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第一章 王都編
第二話 影
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__夢を描けば、黒く塗りつぶされ
__希望を覗こうとすれば、突き落とされ
__愛を知ろうとすれば、殺される
では一体、私たちは何のために生まれてきたのか。
「おい、逆ってどういう……」
「だから言ったでしょ、私の責務は勇者たちが来る前に魔人を討伐すること、言葉のそのままの意味です」
姿勢を低くして黒い魔人に飛び込む。
「すぐ終わらせます」
「待って!」
勝てるはずがない、あの得体の知らない…化け物に…。魔人の背部から2本、3本、4本、5本、うねうねと先端の鋭くとがった触手が生えてくる。
次の瞬間……
全ての触手が一点にニゲラの顔面に目掛け、突き出す。
「「キッーーン!」」
軽く剣の真ん中で受け、はらりと受け流す。…あれは道場の時の…、低くした姿勢をさらに屈め1メートル以内に接近した。
「uRusIKeg…uOkeZan…」
魔人の体が青い炎に包まれる、瞬く間に霧の空間を真っ青な炎へと変化、爆発的な勢いで空へうねり舞い上がった。
「ニゲラさん!」
炎が小さくなっていき、視界が開ける、ニゲラの姿はどこにもない、魔人はよちよちと歩きこちらに近づいてくる。
「…………ッ!」
「eEno…bOsaoB…oSa……」
剣に手を添え、抜刀の構えをする、手が、足が震えていることに今気づいた。…くそが…。あぁ、動かない…。
「陰流・抜刀」
「「ズバッーーー……」」
目の前の魔人が縦に真っ二つなる、上空から何かが降り落ちてきた。辺りには血のような靄のような黒い物質が飛び散る。
「大丈夫ですか」
「…ははっ、ははっ…」
やはりこの人は他の人と何か違う、目の前にはべっとりと黒い液体を浴びたニゲラが立っていた。ほんの数分である、ほんの数分で魔人を倒してしまった、言いたいことは山ほどあるが……。
「この魔人って」
ニゲラが強いことは一度会った時から分かっていた、それでも…この禍々しい生命体を倒したことに衝撃を覚える。
「何らかの方法で複数の魔術を使える化け物です、急所は人間と同じ、体に損傷を与えれば基本死ぬ」
真っ二つになった姿を見つめながらさらに続ける。
「今回のやつは魔力が莫大なくせに弱かったので助かりました」
魔力…、俺が肌で感じたものだろう、あんなの今までで初めての感覚だ。
「普通、訓練をしていない人は感じないほど微弱なのですが、クローバー様も感じるほど今回のは魔力量が大きかったということです」
なるほどね……、森林に充満していた霧が薄くなっていく、これが魔人討伐、俺は…手も足も出なかった。
「それより…、クローバー様が無事で何よりです」
俺を励まそうとするかのように、頑張った笑顔を見せた。
「いやーよくやってくれた」
ねっとりとした拍手、その言葉に心など籠っていないのが手に取るようにわかる。はっと振り返ると兄上と貴族の子供たちがぞろぞろとやって来た。
「おっ、まじかよ真っ二つじゃん」
「うわっ気持ち悪い」
「…………」
さらにその奥にはニゲラと同じ奴隷兵、ブルースターがいた、なぜか左頬が腫れている。
「よし上出来だ、さっさと王宮に持ち帰るぞ」
玩具をもらった子供のように上機嫌な兄、横の貴族の女ロベリア・シレネは怪訝そうに魔人の死体を見つめている。ブルースターは背負っていた大きな袋から黒縄を取り出し、魔人本体を縛っていく。ニゲラはその袋に黒い残骸を詰めた。
「なぁカモミールさん…」
大商人の子供、ダリア・アイビーが謙りながら訪ねる。
「この討伐の報酬の割合って…」
兄上は考えている風にふんっ、と顎を撫でる。
「そうだな、大体僕が3割、弟が1割、あとはアイビー、シレネ、グラジオラスで6割を山分けしてくれ」
「ははっ、流石カモミールさん」
「あっ、あと」
「この魔人を討伐したのは僕だ」
