夜行少女~真夜中に出会ったのは亡くなった女子高生だった~

みなづき

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5話 未成年の主張

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 日が落ち始めたころ、夕食のためスーパーに寄っていた。
日曜日だからだろうか、人が多い気がする、普段この時間帯に
スーパーにはいかないため分からないが…。

 後ろにはひなたがいる。幽霊は出られる時間が決まっていたのかと
思っていたがそんな事はなく、夕方過ぎでもベンチに座っていた。

「何食べるの?」
「いや、何も決めてない」

 強いて言えば和食系が食べたいな、いつもはコンビニ食で
パスタだの、パンばかり食べているので最近恋しくなってきた。

「見ながら決める」

 先ほどから、ひなたはじろじろと他の一般客を見たり
定員さんに話しかけたりしていたが誰も見向きもしない、
本当に空気のようだ。

「なあ、本当に幽霊なんだな、お前」
「そうだけど…てか人前でしゃべりかけたら
 自分変な奴みたいに見えるよ」

 たしかに、周りからみたら、ぶつぶつと独り言を
言っているやばいやつに見えるのか。さっきすれ違った人に
嫌な顔をされたのはそれが理由で…。

 これ以上喋らないでいこ…。

 しばらく野菜コーナーや肉売り場を見たが、結局
お総菜売り場に来てしまった。旨そうな唐揚げやら
串焼きなどが大量にある。
 まあ、やっぱりこういうのでいいや。
 
 何品かをかごに入れ、申し訳程度にミックス野菜パック
も入れる。そういやさっきからひなたの姿が見当たらない。

 しばらくフロア一帯を回っていくと飲料コーナー
に突っ立ている陽の姿があった。

「もう行くけど」
「そ、了解」

 視線の先には銀色のビール缶がある。

「お前未成年だから飲めねーぞ」
「分かってるわ、そんなの」

 レジに並び、財布から千円札を何枚か抜き出す。
 いつもはこんな買い方しないんだけどな、あの女と
会ってから自分の財布のひもが緩くなっている気がした。

「先に出口行ってるから」

 何も言わず、頷いておく。

 買い物が終わり、二人横になりながら
だらだらと喋り流す。

「やっぱり人が多いとこだと喋りずらいね」
「まー、俺が頭おかしく見えるからな」

 これからは声量も気にして喋るかと、約束を決めると
公園前についていた。

「じゃ、また明日、行けたらだけど」
「えー、もうちょい居ようよ」

 今は季節に合わない、薄着の長袖を着ているから
できれば早く帰りたい。それに構わずひなたは駄々をこね続けた。

「じゃ、家来るか?」

 女子高生の幽霊は目を輝かせた。

 嫌な顔して断るかと思ったが、首をブンブン振り
第一声には、レッツゴーと俺の背中を押してアパート
に向かっていた。ほぼおじさんのボロアパートに行くのに
抵抗とかはないのだろうか。

「なあ、言い出したのは俺だけど、本当に来るのか」
「当ったり前!早く開けて」

 ドアの前で今度は俺が駄々をこねる。
手に握っていた鍵を強引に奪い取ると勢いよく開けた。

「おっ、予想より綺麗じゃん」
「あんま物色するなよ」

 豪快な足音を立てながら部屋の方へ進んでいく。
幽霊なので近所迷惑とかにはならないと思うが、いや
むしろ足音はきこえるのか…、なんだか下の階の人に
申し訳ない。

「一応静かにしててくれ」
「ん、うん」

 まるで自分の家であるかのようなくつろぎっぷりだ。
最近俺に対して遠慮が無くなっている気がする。

「おい、俺が飯食い終わったら帰ってくれよ」
「どこに?」

「そりゃ…外に」
「非道だね」

 こいつっ、時刻は18時過ぎでまだお腹もすいていないが
夕食にする。

「そういやさー、柴春しばはるんの恋事情は最近どうよ」
「あ、もう話さねーて言ったよな」

 小さい机を出してさっき買ったお惣菜を並べていく。

「ねえ気になるって、ちょっとだけ教えてよ」
「…まあ、普通ーっだよ」

 こうなると、長いので仕方なくあやふやに話す。

「ご飯とか行ったの?」
「…ああ、うん」

 あの飲み会以降、倉木さんと以前よりも会話する機会が増え、
最近ついに二人で飲みに行くことがあった。
 まあ、それ以上でもそれ以下でもなかったが…。

「じゃあ、進展ありだね」
「飯行くくらいあるだろ普通に」

 そんな風に言われるとわんちゃん脈ありなのか、と
考えてしまうからやめてほしい、意外と純粋なんだ俺は。
 唐揚げを口に運ぶ、んん、旨い、久しぶりに食べると
おいしさが別格に感じる。

