希望のマリス

希塔司

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chapter8:human nature

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 私たちは『ヒストリッカー』の巣にまんまと誘い込まれていた。その事実に皆が驚いていた。ある人物を除いては。


「なるほど、囲まれたのか。ならあの通路まで進んでくしか道はないな。

おい傭兵、まずは向こうのB-1エリアまで逃げるぞ。アラタくんツトムくんを3人で周りで囲みながら逃げればなんとかなるはずだ。」


 マコト様はいち早く落ち着きを取り戻していた。


「ちょっと待て、ホープにも戦わせる気かよ?」

「どうせ戦う能力は備えているんだろうアラタくん。いざという時に守ってもらえるように武器の使い方などの情報をインプットして。」


 確かに私は武器の使い方などはデータを見て記憶している。だが実戦はこれが初めてだ。そう上手くいけるかは私にもわからない。


「ふざけるなよ、ホープも私が守る!私たち2人で応戦すりゃいいだけだ!それで文句ないだろ!?」


 カスミ様は怒りを露わにしてマコト様に攻め寄っている。だがさすがにこの数を2人で戦わせるわけにはいかない。今はまず逃げることが先決なのだから。


「カスミ様、ご心配ありがとうございます。
大丈夫です、私も戦えます。マコト様、腰に着けているスペアのショットガンをお借りします。」


「絶対壊すなよ。」


 マコト様は私にショットガンを貸してくれた。その間に私はこの危機的状況を打開するために分析をしていく。高度な状況判断システムを使い、一体どれだけ倒せばいいかを判断する。すると演算中にアラタ様はあることを私に伝えた。


「いいかいホープ、まだあの武装は使っちゃダメだよ。今のホープじゃまだあれは扱えないから。」


「承知しております。お二人とも、分析をした結果1人当たり7匹倒せばこの状況を打開できそうです。」


「7匹か...。キツイけどそう言ってられないもんね。ホープヤバくなったらあんたも逃げることを考えるんだよ?」


「わかりました。ですが私は機械なので修理ができます。アラタ様もいますのでその場で応急処置も可能です。」


「話は終わったか?なら、行くぞ!!」


 そうして私たちはB-1エリアに向けてダッシュで逃げていく。ヒストリッカーの足は早いが集団で行動をしなかったのが幸運だった。

 2.3匹ずつぐらいで襲いかかってくる。それをカスミ様は刀で、私とマコト様はそれぞれ銃で応戦していく。
 
 次々と絶え間なく襲ってくるヒストリッカーの数の暴力に一瞬負けるのではないかと思ったが案外乗り越えられそうだ。


「すごいじゃないかホープ!もう4匹くらい倒してんじゃん!!私も負けてられないな!」


 カスミ様はさらに気合いを入れて5匹を連続で斬り殺していった。さすがは各地で戦って来た傭兵。初めて戦う相手にも対応していっている。

 そしてマコト様も次々と持っているマシンガンによってヒストリッカー達を撃ち殺していった。戦争を経験しているだけあって立ち回りがプロだ。

 私もその2人に負けじと追加で何体かを撃ち殺していった。ツトム様と同じように返り血を浴びたが気にせずに打っていった。2人は返り血すら浴びずに殺していくからやはり熟練度が違う。

 そうして私たちは上手く交わしつつ通路のシャッターを急いで閉めてもらい、中に避難することができた。まずは一息つける、そう思ったのも束の間。

 なんと通路の天井にも張り付いていた。そしてツトム様の上に飛び乗って来た!