勇者パーティーの勇者たちは高らかに笑う、そうか、討伐前に準備なんか必要ないと言っていたのはこういうことだったのか、じゃあ何のために昨日まで頑張ってきたのだろうか、いやそんなことはどうでもいい、それよりも…ニゲラたちは……一体。
「勇者様!」
ブルースターが悲鳴に近い声で呼ぶ。
「なんだ」
「片方…ありません」
「はっ?」
ブルースターが黒縄で縛っていたのは魔人の右側部分、そして、もう片方は…。
「ない」
森の様子が変わっていたことにようやく気付く、霧が濃くなっている。
「おい、奴隷共どうなってんだ!」
カルミア・グラジオラスはブルースターに迫りよる。
「すみません、わからないです」
「お前、もう一発殴られたいのか」
拳をブルースターの左頬に近づけた。
「そんなことしている場合じゃありません」
ニゲラの声はもう誰にも届かない、肌に先ほどと同じ痛みが…、いや……。
「「ウギャーーッ……」」
体全身を裁縫の針で貫かれたような激痛、シレネとアイビーが気絶する。
「nD…n…a…n…edN……an…e…dnAN!!」
先程までの理解不能な声。
「魔人だ…」
左半分になった赤黒い魔人、しかも…少しずつ大きくなっていく。
「まさか…再生魔術」
切り裂いたはずの半分が新しく再生していく、さらに、先程よりひと回り巨体化。
「ブルースター、勇者たちを非難させてくれ」
「あぁ…」
「勇者様たちは逃げてくださ…」
兄はグラジオラスと一緒にすでに逃げ出していた、女貴族だけを抱きかかえ走り出す。
「アイビー様は…」
気絶して倒れたまま放置されている。
「俺が担ぎます」
時間がないので、俺が何とかするしかない、このままではアイビーは……。
「eEno…bOsaoB…oSa…」
「えっ…」
この世にはプラナリアという生物がいるらしい、ナメクジを薄平たくしたような見た目である、そのプラナリアは体を真っ二つに斬られると…、頭のほうや、体の方からも再生するらしい、そして……。
「nD…n…a…n…edN……an…e…dnAN!!」
黒縄がボロボロに切り裂かれている、縛っていたはずの右側が…、むくむくと再生していく。生えてきた触手でアイビーの体に絡ませる。
「おい、何して…」
「「グシャーッ…」」
右手…、左足……、頭、左手…、胴……、ばらばら…、…えっ、何してんの…、えっ、あっ、頭が。
ごろごろと転がってくる。
「ひィッ…!」
「だめだ、あの貴族はもう、クローバー様、逃げますよ!」
ブルースターに抱えられ霧の端まで向かう、背後では触手でアイビーの残骸を大事そうに抱えた魔人の姿…。
「あぁ…ニゲラさんは…」
「大丈夫です、あの人は…」
「助けに行かなきゃ… 」
「クローバー様…」
静かに、諭すように吐き出す。
「大丈夫です」
霧を抜けたが、まだスピードを落とさない、もっと遠くへ走る。
______________________
魔人が2体に増えた、別の1体はジッとしているが、もしも斬ってまた分裂したら……ただでさえ先程よりもパワーもスピードも高いのに…。
「陰流・十戒斬」
本体を傷つけないよう、危険な触手だけを斬り落とす。
「eEno…bOsaoB…oSabOsaoB…oSa……eEno…」
「だまれっ!」
さらに4本の触手が生えてくる、もう一度構え受け流す、が別の方向からも追撃が来る。触手を二手に分けやがった、コイツ学習してる。
「あぁーーっ!!」
______________________
魔人から逃げて2時間がたった、兄とグラジオラスはぐったりと地面に座り込み、小さな音にも敏感に反応し震えあがる、シレネはまだ眠っている、ブルースターはシレネの治療をしていた。俺は……。
「あと30分様子を見たら王宮に戻りましょう、…責任は私が取ります」
頷くでも、否定するでもない音で男2人は反応する。
「クローバー様も身支度をしておいてくださ…」
周りをぐるりと見渡す、ぐったりとした勇者2人、後ろには寝ている治療中の勇者だけ…。
「クローバー様…」
この世の中はもう少し平等で、幸せな事の方が多いと思っていた、思いたかった。きっと、自分が知らないだけでずっとこんな……汚いことが続いていたのだろうか。