「…ちょっと頂戴?」
「はっ、お前食えんのか」

「だから一応食べれるよ、お腹すかないだけで」

 なんだか、あげないと呪ってきそうだったので
仕方なく一つお皿に取り分けてやる。

「うーん、おいしっ、久しぶりに食べた…」

 本当に美味しそうに食いやがる。
 俺ももう一個口に放り込んだ。

「ねー、」
「ん?」

「今からめちゃ重い話していい?」
「おもい…、なんだ急に…」

「私が死んだ理由」

 空気が一瞬で凍り付いていくのが肌でわかる。
なんで急に、俺自身そういった話には踏み込まないように
していたが、自分から言い出すのは…。

「あっ、別に真剣に聞かなくていいよ、
 聞き流してくれても…」
「いや、そんなことしないけど」

「…なんか、言っといたほうがいいかなって」

 そこから、ひなたは一言一言、自分の記憶をなぞるように
話していった。そこで俺は、初めて陽が一家心中で亡くなった
ことを知った、母親と練炭自殺を謀ったそうだ。

「…お母さんがね、私がほんと小さい時から
 宗教っていうの?そういうのをずっとやっていて、
 私もよくサークルに付き添ってたの…」

 母親は精神的に弱く、支えを欲していた、何かの支えが、
母親の拠り所になったのが、夫でも友達でもなく、スピリチュアルだった。

 しかし、拠り所を得ると共に、母親は多額のお金を差し出していた。

「私が中学生の頃ね、家によくわからない鈴とか、お札みたい
 なのがどんどん増えていっていたの。初めは貰ったのかなって
 あまり気にしてなかったけど、実は全部買ってたらしいの…」

 だんだん、お金に余裕がなくなっていく中、母親の
宗教へのめり込んでいく、そして…。

「なんかねー、最後らへんはあんまり覚えてないや」
「…お父さんとかは、どうしてたんだ…」

「私が小さい時に離婚してる、でも養育費とは別の
 お金も入れてくれてたみたいだけど、それも全部ね…」

「………」

 言葉が出なかった、何もしてあげられない、もう遅い。

「話聞いてくれてありがとね、柴春しばはるには言っとかなきゃ
 と思って」
「いや、そんな…」

「じゃっ、もう帰るわ、実は話聞いてほしかった
 だけなんだー」
「…あぁ」

 満足したー、とばかりにニコニコしながら
立ち上がる。

「…送ってく」
「おっ、ありがとー」

 時刻が何時かはわからない、おそらく19時にはなって
いるだろう、公園まで縦一列で歩き続ける。

「…なぁめちゃくちゃ重い話していいか」
「えっ、何なに、私の真似ー」

 沈黙を潰したくて、いや…彼女に言わなくてはいけないと
思い、話をきり出す。

「前にさ、夢があるって話したじゃん」
「あー、あったね、結局言ってくれなかったやつ」

「あれさ、将来の夢、俺小説家になりたかったんだよ」
「あー、だから出版系の仕事にしたんだ」

 今まで誰にも言ってこなかった、言うつもりもなかった。

「でも、親に言った時さ、ただ諭すようになだめられて…
 そりゃそうだな、って」
「……うん」

「けどさ、諦めきれなくて、醜い抵抗で出版社に
 入っちゃたりさ、親も呆れてて…」
「………うん」

「でも、入ったはいいけど自分の思ってたことと
 全く違ってて、あれ、まじで俺何してんのみたいな…」
「………うん」


「それでさ…」

 目の奥に涙が溜まっていく。
あれ、マジで何言ってんだ、結局何が言いたいんだっけ。
本当に言いたいのは…。

「………」
「………」

「それでも、俺は、この仕事まだ…」
「…そか」

 本当に言いたいことはこんなことじゃない、本当は…。

「…ひなたが言いたかったことって、こんなことじゃないだろ」
「…えっ、どういうこと」

「本当は自分が亡くなったことじゃなくて…」
「……」

 いつの間にか、いつもの公園に着いていた。
 中に入り、陽はベンチに座る。

「前にさー、夢が見つかったら話すねって言ったでしょ」
「ああ、言ってた」

「見つかった」
「…………」

 ベンチの横をポンポンと触り、俺が横に来るように促した。
そっと彼女の横に座る。

「私さ、お酒飲んでみたかったんだ」
「…酒か」

「うん、それもお母さんと一緒に、こんなこと
 あったねって、夜中にさ」
「…」

「ほんとは、お父さんとも色々したかったの、
 死んじゃう前に会ったんだけど、すごく優しくてさ」
「…」

 鼻がつんと痛くなる、彼女の声がだんだんと細くなり、震えていく。

「本当はね、お母さん生きてほしかった、私と
 死ぬんじゃなくてさ、もっとさ、もっと」
「…」

「本当はね、学校の卒業式もしたかったの、
 大学も、成人式も…」
「…」

 涙が出ていた、二人、ただただ、涙を流していた。

「本当はさ…、もっと…もっと…」
「……っ」

 声が嗚咽にかわり、むせび泣く、ずっと溜めてきた言葉。

「 …ううっ うっ…っう、…もっと生きッたかった…」
「…っ…っっう…あぁ」

 いつも間にか、ぎゅっと寄り合い、声を上げて泣いていた。

 ずっと我慢していたんだろう、いつも通りな顔をして、
ずっと一人で公園にいた彼女が、どれほど苦しく、心を
壊していたのか。ようやく理解した、理解しようとした。

 遅かったなんて、ただの自己満足でしかなかった。

 暗闇の中、二人、涙をながし続けた。
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