと私の目がトカゲのような目をしていたと言っていた。私は左膝をさすりながら今日の日の出来事を反省していた。
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