魔人の境界を沿い森の中へ歩いていく、俺は昔から基本的に何でもできた、剣術も、武芸も、学問もすべて、そんな自分を周りは囃し立て、そんな自分が大好きだった。
しかし、今日自分が……。
魔人がいた時よりも充満していた霧が減っている、少なくなった霧は地面に50センチ程溜まっていた。…謝らなくては、ニゲラに、壁役?、とんでもない、あなたこそが勇者だと…、そう…。
戦いの場にたどり着く、もう魔人はいない、いないのに…肌がピリピリする。ニゲラさん…、ニゲラさんは。どこからか呻き声が聞こえる、左の木の根元に座り込んだニゲラさんがいた。すぐに駆け寄る、息はしている、ゆっくりと目を開けこちらを見る。
「…クローバー様……」
「ニゲラさん、早く王宮に戻って手当てを…」
「クローバー様…ちょうど良かった実は頼みたいことが」
そんなことは後でいい、…やめてくれ、下を見たくない。
「はやく治療を…」
「この時計を、ある女の子に渡してほしい」
「わかったから、それはするから…頼むから」
生まれて初めて霧に感謝した、こんな光景を…直接見たくない。
「治療を…」
顔からも血が出てきているがこれはまだ何とかなる、上半身…切り裂かれたような跡とともに、下半身は、無くなっていた。
「クローバー様、私はこれが責務です、仕方なかったんです」
「…………」
この国はいつだって平和だった、小さな戦いすら起こらないほど、完璧に見えていた。
「あの道場で話しておきたかったのですが、今しかないので伝えておきます……」
この国には重要な仕事が2つあります、1つはこの美しい街、美しい自然、その全てを守っている…勇者様です。すべての人から愛され、称賛され、崇められた、そんな人たちです。そしてもう1つ、汚れ切った人、汚れ切った時代、そのすべてを背負う…奴隷兵です。誰からも知られず、見られず、称賛されない、ただ汚れ仕事をする…それが、私たちです。クローバー様、あなたは……。
「本物の勇者になってください」
『影の勇者~この世界を守っていたのは勇者でも賢者でもなく奴隷戦闘部隊だった~』
__希望を覗こうとすれば、突き落とされ
__愛を知ろうとすれば、殺される
では一体、私たちは何のために生まれてきたのか。
「おい、逆ってどういう……」
「だから言ったでしょ、私の責務は勇者たちが来る前に魔人を討伐すること、言葉のそのままの意味です」
姿勢を低くして黒い魔人に飛び込む。
「すぐ終わらせます」
「待って!」
勝てるはずがない、あの得体の知らない…化け物に…。魔人の背部から2本、3本、4本、5本、うねうねと先端の鋭くとがった触手が生えてくる。
次の瞬間……
全ての触手が一点にニゲラの顔面に目掛け、突き出す。
「「キッーーン!」」
軽く剣の真ん中で受け、はらりと受け流す。…あれは道場の時の…、低くした姿勢をさらに屈め1メートル以内に接近した。
「uRusIKeg…uOkeZan…」
魔人の体が青い炎に包まれる、瞬く間に霧の空間を真っ青な炎へと変化、爆発的な勢いで空へうねり舞い上がった。
「ニゲラさん!」
炎が小さくなっていき、視界が開ける、ニゲラの姿はどこにもない、魔人はよちよちと歩きこちらに近づいてくる。
「…………ッ!」
「eEno…bOsaoB…oSa……」
剣に手を添え、抜刀の構えをする、手が、足が震えていることに今気づいた。…くそが…。あぁ、動かない…。
「陰流・抜刀」
「「ズバッーーー……」」
目の前の魔人が縦に真っ二つなる、上空から何かが降り落ちてきた。辺りには血のような靄のような黒い物質が飛び散る。
「大丈夫ですか」
「…ははっ、ははっ…」
やはりこの人は他の人と何か違う、目の前にはべっとりと黒い液体を浴びたニゲラが立っていた。ほんの数分である、ほんの数分で魔人を倒してしまった、言いたいことは山ほどあるが……。
「この魔人って」
ニゲラが強いことは一度会った時から分かっていた、それでも…この禍々しい生命体を倒したことに衝撃を覚える。