「うわぁー!?」

「伏せてろ!」


 カスミ様とマコト様は同時に攻撃をして倒していく。ツトム様に大量の血がかかってしまう。


「助かった...。けどこいつらの血はマジでくせぇ!星の匂いもこいつらが原因だろ!アラタ頼むから今吐くなよな!」


「だ、大丈夫ですよ...」


 アラタ様は目を逸らしながらそう言うからみんな少しずつ離れていく。


「なんで離れるんですか!?」


 少し場が和めた気がした。だがこのままでは脱出もままならないと考えた私は解決策を模索していきながら先へと進んでいく。


       ーーーーーー

 私たちはそうしてB-1の管理コンピューターの制御室へとたどり着いた。幸い私たちは怪我はせずにいたから少し休んでから一度船へ帰還することになった。


「しっかしあいつらはどこからやってきたんだ?誰が何のために作ったんだかさっぱりわかんねぇよ。」


「確かに気がかりですよね。救助要請を受け取ってたった1週間でこんな惨状になっているとは思わなかったですよ。」


 あの生物についてわからないことがいろいろあるのは確か。繁殖させて一体どんなメリットがあるのだろうか。


「そんなものはどうでもいい。とにかくセンチョーさんと今連絡は取れるのか?」


「今やってますが一向に応答が...。あ、繋がりました!」


 トイレにこもっていた船長様と通信がつながった。


『私だ、何用かな?』


『センチョー!緊急事態です!マリスの開拓施設内部にて未知の生物と遭遇、内部にいる先遣隊はおそらく全滅しているかと!』


『何!?それは本当か!.........』


 船長様から応答がない。ジジジジとテレビの砂嵐のような音が通信デバイスから聞こえる。


『センチョー?センチョー!応答してください!?』


 するとすぐに通信が復旧をした。


『あぁ、すまないね。とりあえず引き続き捜索を続けてくれ。以上だ。』


 船長様はそう言うと通信が切れてしまった。


「センチョー?センチョー!...」


「どういうことだよアラタ。なんでまだ捜索しなくちゃなんねぇんだよ!?」


「そんなのわかりませんよ!きっと何かしらの情報とかがあるんじゃないですか?」


 2人は通信内容の不自然さに驚きを隠せない、そんな中ようやく解決策を見つけた私は提案を始める。


「お二人とも落ち着いてください。今検索したところ、この施設の地下に熱源を3つ確認致しました。

おそらくあの生物の巣がもう一つ、あとはもしかしたら逃げ延びた人たちが暖をとっている可能性があるかと。

何かしらの通信ができればきっとわかると思います。それにはもう一度さっきの通路を戻り、監視室に行ってその部屋にアナウンスが必要になりますが...。」


「はぁ!?ふざけんなよ!
あいつらの巣にもう一回突っ込むってか!?
冗談じゃねぇよ!あんな化け物二度と見たくねぇよ!!」


 ツトム様は私の胸ぐらを掴み怒りをぶつけてきた。力が強い。本当にあの生物に憎悪と恐怖と絶望を覚えたようだった。


「おい、やめろ。ホープは何も悪くねぇだろ、その手を離せ。切り落とすぞ。」


 カスミ様は私の胸ぐらを掴んでいる腕を思いっきり握って怒りをぶつけている。


「あぁ?事実を言っただけだろ?もし次突っ込んでおれたちまで全滅したらどうすんだよ?」


 確かにツトム様の言い分も理にかなっている。ミイラ取りがミイラになったら洒落にならない。


「わかりました。皆様はここで休んでいてください。私1人で監視室へ向かいます。武器の使い方もだいぶわかってきましたので、あの生物で練習をするのも悪くありません。」


「そうかい、名前の通り希望の申し子ってか?だったらなんとかしてみせてくれよ!?」


 完全にツトム様はパニックに陥っているようだ。そんなツトム様にマコト様が頬を叩き喝を入れていった。


「ツトムくん一度落ち着きたまえ。今こんな場所で言い争ったって何も意味なんてないんだぞ?機械に頼むのは癪だが人に頼むよりはずっと便利なはずだ。利用できるものはとことん利用した方がいいだろ。」


 マコト様は的確にツトム様を落ち着かせた。深呼吸をさせていって。そして私に威圧をしていく。


「そういうわけだ。お前1人で行ってこい。
本当にまだいるのなら何かしらアナウンスすれば応答があるはずだ。」


「わかりました。」


「おいみんな待てよ、本当にホープ1人に行かせる気かよ。」


「大丈夫ですよカスミ様。私にお任せください。」


 私はそう言って再び通路のロックを解除して戻っていく。幸いヒストリッカーは目の前にはいなかった。引き続き銃を構えながら先へ向かっていく。

 途中でまた数匹に襲われもしたが私は難なく対処していく。だんだんとこの生物の行動パターンが読めていくような気がしていた。


       ーーーーーー

 ホープが監視室へ向かっていた途中、通路にて私はみんなに向かって激昂していた。


「お前ら、それでも男かよ...!いくら機械だからって、ホープはまだ生まれたばっかの子供なんだぞ!人間だろうが機械だろうが関係ない!

あいつは...ホープはもう私たちの仲間だろうが!!」


「ですがカスミさん、僕たちじゃ今の状況を変えられないですよ。その点ホープにはいざという時のための武装をつけてます。様々なデータを入手して解決していく能力もあります。だから...。」


「そんなこと言ってんじゃねぇんだよ!!
アラタ、あんたそれでもホープの生みの親かい?普通まともな考えならあんな小さい子供を1人で危険な場所へ行かすはずないだろ!?

って待て、あんた武装をつけてるって言ったよね?もしかしてあんた...。」


「......」


私は黙っているアラタの間からついにあることを察した。そしてアラタを殴り胸ぐらをつかみ出した。


「ふざけんなよ!!ホープを、ホープを捨て駒にするつもりか!?」


「最悪の状況の場合は使用してくれと伝えてあるだけですよ!ただ余程のことがない限りは使用しないでくれとも...。

もし仮にそうなった場合は僕に一言連絡をくれとも...。」

 アラタは俯きながらみんなに武装について説明をしていた。いわばホープにとっての最後の手段について。作った本人がまさか自分が助かるためにホープを見捨てる判断をすることが1番許せなかった。


「あんたは親失格よ。子供を戦地に行かせて死んでこいって言ってるようなクズは、私は1番嫌いなんだよ!もういい!もうあんたはホープの面倒を見る資格なんてない!私がホープを必ず連れ帰る!」


 私はそう啖呵を切り、通路のロックを再び解除してホープを走って追いかけていった。


「どういうことだよアラタ、ホープに一体何仕掛けたんだよ...?」


「ホープには実は...」


 2人がそれを聞いた瞬間正にドン引きした顔を見せた。


「アラタくん、いくら私でも...いやハッキリ言える。君は最低な人間だよ。
戦争で機械を操るクズより遥かにクズだ。」


「おれも同じだ。お前がそんな人間だって思わなかった。」


2人がそう言ってアラタを責めると開き直ったかのように説明した。

「だって仕方ないじゃないですか...。いくら僕たちが何を持って伝えても....。



結局はただの機械じゃないですか...」


この危機的状況にてついにアラタは本性を2人に見せた。
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