追想のヒガンバナ

希塔司

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第1章 「悪魔」

第11話「思わぬ偶然」

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 ご飯を注文して私たちは楽しく団欒?の時間を過ごすことになった。いやあんたたちさっきまで本気で殺りあっていたのを忘れたんだろうか。何楽しく乾杯してんのよ。


「いやーすみれ思ったより強かったんだな。見直したわ。」


「私も周さんがほんとに強い人だと再確認できましたー!てかまさか周さんが帝国の十将だとは思わなかったですよー!」


「いやーその話なんだが、おれは十将なのは確かなんだがそん中じゃ1番弱かったからよ。」


 周はすみれに十将について簡単に説明していた。今思うと周と出会ったころを思い出すようだ。

 帝国の十将は陸、空、海軍の中から特に優秀な戦果や功績を挙げた者が帝から直接勅命を受け就任する。それぞれが帝から就任の際に特別な武器を支給される。周が持っている鎖鎌「神斬虫かみきりむし」も元々は帝から受け取った物ではある。


 確か周はあるクーデターに参加したことで帝国を抜けたと初めて会った時に聞いた。一体何があったかまでは話してはくれなかった。まぁあまりお互いに過去に干渉しないようにはしてる。

 さてと、私も一杯飲みますか。そう思いメニューを見ているとなんだか周りが騒いでいた。まるで何か珍獣でも現れたかのように外の方からも声が聞こえてきた。


「ねぇちょっと見てあの人!」


「あの人ってまさか...」


 どうやら相当な有名人がやってきたようだ。振り返ると、白い軍服を来ている男が店に入ろうとしていた。長髪の髪を後ろに束ねている。周りに数人の一般軍服を着ている護衛をつけている。どうやらその男は私に気がついた。


「おやおや、まさかこんなところで帝国で話題の殺し屋に会うなんてな。奇遇じゃないか。」


 その男は藤宮尚人。以前私があの小太りの中年のおっさんの一件の時に聞き出そうとした人物、その正体は帝国の十将。『音』を扱う戦いをするその男は敵すらも魅了する曲で魅了してきた。武器はバイオリンだ。私は何回か依頼の時に遭遇しているし、その度に戦いを繰り広げてきた。


「えぇ、久しぶりね。今回はあなたも下川戦線に行くんでしょ?」


「ああそうさ!麦国から連絡は受けている。今は一時休戦といこうじゃないか。この大戦を終わらせることが優先だからね。あそこのお嬢さんは麦国が派遣した部隊の隊長で、そこにいるのは...」


 藤宮は話を止めて視線の先にいる周を見る。その人物を見た瞬間に驚く素振りを見せた。周は俯いていたが藤宮はそれが誰なのかもうわかっていた。


「周?やっぱり周だよな!?やっと会えたよ兄弟!久しぶりだな、元気だったか?」


 周は少し黙って誤魔化そうと考えていたが結局諦めて周は白状した。


「あぁ、久しぶりだな藤宮。お前も相変わらずのようだな。」


 周はまるで悪さを起こした子供のような顔で焦っている。元同僚の前で今私たちと一緒にいるのがバレてしまったからか。それとも彼らだけが知る過去についてなのか。


「君は帝国軍の中では死んだことになってたが、僕はずっと周が生きていると思ってた。けどまさか、その殺し屋と一緒に仕事をしているとは思わなかったけどね。」

 藤宮は私に視線を向けながら周との再会を喜んでいた。


「おれも、まさかお前がこういう小汚い飲み屋に来るとは思わなかった。昔から綺麗好きだったやつが変わったもんだな。」


「まさか、元々は一緒に飲んでいた仲じゃないか。昔はあまり手持ちもなかったから任務を終わらせたら3人でこういう店に来たの覚えてない?」


「ああ、そうだったな...。」


 私たちを差し置いて周と再会のひと時を楽しむ藤宮、さっそく周は本題に入ることになり、藤宮はすみれの隣に座った。軽く2人は笑顔で会釈をした。


「それで藤宮、お前も下川戦線に放り込まれたのか。帝国の十将のお前がいいように使われてるなんてな。」


「まぁそれが帝国に恩恵を得られるなら何よりさ、それより僕からも一つ聞かせてくれよ。どうしてその女と一緒に行動するようになったんだ?君なら僕より、いや下手したら帝国の十将で1番強いはずなのになんで軍を抜けたんだよ...。僕たちは2人でここまで成り上がってきたじゃないか。」


 周はそれを聞かれて黙って酒を飲んでいる。おそらく藤宮にとっては信じられない光景なのだろう。かつての盟友が今や殺し屋の片棒を担いでいるのだから。


「やっぱり、まだ...。あのことが原因で軍を抜けたんだったらあれは」


「藤宮、それ以上言うならここで殺すぞ。」


 その目は静かに怒りを浮かべていた。私が今まで見たことのない周の顔、いつもちゃらんぽらんでさっきまですみれと殺し合いをしていたのに、乾杯して楽しんでるような人間なのに。その怒りに満ちた目を見た私とすみれも一瞬ビクッと反応してしまった。


「ごめん、関係ない人たちもいるし無粋だったね。本題に入るよ。」

 藤宮は内容を一つずつ話していく。

 「今回我々は麦国との共同作戦で阿国の軍を抑える。それに関してはそこのお嬢さんからも聞いたかと思う。今阿国内では新政府を樹立しようとする革命が起こっている最中、僕たちもそれに支援をして革命を成功させていくつもりなんだ。」