「何らかの方法で複数の魔術を使える化け物です、急所は人間と同じ、体に損傷を与えれば基本死ぬ」
真っ二つになった姿を見つめながらさらに続ける。
「今回のやつは魔力が莫大なくせに弱かったので助かりました」
魔力…、俺が肌で感じたものだろう、あんなの今までで初めての感覚だ。
「普通、訓練をしていない人は感じないほど微弱なのですが、クローバー様も感じるほど今回のは魔力量が大きかったということです」
なるほどね……、森林に充満していた霧が薄くなっていく、これが魔人討伐、俺は…手も足も出なかった。
「それより…、クローバー様が無事で何よりです」
俺を励まそうとするかのように、頑張った笑顔を見せた。
「いやーよくやってくれた」
ねっとりとした拍手、その言葉に心など籠っていないのが手に取るようにわかる。はっと振り返ると兄上と貴族の子供たちがぞろぞろとやって来た。
「おっ、まじかよ真っ二つじゃん」
「うわっ気持ち悪い」
「…………」
さらにその奥にはニゲラと同じ奴隷兵、ブルースターがいた、なぜか左頬が腫れている。
「よし上出来だ、さっさと王宮に持ち帰るぞ」
玩具をもらった子供のように上機嫌な兄、横の貴族の女ロベリア・シレネは怪訝そうに魔人の死体を見つめている。ブルースターは背負っていた大きな袋から黒縄を取り出し、魔人本体を縛っていく。ニゲラはその袋に黒い残骸を詰めた。
「なぁカモミールさん…」
大商人の子供、ダリア・アイビーが謙りながら訪ねる。
「この討伐の報酬の割合って…」
兄上は考えている風にふんっ、と顎を撫でる。
「そうだな、大体僕が3割、弟が1割、あとはアイビー、シレネ、グラジオラスで6割を山分けしてくれ」
「ははっ、流石カモミールさん」
「あっ、あと」
「この魔人を討伐したのは僕だ」
勇者パーティーの勇者たちは高らかに笑う、そうか、討伐前に準備なんか必要ないと言っていたのはこういうことだったのか、じゃあ何のために昨日まで頑張ってきたのだろうか、いやそんなことはどうでもいい、それよりも…ニゲラたちは……一体。
「勇者様!」
ブルースターが悲鳴に近い声で呼ぶ。
「なんだ」
「片方…ありません」
「はっ?」
ブルースターが黒縄で縛っていたのは魔人の右側部分、そして、もう片方は…。
「ない」
森の様子が変わっていたことにようやく気付く、霧が濃くなっている。
「おい、奴隷共どうなってんだ!」
カルミア・グラジオラスはブルースターに迫りよる。
「すみません、わからないです」
「お前、もう一発殴られたいのか」
拳をブルースターの左頬に近づけた。
「そんなことしている場合じゃありません」
ニゲラの声はもう誰にも届かない、肌に先ほどと同じ痛みが…、いや……。
「「ウギャーーッ……」」
体全身を裁縫の針で貫かれたような激痛、シレネとアイビーが気絶する。
「nD…n…a…n…edN……an…e…dnAN!!」
先程までの理解不能な声。
「魔人だ…」
左半分になった赤黒い魔人、しかも…少しずつ大きくなっていく。
「まさか…再生魔術」
切り裂いたはずの半分が新しく再生していく、さらに、先程よりひと回り巨体化。
「ブルースター、勇者たちを非難させてくれ」
「あぁ…」
「勇者様たちは逃げてくださ…」
兄はグラジオラスと一緒にすでに逃げ出していた、女貴族だけを抱きかかえ走り出す。
「アイビー様は…」
気絶して倒れたまま放置されている。
「俺が担ぎます」
時間がないので、俺が何とかするしかない、このままではアイビーは……。
「eEno…bOsaoB…oSa…」
「えっ…」
この世にはプラナリアという生物がいるらしい、ナメクジを薄平たくしたような見た目である、そのプラナリアは体を真っ二つに斬られると…、頭のほうや、体の方からも再生するらしい、そして……。
「nD…n…a…n…edN……an…e…dnAN!!」
黒縄がボロボロに切り裂かれている、縛っていたはずの右側が…、むくむくと再生していく。生えてきた触手でアイビーの体に絡ませる。
「おい、何して…」
「「グシャーッ…」」
右手…、左足……、頭、左手…、胴……、ばらばら…、…えっ、何してんの…、えっ、あっ、頭が。
ごろごろと転がってくる。
「ひィッ…!」
「だめだ、あの貴族はもう、クローバー様、逃げますよ!」
ブルースターに抱えられ霧の端まで向かう、背後では触手でアイビーの残骸を大事そうに抱えた魔人の姿…。
「あぁ…ニゲラさんは…」
「大丈夫です、あの人は…」
「助けに行かなきゃ… 」
「クローバー様…」
静かに、諭すように吐き出す。
「大丈夫です」
霧を抜けたが、まだスピードを落とさない、もっと遠くへ走る。
______________________
魔人が2体に増えた、別の1体はジッとしているが、もしも斬ってまた分裂したら……ただでさえ先程よりもパワーもスピードも高いのに…。
「陰流・十戒斬」
本体を傷つけないよう、危険な触手だけを斬り落とす。
「eEno…bOsaoB…oSabOsaoB…oSa……eEno…」
「だまれっ!」
さらに4本の触手が生えてくる、もう一度構え受け流す、が別の方向からも追撃が来る。触手を二手に分けやがった、コイツ学習してる。
「あぁーーっ!!」
______________________
魔人から逃げて2時間がたった、兄とグラジオラスはぐったりと地面に座り込み、小さな音にも敏感に反応し震えあがる、シレネはまだ眠っている、ブルースターはシレネの治療をしていた。俺は……。
「あと30分様子を見たら王宮に戻りましょう、…責任は私が取ります」
頷くでも、否定するでもない音で男2人は反応する。
「クローバー様も身支度をしておいてくださ…」
周りをぐるりと見渡す、ぐったりとした勇者2人、後ろには寝ている治療中の勇者だけ…。
「クローバー様…」
この世の中はもう少し平等で、幸せな事の方が多いと思っていた、思いたかった。きっと、自分が知らないだけでずっとこんな……汚いことが続いていたのだろうか。
魔人の境界を沿い森の中へ歩いていく、俺は昔から基本的に何でもできた、剣術も、武芸も、学問もすべて、そんな自分を周りは囃し立て、そんな自分が大好きだった。
しかし、今日自分が……。
魔人がいた時よりも充満していた霧が減っている、少なくなった霧は地面に50センチ程溜まっていた。…謝らなくては、ニゲラに、壁役?、とんでもない、あなたこそが勇者だと…、そう…。
戦いの場にたどり着く、もう魔人はいない、いないのに…肌がピリピリする。ニゲラさん…、ニゲラさんは。どこからか呻き声が聞こえる、左の木の根元に座り込んだニゲラさんがいた。すぐに駆け寄る、息はしている、ゆっくりと目を開けこちらを見る。
「…クローバー様……」
「ニゲラさん、早く王宮に戻って手当てを…」
「クローバー様…ちょうど良かった実は頼みたいことが」
そんなことは後でいい、…やめてくれ、下を見たくない。
「はやく治療を…」
「この時計を、ある女の子に渡してほしい」
「わかったから、それはするから…頼むから」
生まれて初めて霧に感謝した、こんな光景を…直接見たくない。
「治療を…」
顔からも血が出てきているがこれはまだ何とかなる、上半身…切り裂かれたような跡とともに、下半身は、無くなっていた。
「クローバー様、私はこれが責務です、仕方なかったんです」
「…………」
この国はいつだって平和だった、小さな戦いすら起こらないほど、完璧に見えていた。
「あの道場で話しておきたかったのですが、今しかないので伝えておきます……」
この国には重要な仕事が2つあります、1つはこの美しい街、美しい自然、その全てを守っている…勇者様です。すべての人から愛され、称賛され、崇められた、そんな人たちです。そしてもう1つ、汚れ切った人、汚れ切った時代、そのすべてを背負う…奴隷兵です。誰からも知られず、見られず、称賛されない、ただ汚れ仕事をする…それが、私たちです。クローバー様、あなたは……。
「本物の勇者になってください」
『影の勇者~この世界を守っていたのは勇者でも賢者でもなく奴隷戦闘部隊だった~』
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