 この件についてはすみれからも聞いていた。問題はここから。

「革命が成功すれば新政府は我々連合国の味方になる、この戦争の均衡が大きく崩れて同盟国を討ち、戦争を終わらせる算段さ。もちろん僕たち帝国にも多大な恩恵が入るし君たち殺し屋もしばらくは遊んで暮らせる金が手に入る。悪い話じゃないでしょ?」



 藤宮は大まかに作戦を説明した、本来は私の仇敵の帝国と手を組むのはハッキリ言って今ここで舌を噛み切って死にたいくらいだ。だが受けると言った以上はやり切る、それで金を踏んだくってしばらくは身を潜めたいと考えている。欲しい服や化粧品だってあるんだから。


「まぁ、わかったよ。今回は帝国に従ってやるよ。」


 周はそう言って便所へ向かった。すみれも私と同じように酒に酔えないからとザルのように大量のお酒を飲んでいる。私もつまみを食べながらウイスキーをどんどん飲んでいく。最近帝国でも製造され始めたお酒だ。藤宮は静かに年代物の焼酎を飲んでいる。そして私の方をチラッと見てこう言った。


「普段は周は君と一緒の時はどう過ごしているんだい?」


「周?普段からおちゃらけたやつよ。いい加減なことばっか言ったり、よく若い女に声かけて遊んだりそんなんばっかよ。」


「なるほどね、彼らしいなほんとに。」


 周の過去を知っている藤宮。帝国にいた頃からあいつはあいつのままだったんだろうと私は思う。


 けど気がかりなこともある、なぜ十将にまで選ばれた周は帝国を抜けたのだろうか。そこまでの地位まで登ったのなら一生安泰で、緊急時以外は遊んで暮らせる人生を遅れるはずなのに。さっき話していたあのことが原因だろうか、気になって仕方ない。


「ねぇ藤宮、ずっと気になってたんだけどなんで周は帝国を抜けることになったの?私と初めて会った時もあいつボロボロの姿だったし。」

「そうだったんだ、あの時に君と出会っていたのか。通りで周が君に懐くわけだ。じゃあ少しだけ話すよ、彼には内緒だ。」


 含みを込めた言い回しで感慨深くなっている藤宮はそのことについて少しだけ語り始めた。


「僕と周がちょうど新たに十将に任命された頃にある事件が発生したんだ。元々僕たち2人は同じ人を好きになっていた。相手は軍学校の同級生でよく3人で寮を抜け出したり教官にイタズラをしたりして...。軍に所属してからも3人で任務をこなしたりした。阿国との戦争も乗り越えて僕たちはこのまま順風満帆にいくかと思っていた。」


 最初は少し微笑みながら話していた藤宮がだんだんと表情を暗くしていく。


「十将に選ばれてしばらくしたころ、彼女に子供ができたんだ。実は帝が彼女を気に入って強引に側室にしようとした。帝はこの国で1番の権力者、逆らえばよくて流刑、最悪は死罪は免れない。もちろん僕たちも話を聞いた時には驚いたし歯がゆい気持ちで一杯だった。

でも仕方なかったんだ。耐えなければ今までの努力が水の泡になってしまうから。そうしてしばらくして帝の子供を産んだ彼女は、最終的にどうなったと思う?

自分で頭を撃ち抜いたんだ、内心きっと辛かったんだと思う。真実を知るまでは...」


「真実?」


「実は彼女は自殺じゃなく他殺だったんだ。人の行動を意のままに操る十将の1人がやったんだ。それをいち早く知った周は激怒して彼を殺そうとした。けどできなかったんだ。あの男に一方的にやられてしまったんだ。

そうして反乱を起こした周は次々と帝国の追手を巻きながら逃げていった。多分君が出会ったのはちょうどその時だろうね。」


「そうだったのね。でもそいつは一体なんで彼女を殺したの?帝の側室を殺したなんて彼こそが裏切りをしているはずよ。話を聞く限りおかしなところがいくつもあるし。」


 誰もが気づくような違和感を指摘した私は一気に酒を飲み干した。この話には何か裏がある、そう思って警戒を続けていく。


「これ以上は話せない。話してしまえばきっと周やここにいるみんなは殺されてしまうからね。じゃあ明日の正午に港で待ってるよ。まずは目の前の戦争を終わらせよう。」


 藤宮はそう言い残して店を去って行った。踏み込んではいけない領域へと一歩足をかけようとしていたようだ。便所から戻って来た周は不思議そうな顔で。


「あれ、藤宮帰ったのか?」

「まぁそうね。それ飲み干したら私たちも出ましょう。」

「先輩もうちょっと飲みましょうよー。」

「あんた何杯飲むつもりよ!すみませんお会計!」


 そうして会計を済ました私は少し考えごとをしていた。周に一体何があったのか、踏み込んではいけないのかもしれないけど知りたいという欲求もあり狭間で葛藤している。

「じゃ先輩!ついに明日ですね!港で合流しましょ!それじゃあ!」

「おれももう一軒別のとこで飲むからここで、じゃあな。」

「ええ、また明日。」


 私たちはそれぞれの分かれ道で解散して各々の目的地に向かう。それぞれの思惑を胸に抱いて。
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